第13話【天才への道】

「俺は何の仕事をしているでしょう!」

「はーい! 機械系の営業!」

「……正解です」


 僕の後にクイズを出題した同居人たちは、皆、無事一命を取り留めた。一命を取り留めたっていう言い方が合ってるのかはわからないけど、まあ、要は誰も死んでいないということだ。


 昨日から5人減った僕らの部屋は、現在15人で共同生活を送る予定となっている。昨日は色々な事件が起きたせいであまり多く会話することが無かったけれど、よく観察してみたら、それぞれの個性が見えてくるものだ。


 聞き上手な人。盛り上げ上手な人。博識な人に気が遣える人……。

 

 僕は今までの遅れを取り返すように、できるだけ色々な人を観察した。もちろん、研究者みたいにアレコレ調べたりするんじゃなくて、単純に眺めているだけだ。


 あ、この人はこういう考え方なんだな、とか、集団ではこういうポジションなんだな、とか。


 凡人の僕にできる分析はその程度だけど、でも、確かに前よりは、もっと自分らしい気がする。


 僕はそんな満足感を見出しながら、この友情クイズに参加していた。今は悟さんが出題者だ。

 悟さんは自分の命がかかっているのにひどく落ち着いているようで、僕はまた、「さすが最年長」なんていうありきたりな賛辞を密かに送っていた。


 きっと、僕から悟さんへの評価は、出会った時から全く変わっていないんだろうな。


「じゃあ、第3問!」


 悟さんの力強い声が響く。

 

 かなり速いスピードで最終問題まで進んだ悟さんは、余裕が出てきたのか、表情に柔らかみが加わっている。今まで出題した2問は年齢と職業についてだったから、まあ、次も簡単な問題だろうな。


 しかし、そう思った数秒後、僕はとあることに気づいてしまった。……とても重大で、運命を分けかねないとあることに。


「っ……」


 無意識に目を見開き、そして、表情筋が強ばっていく。


 ……マズイ。非常にマズイ。


 そして、僕のこの確信に近い1つの予想は、悟さんの力強い声によってすぐに現実になる。


「じゃあ俺の……高校時代の得意教科は!」 

「「「……」」」

「お前らマジかぁ!?」


 ああ、やっぱり。


 僕は嫌な予感が的中してしまった事実に少し気分を落とすと、いつもの癖である分析を始めた。分析することで悟さんのクイズに回答できるようにはならないけれど、でも、考えは都度整理した方が今後のためになる。


 ピッピ、と減っていくタイマーの数字を横目に、僕は再び思考の世界に潜っていく。


 

 ――この友情クイズで出題される問題は、難易度としてはあまり高くない。年齢、職業、家族構成に出身校など、履歴書に書く程度の簡単なプロフィールを把握すれば、一切問題ないレベルだ。


 得意教科や部活動、サークルに関する問題もあるけど、それくらいなら僕ら学生にとっては簡単な自己紹介レベルのクイズだ。


 ……そう。学生にとっては


 初日の本当に1番最初、ギフトが参加者の大まかなプロフィールとして資料をくれた。そこには男女別、職業別の参加者の割合が記事として載っていたけれど、やはり学生が多かった。


 今は春休みの時期だし、社会人は会社を休んで参加となってしまうから、必然的の割合が低いのだという。


 ……つまり、だ。


「ああ、クソ! この問題、学生時代を昔に置いてきた俺に不利すぎねえか!? なあスタッフ!?」

「参加者に合わせて作っておりますので」

「俺も参加者! 一応!」


 僕ら大多数の参加者……学生に合わせた内容になっているため、このクイズで社会人悟さんはとても不利なんだ。


 まあ、学生に不利な内容にすると一気に人が減っちゃうし、正直、しょうがないとも思う。少数派に合わせたら社会は成り立たない……みたいな話を先生がしていたような気がするし。


