第30話【天才への試練】

「皆様こんにちは。では、第2ゲームを始めましょう」


 時刻は正午を過ぎ、午後1時。いつも通りその軽やかで美しい声を発したのは、このゲームの主催者、ギフトだった。怪しく光る金色の髪に、熱く燃える紅蓮の瞳。180cmを超える高身長と芸能人顔負けのルックスは、今日も変わらずに僕らを見つめた。


 作り笑いのような胡散臭さ、情報商材を売りつける人間のような悪徳さ。それら全てを無に帰す魅力が、彼には天性の才能として備わっているのかもしれない。


 今日も変わらず美しい彼は、すっかり数の減った僕らに視線を向け、そしてゆっくりと口を開いた。


「第0ゲーム、第1ゲームでは主に『人間性』や『コミュニケーション能力』見てきましたが……いよいよ、第2ゲームからは本格的に皆様の才能を見ていきます」


 ギフトはスっと手を挙げる合図を送ると、彼の背後数m後ろに、大きなスクリーンが出現した。学校の授業などで使われるスクリーンの大きい版言えば良いのだろうか。とにかく大きくて高そうなそのスクリーンには、1つの画面が表示された。


「『才能教育実験、視聴者投票…………?』」

「な、何だそれ……」

「まさか、今回は投票で死者が決まるのか!?」


 ザワザワと周囲で大きなざわめきが起こる。だいぶ周りと親しくなったのか、近くの人と顔を見合せ、あれこれと会話をしたり感情を共有したりしている人が目に入った。


「今回の課題制作って……投票制なのか?」

「じゃあ、俺たち勝ったんじゃね!?」

「ああ! ラッキーだ!!」


 僕の部屋の人たちの間でも、似たような状況が繰り広げられる。……といっても、僕らは次のゲームが何なのかを知っているため、その会話はひどくポジティブになる。ただでさえ美大を目指す天才の伊藤が居るのだから、投票という制度は僕らには有利だ。


 正直、気持ちが沸き立つのはわかる。僕も、実を言うとそうだから。死ぬかもしれないという恐怖から解放されるんだ、どうしても気分が高揚してしまうのは、避けられない自然な感情だろう。


「よ、よし……だが油断はせず1位取るぞ!」

「「「お、おう……!!」」」


 僕らは周囲の参加者のどよめきに身を隠し、こっそりと決起集会を行っていた。事前にゲームの練習ができる幸運。美大志望の天才が居るという幸運。そして、投票制というルールの幸運。


 僕らは一気に3種類の幸運に恵まれ、最強チートモードに突入しつつあったんだ。


 ……正直、負ける気がしない。


 僕らはそんな幻想を共有し、増幅させ、この身に宿し…………ある意味では、過去一ハイになっていた。


「……ふふふ、皆様色々な反応をして面白いですねえ……」


 ギフトが僕らのざわめきに同調するようにそう呟いたのを、僕は、軽く聞き流していた。いつもならカリスマ性があり僕らを殺すことの出来る天才の言葉は、軽く聞き流したりしない。この前は聞き流してしまったけれど、でも、それはゲームが終わったタイミングだったからだ。


 正常な精神状態の僕ならば絶対に……情報を聞き漏らすようなヘマはしない。


 僕は冷静な自己分析でそう自負していたけれど、それは今回で無惨に崩れ落ちたのだろう。


「お題、なんだろうな?」

「何であれ、伊藤が居るから大丈夫よ!」

「1位取ったら次ゲーム免除とか無いかな〜」


 はしゃぐ同居人を……仲間を前に、


「ゲーム免除は無いだろ」


 などと笑いかける程度には……僕はギフトの存在を忘れていたんだ。勝てる。勝利への確定演出。僕らの目の前に転がるその薬は、僕ら凡人には刺激が強すぎたんだ。


 まるで、違法なドラッグのように。あるいは、酒やタバコのように。


 知らないからこそ、その刺激が魅力的に映る……。僕ら凡人は勝利という餌に釣られて、醜くも思考を放棄していたんだ。



「…………では、ルール説明に移りますが、まず最初に……」



 ああ。僕らは勝てる。僕らは勝てる。こんなの、余裕で、圧倒的に勝てる!! こんなその他大勢の奴らに、負けるわけが無い! 僕らには伊藤がついてるし、伊藤の元で学んできたんだから……!!


