第4話【休息と事件】
「うっひょー! 修学旅行みたいやなー、誠ー!!」
「はいはい。……まあ、確かにそうだな。さすが大手企業」
部屋割りを確認した僕らは、これから1ヶ月生活することになる広い部屋に到着した。事前に持ってきた荷物を運び入れ一番乗りに到着した僕と山本は、その部屋の感想を言い合っていた。
「ここに布団敷いて雑魚寝かぁ! ええなぁ!」
山本はいつも通りハイテンションで、その童顔に満面の笑みを浮かべると、部屋をあちこち物色した。
「うへー、ここめっちゃ荷物入るで! あ、隠し扉とかあるんかなぁ!? いやでも俺ら実質監禁状態やし、流石にそれは無いんかな〜」
山本のエセ関西弁が部屋中に響き渡る。元気な犬のように部屋を物色する山本は、いつもなら陽気な良い奴になる。クラスのムードメーカー。一軍の陽キャ。でも今は……なんか違和感がある。
そういえば、なんで僕と仲良くしてるんだろうな……なんてことを考えていると、背後の扉が静かに開いた。
「うおー、綺麗な部屋だなー。デスゲーム中なのが嘘みたいだぜ」
ザラついた大きめの低音ボイス。焦げ茶色のスーツに、生えかかった髭。少しくたびれたようなその顔には、黒く凛々しい光が灯っている。
「あ……」
僕は、その姿に見覚えがあった。
――今、どんなお気持ちですか?
――教えてくださりありがとうございます! って気持ちですかねぇ……
先程の光景がフラッシュバックする。
挙がらない手。背けられた視線。絶望する僕。最低な僕。気高い彼。社会人として、ただそこに存在していた彼――……。
「あ、あの! 先程は申し訳ございませんでしたっ!!」
僕は、何かを考えることも、言葉を選ぶこともせず、ただ夢中でそう口走った。身体を深く折り曲げ、謝罪のポーズを取る。情けない気持ちが溢れ、背中にじんわりと汗を感じる。体温の上昇。身体の震え。
本当に無我夢中で謝罪する。
「え? あ、あのー……。水野クン? ボクはもしかして、君になにかされてしまったのカナー……?」
「え」
だからこそ、彼のどこかカタコトな返答に戸惑った。
僕が恐る恐る顔を上げると、そこには困惑を笑顔で隠そうとする、1人の社会人の姿があった。片手を後頭部に添え、首を傾げる小林さん。それは紛れもなく、「意味がわからない」というボディランゲージだった。
「え……えっと、その……」
僕もようやく状況を理解し、自分がした訳わからない行動に焦りつつ説明を追加する。
「あの、僕……小林さんが、僕のターンの時に手を挙げなかったから……裏切られたと思って、最悪な勘違いをしてしまって……だから謝りたくて……」
僕の要領を得ない説明に、場の空気がますます悪化していくような気がした。何か上手いこと言わなきゃと考えれば考えるほど僕の焦りは増してしまい、どんどん悪循環に陥っていく。
「……なんだ、そんなこと気にしてたのか? ははっ、律儀なやつだなぁ」
「え……」
しかし、小林さんが発した声は、怒りとも悲しみとも遠い明るい声だった。テストで変なミスをして落ち込んでいる生徒を宥めるような、そんな優しくて軽い声。
ポンっと僕の頭に手が添えられた。
「いちいちそんなん気にしてたら、この先やっていけないぜ? ま、良いけどよ。俺の事は気軽に
ガシガシと、乱雑だけど愛情のある動きで頭を撫でられる。子供にあまり触り慣れてないだろう男の動き。……まあ、僕は子供というにはデカすぎるかもしれないけど、この際それはどうでもいい。
「……はい、ありがとうございます。……悟さん」
「おう。さっさと荷物整理しちまおうぜ」
悟さんは僕から手を離すと、スタスタと部屋の奥に進んでいく。その何気ない動き全てに、僕は大人の余裕を感じていた。
♤♤♤
「……でなー? 俺自己紹介で1発芸やったんよ! でも、もうだーれも聴いてくれなくて!!」
「うわまじか。そいつはキツイなぁ……」
「聞きたかったな……」
「山本、まじでおもろいな!!」
数十分後。時刻は20時を回った頃合い。
僕と山本、そして悟さん以外の17名も部屋に到着し、本格的に共同生活感が増してきた。年齢は皆バラバラだけど、まあ、平均年齢は23歳とかだと思う。まだ皆と打ち解けた訳じゃないけど、山本の明るさと、この部屋で最年長の悟さんのお陰で、僕らの部屋は平和そのものだった。
