第40話【サボりアリの誠】
「この中で……話が得意な人って、どれくらい居る……?」
伊藤は少し高く幼い声で、僕らに向けてそう言った。その声は純粋な疑問というよりも、どこか戦略的な問いかけといった感じで、僕らにはその意図がイマイチわからなかった。
わざわざ聞いてくるってことは何か考えがあるんだろうけど……。でも、一体何なんだろう。
僕は伊藤に目をやりながら、無言でそう考えていた。
「俺は話すの好きやし得意だと思うでー」
「まあ、それで言うなら俺も営業職だからな」
スっと、山本と悟さんが手を挙げて、「我こそは」と名乗り出る。2人の顔には特に感情は乗っておらず、ただ「条件に当てはまるから名乗り出た」、というような思考のプロセスが垣間見えた。
ふと周りの人に目をやると、皆も特に疑問を抱いている様子は無く、ただ会話の続きを待っている。
……あれ。もしかしてこれ、内容を理解できていないの僕だけか……?
「な、なあ伊藤……トークスキルって、なんで重要なんだ……?」
僕はなんだか不安になってしまって、目の前に座る伊藤にそう尋ねた。正直、僕だけが理解していないという事実がとても恥ずかしかったけれど、でも、ここで聞かなければ聞くチャンスをほぼ確実に失ってしまう。
僕はそういう予感と危機感を理由に、伊藤にそう質問したんだ。
もしかしたら笑われるかもしれない。皆から「こいつ、そんなのもわかってなかったのか……」って目で見られるかもしれない。
でも、今ならたぶん――……!
「あ、トークスキルね。えっと……ルールの紙を見てくれればわかると思うんだけど、プレゼン用に動画を取らなきゃいけないでしょう?」
「あ、ああ」
「だから、絵に15人割くよりも、最初からプレゼン担当を作った方が良いかなーって思って……」
「…………なるほどな」
……ああ。僕、ここ数日に修羅場を潜り抜けすぎて、テンションがおかしくなってるんだ。
僕は、簡単な質問なのに熟考してしまっていた自分に気づき、どこか気恥ずかしくなってしまった。伊藤も皆も、僕に対して何の感情も向けていないし、僕だって、こんな質問で何かを考えたりしない。
デスゲームが始まってから緊張の連続で、1度の判断ミスが命取りになって……。そのせいで何度も傷ついたし、迷惑も、沢山かけた。だから、きっと僕は忘れていたんだ。
……深く考えずに動く。息抜き、という貴重な時間を。
ああ、2日間で1つのゲームをするってことでだいぶ不安になっていたけれど、これはむしろ、チャンスかもしれない。
「……じゃあ、僕もプレゼンがいいかな。文章を考えるのは得意なんだ」
だって、これは3日間心を壊し続けた僕にとって……本当に貴重な休息だから。
♤♤♤
「……というわけで! 我ら、プレゼン頑張り隊! 行くで〜? マッスルマッスルー!!」
「「…………」」
部屋の奥に陣取った僕と悟さんは、山本のよくわからないチーム名と絶妙にダサい掛け声を前に、本当に微妙な顔をしていた。本気でこれがカッコイイと思ってるのか、山本の顔には一切の曇りが無い。それどころか、僕らが当たり前のように微妙な反応をしたことにショックを受けたようで、徐々に萎んだ風船のような顔になっていく。
「……お前ら……酷いてぇ…………」
ひどいのは山本のセンスの方だ。
僕と悟さんは顔を見合わせると、どちらからともなく山本に寄り添い、慰めるように声をかける。
「スマンな山本……まあ、次回頑張ろうぜ……?」
「そうだよ山本。ほら……センスは磨くものだから」
「全然慰める気無いやんけ!! 暗にダサいって言うなし!!」
僕らは山本をからかうように声をかけて、ははは、と軽い笑いを零した。不貞腐れたような表情の山本に「ごめんごめん」と軽い謝罪を口にして、僕らの活動は始まった。
「さて、俺らはプレゼン係になった訳だが……一応概要を確認しておくか」
悟さんがそう切り出して、ルールの確認を行っていく。ルールと言っても、僕らプレゼン組が関係あるルールは1個だけだから、ほとんど考えることのないルール確認となった。
僕らプレゼン組に関するルールはただ1つ。
動画の尺は1分未満で、内容はスタッフが確認すること。
これは、要は「デスゲームをさせられています。助けてください」みたいな救助要請が出せないという意味であり、時間以外は特に指定が無いということだ。
つまり、この1分間をどう有効利用するか……それが、このゲームの争点になってくる。
仮に絵のクオリティがどれだけ良かったとしても、プレゼンでゴミみたいなトークをしようものなら僕らに待っているのは「死」だけになる。
絵に自信が無くてもトーク力で巻き返せるということからもわかるけど、これは、要は本当の意味で「才能教育」というデスゲームが始まったことを意味する。
ギフトならきっとこう言うだろう。
「今回見させていただいた才能は、芸術センスと、トーク力です」と。
僕は過去2回の講評でギフトが口にした言葉を元にイマジナリーギフトを創り出すと、それっぽい言葉を並べると同時に、確信めいた予測をした。
ああ。今日は気が楽だ。明日の命に怯える必要も無いし、ギフトが求めることも予測できる。
僕は今までで一番気楽な気持ちでそう思うと、山本たちに視線を向けた。
「おーん、早速プレゼンを考えたいけども……。これ、どういうプレゼンにすりゃええんやろ……」
「確かにな……。まだ原案しか無い状態だから、俺らの台本がボツになる可能性は高い……」
山本も悟さんも……とても真剣に考え込んでいる。もちろん僕だって考えているけれど、でも、なんだか2人の熱量は、僕よりも遥かに上な気がした。
あれ。僕は気楽でいることに嬉しさを感じていたけれど……もしかして、僕だけが気楽に思ってるだけで、事態って意外に深刻なのかな。というか、相手がラフに居てくれないと、僕もラフになりづらいぞ……。人間関係もそういうもんだよな、なんてな……ハハハ……。
「とりあえず1分がどんくらいか数えて見るか。部屋に時計あるしな」
「ぁ…………」
「お! はいはい! じゃあ好きな何かについて1分話したらどうや!? こういうのは実践あるのみやと思う!」
「えと……」
「お、いいな! じゃあそれで、まず俺からでいいか?」
「は、はは…………」
あれ、なんだか着いていけない。
僕はさっきまで出来ていたはずの相槌が全く出来なくなってしまい、つい、乾いた笑いを零した。山本が変わったわけじゃない。悟さんが変わったわけじゃない。でも、僕が気楽で良いんだと思った時から……なんだか、歯車が噛み合わないみたいだ。
別に2人との仲が悪くなった訳じゃないのに。
僕は、2人を遠く感じる。
僕は唐突に僕の眼前に現れた課題に対し、どうすれば良いかわからなくなってしまった。今日は気楽に過ごすはずだったのに。楽しく、皆と一緒に、ラフにって――……。
「えー、じゃあ、俺の好きなマンガについて話します!」
「おー! パチパチパチー!」
「題名は、『元営業職の俺、朝起きたらTS美少女になっていたので持ち前の営業スキルを駆使してNo.1キャバ嬢を目指します!』」
僕がこの現象に「働きアリの法則」という名前があると知るのは、もう少し先のことである。
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