 こんなモブの奴らになんて……一切、負ける気なんかしない!!


 勝っ……――



「グループに美大志望や絵画教室に通っている方が居た場合は……合計得票数に0.7した値を得点とします」

「………………え…………?」



 僕らのグループの時が止まった。否、凍りつき、拡張された。皆が笑顔を浮かべた状態で静止し、徐々に、表情筋を弛緩させていく。希望の灯ったその瞳からは光が消え失せ、信じられない、といった表情でギフトに訴えかける。


 …………今、何て言った……? 聞き間違いか……? いや、そんなはずないよな…………?


 僕は空いた口から漏れる吐息に僅かな絶望が混じるのを感じて、ああ、これは本当にそう言ったんだ、と今更自覚する。


 固まった身体が再び動き出した時、僕らは誰からともなく顔を動かし、同じ部屋の面々と、視線を通わせた。


 言うまでもない。見るまでもない。視線なんて通わせるまでもないけど――……


「……今の、聞いてた、よな…………?」

「ああ……『美大志望が居たら票数に0.7かけるって……』」

「……つまり、俺たちのチームは…………圧倒的点差をつけないと殺されるってことになる……よな…………?」


 皆がウンウンと顔を見合せ情報を確認し、そして、明確に絶望していくのがわかる。


 ……嫌な感じがする。なんだか、既視感に似た……嫌な、何かが。僕はその正体に若干気づいていたけれど、今は気づかないフリをしていたくて、チラリと悟さんの方を見た。


「…………」

「そこの方々、続きを説明しますがよろしいですか?」

「えっ、あっ、ハイ! お手数おかけします!!」


 ……ああ。悟さんは悟さんだ。


 僕は安堵に似た懐かしさを覚えると、悟さんの返事と共に前に向き直り、そしてギフトの顔を見た。相変わらず綺麗なその双眸には、若干の苛立ちが浮かんでいた……気がした。


 ああ、怒らせてしまったらどうしよう。ゲームに参加する前に殺されてしまったら。


 僕らはきっとほぼ全員がそう思ったけれど、ギフトは特に気にしている様子も無く説明を続けた。


「今回のゲームは課題制作……ゲーム名は『何でもメイキング』です。絵画、彫刻、デザインの3ジャンルの内からいずれかを選んでいただき、合計2日間で制作していただきます。各部屋で1チームとなるため、皆様で話し合って決めてくださいね」


 …………なるほど、そういう事か。


 僕はギフトのセリフを注意深く聞き、情報を軽く整理した。


 今回は部屋ごとにチームを作るわけだけれど、逆にライバルは少なくなる。絵画、音楽、物語の3ジャンルだから、部屋が仮に300あって均等にジャンルがバラけたとしたら100チームで競い合うってことだ。


 ……つまり、通常の攻略法は「以下に競争率の低い場所で良い結果を出すか」に集約される。死亡ラインがまだ提示されてないからわからないけど、たぶん今回はかなり厳しい戦いになる。


 ……それに――……


「2日間……? 短いな……」

「今まで2日連続なんてやったことねえぞ……?」

「不安だ……」



 今回は、今までとは戦い方が違う。



 今まではその場しのぎみたいな感じで「今」に全力を注げば良かった。その瞬間に勝つか負けるか……要は、1話読み切りの漫画みたいな感じだった。


 僕らにとってはデスゲームそのものが当然大きなストレスぬはなるけれど、でも、比較的楽な部類だったんだ。その場で結果が出て、生きれることに安堵して夕飯を食べる……。デスゲームの中ではまだ、幸せな生活だ。



 でも、今回はそうはいかない。



 明日、もし失敗したら死ぬかもしれない。絵画を汚したら? 彫刻を壊したら? デザイン案を失くしたら……?


 そんな恐怖を味わいながら、少なくとも今日一日は過ごさなければいけない。


「ふふ……では始めましょうか、第2ゲーム……」



 ああ。これから本格的に、地獄の才能教育が始まるみたいだ。…………悪魔ギフトは僕らに笑いかける。



「『何でもメイキング』……投票0で即死亡。予想生存率は……60%です」

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