「ちょ、マジ頼む! 考えればわかると思うから!」

「そ、そんなん言うても〜」

「うーん、候補は3つ……?」


 うん。でもやっぱり可哀想だ。


 僕は焦る悟さんと悩む山本たちを見て、どうしたものかと思案した。


 正直、悟さんの高校時代の得意教科は知らない。


 偏見で言うなら体育だけど、その偏見だけで判断してミスるのは嫌すぎる。今の職業のことを考えると技術や情報の授業も得意そうだけど、その教科を履修してるかも僕は知らない。


 候補は、体育、情報、技術の3択…………。


 僕にはそれ以上深い考察はできず、やはり自分は凡人なんだな、ろどこか呆れてしまった。


「考えればわかるって……悟さん、ヒントないんかー?」


 山本が緩い声音でそう言った。山本が地べたに座ってぐーっと伸びをしていて……。


 なんだか、リラックスし過ぎてないか……?

 

 僕は自宅でくつろぐ猫みたいな山本の緊張感の無さに少しの違和感を覚え、しかし、どこか羨ましかった。山本の視線も行動も、あまり緊張している感じではない。まあ、僕のターンが終わった反動と言えばそれまでだが、なんだかそれとは違う気がする。


 言うなら、ギフトに近いような……そんな、強者の余裕が山本にがあったんだ。

 

「いやいや、ヒント出したら失格だろ」


 悟さんが呆れたようにツッコミを入れる。その表情には若干の焦りが滲んでいるようで、僕はやっぱりおかしいよな、と答え合わせをしたような気分になった。


 この状況で、山本はあまりに異質すぎる。どう考えても余裕を持ちすぎている。おかしい。危機感が無い。いつもと違う。


 僕はそう山本に評価をつけると、その原因を考察しようとした。……しかし。

  

「…………え? 失格なん? ルールに書いてないやんけ」


 原因を考察するより前に、突破口が切り開かれた。



♤♤♤


 

 ……僕らは一応、全員が「凡人」という共通点を持ってこの場に集っている。この場にいる全員が、天才にもなれずダメ人間にもなれず……そうやって同じように、その他大勢として生きてきたのだ。


 だから、多少の能力の違いはあっても、僕らは大体同じはずなんだ。


 …………でも。


「…………え? 失格なん? ルールに書いてないやんけ」


 たぶん、この場に居た全員が同時に思った。


 ――ああ、こいつは「違う」と。


 さも当然のようにルールの穴を突くスキル。色々な人と仲良くできるコミュニケーション能力。絶対に答えられない……間違えさせるための問題でも、自分を信じ答え抜く胆力。


 ……そして。


 ――あ、山本はどうよ? お前、なんか陽キャっぽいしこういうの好きそうじゃん?

 ――んー、ほんなら俺も行くわ! なんかおもろそう!!


 誰にも言わず、ひっそりと……正義を遂行する人間性。

 

 ……ああ、もしかしたら、僕らはとても大きな勘違いをしていたのかもしれない。いや、きっと、していたんだと思う。


 僕らは紛れもない凡人だけど――……


「……ヒントを認めます。ギフト様の指示により、ヒントは1つのみとします」


 その中で突出することができれば、それはもう「天才」と呼べる才能なんだ。



「よし、ヒントは……パソコン!」

「はい! 情報!」

「正解です」



 ……なあ、聞いいてもいいか? 山本。


 僕は心の中で山本に問いかける。とても口には出せない、惨めで、そして醜い言葉を。


 ……山本には色々な才能があるけど、僕には何の才能があるんだろう? 僕はいつか、山本に……追いつけなくなってしまうんだろうか?


 僕は揺れる心にそっと蓋をして、次の出題者に視線を向ける。


 暗めのベージュの髪色にふわふわ癖毛なショートカット。女子みたいに大きな銀色の瞳に、大きな丸メガネ。身長は160cm前半くらいで、あわあわと頼りなく視線を動かすその姿は、まるで小さな小動物だ。


 ――伊藤 悠希ゆうき


 この時の僕は、まだ知らない。


 彼が今後のデスゲーム生活で、皆の記憶に残る大きな事件を引き起こすことを――……。

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