「あー、つか腹減ったな」
同居人の1人、鈴木がそう声をあげる。一緒に会話に参加していた僕たちも、うんうんと共に頷き合う。
……そういえば、色々あってすっかり忘れていたけど、僕らの食事や入浴ってどうなるんだろうか。流石にデスゲームをするのが目的だし餓死させることは無いと思うんだけど、でもまだ油断は出来ない……。
ピンポーン。
僕がそう考えていると、急に部屋のチャイムがなった。和室にチャイムの音が響くのはちょっとシュールだが、これで原始的な鐘を鳴らされたら、それはそれでなんかシュールだ。
「お、誰やー?」
山本が扉に近づいていく。しかし、その姿を見送る僕の横を、高速で黒い影が通り過ぎて行った。
「ちょ、ちょっと待て山本クン! もしかしたら、なんか罠かもしれないぞ! ここは慎重に!!」
扉を開けようとする山本を静止したのは、流石最年長と言うべきか、やはり悟さんだった。しっかりと山本の手を捕獲しつつ進行方向に立ち塞がる。その動きはまるで刑事ドラマみたいな感じで、なんだかちょっとカッコイイ。
「えー、でもゲームを急に始めるなんてことしないと思うねんけどなー……」
「いやいや、アイツの自己紹介ゲームの解説聞いただろ!? アイツは俺らに高度な行動を求めてくるッ!」
わちゃわちゃと2人が会話を続ける。内容を聞けば喧嘩っぽい雰囲気にも感じられるが、お互いにただ意見交換をしているだけだ。
「うーん、じゃあ……」
「フフフ、そんな二警戒しなクて大丈夫デスよ」
「「「っ!?」」」
山本が何か言いかけたタイミングで、僕らの知らない声が間に入った。慌てて扉の方を見ると、そこには何故か、1台のロボットが佇んでいた。よくファミレスとかで見るような、猫の顔が描かれた給仕ロボット。
そいつが何故か、僕らの部屋の中に居た。
「ど、どうやって入ってきたんだ……?」
僕が困惑を口にすると、そのロボットはまるで意思があるかのように、
「各お部屋の鍵は、いつでも開けるコトができまス。扉ガ開かないのデ、僕の方で開けさせていただキました」
と回答した。
……なんなんだコイツは。絶妙に人間らしいし、でもどう見てもファミレスの猫だし、頭が混乱する。しかし、
「おおっ!? こいつ、弁当持ってる! 夕飯配達ロボじゃん!!」
「まじか!?」
「うお! ようやったな猫!」
僕以外の同居人は皆、ロボットではなく乗っかっている弁当に夢中だ。いそいそと弁当を運び込み、あっという間に猫ロボットは退室して行った。
「ん? なんやこの紙。……『風呂は、男湯が3階、女湯が4階にあります。ご自由にお使いください』……だってよ!」
「「「うおお! 生活基盤だけなんか強い!!」」」
そしてこの日から、僕らの1ヶ月のデスゲーム生活が始まる。
♤♤♤
――どこかの部屋。
「何ですか急に!? ここ女子部屋なんですけど!」
「ふふふ、知ってるよ。あ、いたいたー」
「な、何ですか……?」
少し脂肪の溜まった身体をした男が、ある女性に狙いを定めた。男が向けた視線は言うまでもないが、とても嫌悪感を覚えるそれだ。
「君、僕と同じグループだった子だよねぇ。可愛いなって思ったんだァ……僕と付き合わない?」
「……は?」
男は、大人しそうな彼女へ詰め寄っていく。
「僕が名前を覚えてなかったら、今頃死んでたはずだよねぇ……? じゃあ、僕は命の恩人……そうだよね?」
「そ、それは、そうですけど……」
「じゃあ、僕と付き合ってくれるよね……?」
男はじわじわと彼女に詰め寄っていく。同じ部屋に居合わせた他の女性たちは、どうするべきかわからずオロオロしている。
「っ……やめてください! だ、誰かッ……」
「「「呼んだー?」」」
「えっ……」
彼女の声に応えるように返事をしたのは、5、6人の男性。状況は、言うまでもない。端的に言うなら、最悪だ。
別室にて監視カメラを見ていたギフトは、愉快そうに声を発した。
「さあ、モブの皆様の行動を観察するとしましょうか。……場合によっては――……」
――殺します。
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