13 雷 VS 磁力

疾風雷撃ライジング・ストライクゥ――ッ!」


 ミツヤは雷の速さでマルコスに迫り、疾風しっぷうのように素早く雷を使ったこぶしと蹴りの攻撃を繰り出す。それに対しマルコスは、電撃でんげきを直接体に受けないよう、館内壇上だんじょうに立てかけてあった鉄材を磁力で引き寄せた。磁力に引かれた鉄骨や鉄板が彼の周囲を遠巻きに漂い、即席の防壁となって雷撃らいげきを受け流していく。


「くっそう、チョロチョロと!」


 カチリ。その言葉は、容易たやすくミツヤのを入れた。


「今……子供って言ったか?! 僕は今年18だ!」

「ならまだ17だろ、どっちにしろガキじゃねぇか!」


 沸点に達したミツヤの体を覆う光は黄色からオレンジ色に近い濃い色へ変化していく。もっとも、誰も微妙な色の変化には気づいてはいなかったのだが。苛立いらだちが頂点に達したミツヤは、マルコスの側頭部へ電撃の蹴りを入れようと床を蹴った。


「ガキ扱いしたな!? これで終わりだ!」


 雷をまとった赤いスニーカーが、マルコスの側頭部を狙って迫る!


「――ッ!」


 マルコスは反射的に磁力を集中させ、手近な鉄材を引き寄せて頭部を覆った。


 辛うじて防いだが追いつけていない。雷の速度に彼の視界も判断も完全に後れを取っていた。


(このままじゃ……いずれ食らう)


 もっと鉄材はないか? 辺りを見渡したマルコスの視界に映ったのは天井が破れ、き出しになった補強用の鉄骨群。


「……どれかは当たるだろ!」


 たかが指程度の太さ、長さ30センチの鉄棒だ。しかしミツヤの背後から弾丸のような速度で十数本もの鉄材が一斉に飛来した。その1本が衝撃を伴って左肩をえぐる……!


 ズドッ――。


「ぐああっ!!」

「ミッチ――イ!」


 左肩を押さえると指の間から血があふれ出した。あまりの痛みで黄色い光もすうっと消えてしまう。眉をゆがめてミツヤの名を叫ぶジェシカに振り返りもせず、視線を目の前の人型の異形獣まもの――マルコスから外さない。


「ジェシー、大丈夫だ。アラミスもだ! 僕の心配はいい。今は貴重な銀を使わないでくれ!」

「……強がりも大概たいがいにしろよ」


 マルコスは忌々いまいましいとばかりに吐き捨て、磁力を更に引き上げた。床下の補強材、壇上の骨組み、壁の内部に埋め込まれた鉄骨までもが引きがされる。


 それらが彼の周囲で集まり、不気味なかたまりとなって回転を始めた。


「来いよ……回転する鉄塊てっかいで粉々にしてやる。どうした、来ねぇのか?」


 マルコスの目に余裕が見え始める。


「アラミス、ミッチーが……!」


 ジェシカの悲鳴に近い呟きと同時に黒い影が割り込んだ。床を蹴り、ミツヤまで飛び込んできたのはアラミスだった。彼はミツヤの耳元で短く伝える。


「……3秒でいいか?」


 ミツヤは一瞬だけ視線を横に走らせ軽く頷く。


「十分だ」


 短い言葉を交わすとアラミスはミツヤの前に割り込んだ。

 マルコスの周囲を回る鉄塊が加速する。重金属が風圧を伴って時折ときおり床を削り、近づく者を拒絶する壁となる。


(クソッ……隙間がありゃしねぇ!)


 アラミスは舌打ちしながらも腰のハンドガンを抜いた。間髪入れず強烈な磁力がピンポイントで働き、銃を引き寄せる。


「ぐうっ! なんて強い磁力だ……か、体ごと持ってかれちまう――!」


 両足で踏ん張るも、身体はズルズルと前へ引きずられた。鉄の壁は尚も高速で回転している。だが――。


(……必ずあるはずだ――!)


 今だ。鉄材同志の回転が噛み合わず、指2本分ほどの「空白」が生まれた。


 ――パンッ!


「ははっ、何をするかと思えば! 弾丸なんて通るかよ!」


 マルコスは背後の鉄板を引き寄せ、アラミスの後頭部へ叩きつけた。衝撃で前へ弾かれ、膝をつく。

 こめかみを血が伝う。


「磁石のヤロウ、やりやがったな……!」


 その光景を、扉の隣で先日の3人が見ていた。

 EIAのバッジを胸につけたまま、腰を抜かしたように立ち尽くす若い男女。昨夜、路地裏で無抵抗のアラミスを囲み、殴り、蹴り、笑って去った――その相手が今まさに怪物の前に立っているのだ。


