12 炎 VS 地殻熱

 ホールの床は、ザイードが放つマグマ由来の地熱の能力ドナムによってところどころ溶け落ちていた。室温は異常なまでに跳ね上がり、呼吸をするだけで肺が焼ける錯覚を覚える。

 一方でマルコスは、突如として乱入してきたヒースとミツヤに注意を奪われていた。その一瞬の隙を逃さず、ビアンカは天窓から音もなく侵入し、内側から鉄製のかんぬきを外すことに成功する。

 重い扉が開かれると、抑え込まれていた恐怖がせきを切ったようにあふれ出し、EIAの一般会員と白装束たちは一斉に外へと出ていった。


「――ちょっと待ちなさい」


 ――しかし。ビアンカが外へ出ていくEIAのバッジをつけた3人組の若い男女の前に立ち、剣を抜いた。


「あなた達3人はまだ逃げることを許さない。ここで彼らの戦いを見届けるまでね!」


 その男女は昨夜、無抵抗のアラミスを飲食店の外の路上で殴り、蹴り飛ばした3人だった。


「なんだ女!? 俺たちに剣を向けるとは、何様のつもりだ!」

「そうだ! 今は非常事態だろ! そこをどけ!」


 ところがビアンカは淡いグリーンの瞳で睨みつけ、レイピアを横一文字に振るった。

 二人の男のズボンがサッと足下に落ちる。


「な、何すんだ、このアマァ!!」

「ずり落ちないよう両手でしっかり持って、3人とも中に入りなさい!」


 有無を言わせない声だった。理由も分からないまま3人は追われるようにホールへ戻され、ビアンカはその背後で再びかんぬきを下ろす。

 熱気が渦巻く空間で、イントルーダー二人と、人型の異形獣まもの2体の戦いが今、始まろうとしていた。


(……聖葬団レギオンナンバー4の私が、何をしているのかしらね)


 ビアンカの脳裏に数分前の出来事が思い出されていた。


 ◆


『なぁミッチー。アラミスのヤツ、ジェシーを追って出て行ったらしいけど、あいつ最初から行先知ってたってことか!?』


 ヒースとミツヤは、置き手紙を読んだ直後、ビアンカを一人宿に残して行き先も分からないまま街へ飛び出していた。

 ビアンカは2人を見送ったあと、制服へ着替え、レイピアを装備してアラミスの後を追う。ビアンカが彼のトリッキーとも思われる言動に心を揺らされていた同時刻、ヒースとミツヤはジェシカの行き先がEIA本部ではないかと勘づき、早朝の人通りの少ない街を本部を探して走っていた。


『どうかな。けどアラミスあいつなら最初からジェシーの行動読めてたかも。にしても本部ってどこだ?』


 ミツヤは聞いても仕方ないと分かっていつつ口にした。その直後、背後からビアンカの声がする。


『場所なら私が知ってるわよ』


 薄いグリーンのポニーテールに白い制服。レイピアを装備した彼女を見て、最初2人は一見誰だか分からなかった。


『ビ、ビアンカ……? どうしたんだ? そんな……イカしたカッコして』


 平静を装うかのように、ヒースはようやくその言葉を絞り出す。気配をまるで感じ取れなかったことに、無意識の恐怖を覚えていたのだ。

 ミツヤはというと彼女の服装や装備から、瞬時に彼女が商人の娘でないと悟った。


『ビアンカ……さん。理由があって僕らに近づいたんだな。なら知ってると思うけど僕ら急いでる。用があるなら後で聞く。彼女の居場所知ってるなら、教えてくれ』


 ミツヤの声色こわいろには既に、仲間に対する親しみは一切なかった。ビアンカはフッと笑い、「少しくらい慌ててくれてもいいのに」と一言だけ呟くと、EIAの本部の行先を指さした。


『この通りの突き当りを左。グレーの大ホールよ。もう戦闘は始まってる。扉は全部内側から閉じられていて、一般会員も百人ほど中にいるわ』


 その話を聞いた2人は、ビアンカが何者なのか、なぜ教えたのか……そんな事を聞き返す時間も惜しいとばかりに駆け出した。


『――くやしいわね。どうしてそんなふうに仲間を最優先にできるの……?』


 ◆


 一般会員が脱出したことで、ホールは前より広く感じられた。床には倒れ伏す重傷者、白装束の兵士が数名。中央に「青い疾風ブルーゲイル」の四人とマルコス、ザイード。その後方にサイモンとヨハン、まだ戦える兵士が五人。そして扉のそばに、ビアンカと三人の若者。


「お前らイントルだな。掛かって来いよ」


 マルコスは日本刀に目をやるとすぐにヒースを挑発するような目を向け、両手を前へ差し出すように伸ばした。


「ミッチー、俺があのニット帽をやる」

「は? 計画話したろ? まずはドナムの相性見てからだって」


 ミツヤの判断は正しかった。しかし、ホール内の惨劇さんげきを見たヒースはもう左親指でつばを前に押し出していた。さやからはばきのぞくと、早くも刀がカチカチとなり始める。


「なっ!」


 ヒースの右手がつかに掛かったと思われた時には、炎斬刀えんざんとうは宙に浮いていたのだ。マルコスの手に炎斬刀えんざんとうが握られた時には、ザイードが無色透明の蒸気を集め、圧力を伴って解き放つ。


「どてっぱらがお留守だぜ! 蒸熱砲スチーム・キャノンッ!」


 直径約50ミリの白い高熱蒸気が白い閃光のように走り、ヒースの胸を直撃した。


「ヒースウゥゥゥゥゥゥゥ――ッ!」


 ジェシカの悲痛な叫び。

 激しい衝撃破だった。ヒースの胸に命中した瞬間、前屈まえかがみの姿勢のまま数メートルも後方へ飛ばされ、壁に激突した。


「…………がぁっ……! く、くそ……いてぇ」

「ヒース!」


 衝撃に叩きつけられた壁からヒースは歯を食いしばって身を起こすと、ミツヤと一瞬だけ視線を交わした。


「なんだ、お前。俺の蒸気で腹に穴が開かねぇって、どういう能力ドナムだ?」


 ヒースとミツヤは同時に気づいた。ヒースが能力ドナムを発動中している間、その肉体は数千度の熱量すら耐え抜く。しかし――衝撃までは防げない。胸を押さえてうずくまるヒース。それでもその目から闘志が消えることはなかった。


(焦った……だが、問題ねぇ)


 自分の失敗に、ヒースは肩を落とすどころか士気すらも落とさない。なぜなら背中を預けられる仲間がいるからだ。まずは炎斬刀えんざんとうを取り返さなくては――ヒースが考えるより早くミツヤは既に動いていた。


「ったっく……!」


 雷のエネルギーを集め、右手をニット帽のマルコスの手に向けて電撃玉でんげきだまを放つ。


雷光弾サンダーショットォ――ッ!」


 稲妻を凝縮した光弾こうだんが指先から放たれ、マルコスの手元を正確に撃ち抜いた。


「があっ! か、雷か――!?」


 感電としびれにマルコスの指が反射的に開く。落ちた炎斬刀えんざんとうへ、ミツヤは一瞬で駆けた。


電光石火ライトニング・フラッシュ!」


 黄色い閃光せんこうが床を走り、滑り込むように刀を掴む。そこからヒースの元へ戻るまでわずかコンマ五秒だ。


「ヒース、赤いヤツは任せた。あれは……多分お前じゃないと無理だ」


 背中合わせに刀を受け取り、ヒースは無言で頷いた。


「……チッ。雷ヤロウ、随分ずいぶんと手慣れてやがるな」


 マルコスの表情に初めて焦りが見てとれたが、反対にザイードは不敵に舌を出して一歩前へ出る。


「マルコス、雷の方は任せた。こっちは俺がやる」


 両手を前に突き出し、叫ぶ。


原油弾クルード・ショットオ――ッ!」


 すると上下に合わせた両掌りょうてのひらから直径2センチの原油弾げんゆだんが数発、一直線にヒースへと飛ぶ。ヒースは刃に片手を添え、横一文字に構えて受け止めた。


「なんだこれ!? 刀がぬるぬるじゃねぇか! ……けど言っとくが、俺に熱は効かねぇぜ!」

「ヒースそれ、原油だ!」


 原油に炎を? 一瞬ひらめきかけたものの勝敗がつきそうにないと感じた――なら他の方法を考えるしかない。ミツヤは視線をマルコスへ向ける。


「じゃあ、その前に――磁石の方を片付ける」


 ミツヤの呟きが聞こえたマルコスは両手を前にかざした。


「なるほど。だが俺たちは負け知らずだ、覚悟するんだな!」


 しかしその挑発をヒースは一顧いっこだにしない。炎斬刀えんざんとうに炎をまとわせ、踏み込んだ。


「じゃぁ今日がお前らにとってだな!」

「何っ、炎だと!?」

「食らえ! 爆炎奔流ファイアバーストォ――ッ!」


 炎をまとった炎斬刀えんざんとうが床に打ち付けられると、解き放たれた炎は床を一直線にい、マルコスとザイードへと襲いかかる。


「うおおおおお――っ! 炎だああああああ!」


 本部の大ホールは普段なら200人以上を収容する集会場だが、閉ざされた空間で十数名の人間と悲鳴と能力ドナムが暴れ回る戦場に変わっていた。

 そんな中、ザイードは瞬時に蒸気の壁を作り、いとも簡単にヒースの炎をガードしてしまう。


「……ちっきしょう」

「へぇ……驚いたな。そこのオレンジのヤツ、炎の能力ドナムか。こりゃぁ……お互い熱じゃ決着つかねぇな」


 熱と地殻熱がぶつかり合う中――既にそのかたわらではミツヤとマルコスの戦いが始まっていた。




 ***《次回予告》***


 ヒース:なんだよアイツ! びくともしねぇ!

 ミツヤ:けどお前の方も攻撃効いてないんだろ? 他に方法あるはずだ。

 アラミス:お前ら、もう忘れたのか。2人にしか出来ねぇ技あったろ?

 ジェシカ:そ、そうよ! アレよアレ! でも、こんな屋内でやったら――。

 ミツヤ:アレか……! ヒース、連携の前に僕がマルコスを片付ける、なんとか踏ん張れよ!

 アラミス:……てなわけで、次回第13話、「雷 VS 磁力」。

 ヒース:テ、テメェ、勝手に予告……! くっそう、次こそ見てろよ?

 ジェシカ:そこ男子3人、聞いてる? その技だけは屋内でやんない方がいいわよ!

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