「……お、おい……」

「ねえ、あの男……昨夜の……」

「嘘だろ……だって、あんな……」


 今、アラミスは次の一瞬だけを待っていた。


「あと一発……」


 磁力に引かれながらも体幹を固定し、両手を使ってハンドガンを構える。


「まだ立つかよ……能力ドナムもねぇくせに」


 苛立ったマルコスは、矛先を白装束へと変更した。


「金髪兄ちゃん、俺ばっか見ていていいのか?」


 すると、白装束の背後にある鉄材がバリバリと音をたててがれ始めた。

 アラミスは咄嗟とっさに後ろへ飛び、近くで動けずにいた白装束の兵士を突き飛ばすようにかばったが、一歩間に合わず鉄の棒がアラミスの肩をえぐった。


「――っ!!」


 歯を食いしばり、悲鳴すら飲み込む。

 その姿を3人は、はっきりと見た。

 逃げられたはずなのに。

 関係ないはずなのに。

 自分たちを助ける義務など、どこにもないのに。


「なんで、あそこまで……」


 ビアンカは彼らの横顔を黙って見つめていた。そしてアラミスを指さし、一言だけ告げる。


「見なさい。あれが、あなた達が殴り、見下して蹴り上げた男の本当の姿よ!」


 ホール中央でアラミスは再び立ち上がった。裂けた肩を押さえながら、それでも銃を構えて仲間の前に立つ。3人は、もう目をらせなかった。

 ――それが、彼の正義だった。

 

「よくも卑怯なマネを……俺の動体視力どうたいしりょくナメんなよ……!」


 銀の弾はあと一発しかない。次に狙うのは弾丸が通るギリギリの隙間だ。血がまた一筋ひとすじ顔に流れ、眼が光る。その刹那――瞬きをすれば消えるほどの隙間だった。


「――そこだ!」


 パンッ!


 最後の弾は回転する鉄の隙間を縫い、吸い込まれるように入り込んだ! 鉄壁を抜け、右肩へ――!


「うあああああああっ――!」


 3秒。


 痛みに顔をゆがめたマルコスは「隙間を作るな」――その一念で反射的に磁力を強める。天井の補強材が、壁の奥の鉄骨が、壇上の骨組みが……次々と引きがされ、回転する鉄塊の密度が一気に高まる。


「二度と通さねぇ……! 完全にふさいでやる!」


 2秒。


 鉄と鉄がぶつかり合い、耳障りな金属音がホールに響く。防御は確かに厚くなった――だが。

 アラミスはその場を離れながらミツヤへ短く合図を送った。


「チャンスは一度だ。決めろ、ミッチ――ッ!」


 その言葉の意味をマルコスはまだ知らない。

 次の瞬間、ミツヤはえて真正面から踏み込んだ。蹴り上げた足裏と床が稲妻で繋がったまま、気づけばマルコスの頭上5メートルの位置だ――!


 1秒。


「――鉄を集め過ぎなんだよ!」

「なにっ!?」


 慌てたマルコスは反射的に磁力を強めた。過剰な引力が発生し、鉄材同士が互いに引き合った。凄まじい音と共に一斉にゆがむ。


「しまっ……!?」


 制御していたはずの鉄が、意思を無視して暴れ出す。盾だったはずの鉄塊は拘束具こうそくぐのようにマルコスの動きを縛りつけた。混乱におちいったマルコスの視界はスローモーションに沈む。


「磁力で『引き寄せる』時は――」


 ミツヤは傷ついた左肩から血を流しながらも、右足に雷エネルギーを集中させる。時間が止まった……。


「――動きを読まないと暴走する!」


 雷は金属を伝う。それも、これだけの量が密集していれば――。


「やめろ……来るなアァァッ!」

「遅い!」


 0秒。


 マルコスの体を覆いつくした鉄塊の頂へ、渾身こんしんの回し蹴りが炸裂さくれつした!


「――《雷光衝ライトニング・バースト》オオオ――ッ!」


 轟音ごうおんとともに、数千ボルトの電流が鉄塊へと一気に流れ込んだ。防御となるはずだった鉄板の内側から暴れまわる電撃が逃げ場を失い、マルコス自身へと跳ね返った。


「があああああああああ――――ッ!!」


 マルコスの体が痙攣けいれんし、磁力は消え、ついには膝をついて床に沈んだ。周囲に浮いていた鉄材も制御を失い、次々にガラン、ガランと音を立てて落下した。


 肩の痛みが一気に押し寄せてくる。


「……終わりだ、マルコス」


 床に伏すマルコスを見下ろしながら荒い息をつく。そして視線をホールの反対側へ向けた。

 ――そこでは、尚も灼熱しゃくねつと蒸気が渦巻き、ヒースがザイードと激しくぶつかり合っていた。


「……待ってろヒース。今僕が行く」


 雷を帯びたミツヤは、再び前を向いた。

 次は、仲間と並び立つために――。




 ***《次回予告》***


 ヒース:ミッチー、すげぇな!

 ミツヤ:すげぇなじゃないぞ? いいか、次こそプランどおりに動いてもらう。

 ヒース:わぁってるよ! 第1期でやったあの技だ。一発で成功させるには、ザイードを蒸気でガードした状態に持って行かないといけねぇんだろ?

 ミツヤ:そうだ。そのために、まずはお前に炎の技で派手に暴れてもらう。

 ヒース:任せとけ、次で決着だな! っしゃぁ予告だ! 次回、第14話。

 ジェシカ:「繰り出せ、炎雷爆葬ブレイズサンダー・バースト!」。お楽しみにね!

 ヒース:なっ?! よ、横から入ってくんのもアリなのかよ。

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