10 マルコスとザイード
2012年6月、ブラジル郊外のスクラップヤード。
仲間が消えても翌日には別の誰かがそこに立つ。気づけば母の作った借金を返すためだけの日々だ。家に帰れば薬に溺れた父が怒鳴り、物を投げつける。守られる場所はどこにもなく、自分が生きている意味も見えなかった。息苦しい……死んでも誰も困らない。毎日同じ言葉が頭を
――この世界ごと消えればいい。
その日、
――死ぬ。
そう思った刹那、
考えるより早く、マルコスはそこへ身を投げていた――。
ところが異世界で彼を待っていたのは、同じ
ある日偶然、再びあの揺らぐ穴を見つけた。
――帰れるのか?
だが戻った先にあったのは、救いのない現実と何ひとつ変わらぬ日常だけだった。
――なら、もう一度逃げよう。
事故現場へ向かうと、その穴は不思議なことに自分にだけ見えていた。迷いなくマルコスは再び身を投じる。
再び
自分はもう人ではない。
しかし次は
この3年後、
◆
2015年3月、エジプト西部砂漠の油田
家に帰っても安らぎはない。父は早くに
息苦しい。ここで死んでも誰も困らない。
――もうこんな世界、全てなくなってしまえばいい。
その日、地の底から獣の
次に目を覚ますと、制御不能な
――力を持った者が裁かれるなら、従う理由はない。オスタリア王国の拘留所で出会った2人は視線を交わし、決断する。
EIAを潰そう――この力は、不当な裁きを壊すために与えられたものなのだ。
◆
「これが正義のつもりか? 笑わせんな! 怖いモンを片っ端から消してるだけだ! 中世の魔女狩りとどこが違うってんだ!!」
人の形をした
どちらも非武装だが、それは油断の理由にはならない。それは彼らの特徴である、長く鋭い爪だけでも十分な殺傷能力があるからだ。加えて彼らの皮膚は通常の
オタオタと
――ガツンッ!
(……!? 腕に当てた音ではないぞ?)
サイモンの腕に
赤髪の巨体が滑るように距離を詰め、伸ばされた腕がサイモンの手首を掴む。
「銀の武器なら誰でも仕留められるとでも思ったか?」
そして、にやりと口角を上げる。
「ああ、それとな――ドナム発動時、俺の体表温度は2千度に達する。触れれば鉄をも溶かすぜ?」
ジュ……という音がして、サイモンの
「やめ……!」
ヒュンッ――!
間一髪、ジェシカの放った銀の矢がザイードの肩へ飛来。痛みで床に膝をついてのたうち回る。
「――があああああああッ!!」
「ジェシカ……!」
サイモンは反射的に距離を取って後方へ跳んだ。
(この私が……あんな少女に助けられた、とういうのか?)
彼は息を整えながら振り返り、クロスボウを構える少女を見る。サイモンは、胸の奥で何かがはっきりと変わるのを感じていた。
――そこに立つのは裏切者の対象ではない、この場で共に戦う者だった。
ジェシカの腕と覚悟を、彼はついに疑いようのないものとして認めざるを得なかった。
しかしその一瞬の隙を突き、目にも留まらぬ速さでマルコスは地面を蹴る。彼の手が伸び、ジェシカの
「やってくれるな! もう
「
だが、その号令が完全に届く前だった。
ザイードは肩に突き立った矢を乱暴に引き抜くと床へと沈み込み、そのまま姿を消す。
「地中へ消えたぞ!? どこへ行った!?」
ザイードを探してキョロキョロする対策部隊の男の前で一気に床を割って飛び出した。
「なっ……!?」
隊員は吹き飛び壁に叩きつけられる。残る者も銀の槍を振るう間もなく奪われ、それは
「さぁて、この娘もてめぇらの仲間か?」
「ジェシカ……!」
サイモンの表情が、初めて大きく
「おい小娘。そのクロスボウ、この世界の
マルコスは片手でジェシカの首を掴み、視線の高さまで無理やり持ち上げた。鋭い爪がジェシカの白く細い首に食い込み、細く血が流れる。
「ぐっ……あ、あたしは、イントル、じゃぁ……ない。けど、EIAでも……ない」
ジェシカは必死にマルコスの手に指をかけて
「ほう? じゃぁ何モンだ、てめぇ……」
「あたし、は……自警団、『
そういって腰から取り出した銀の短剣を全身の力を込めてマルコスの腕へ突き立てた。
「ぬ、ぐぅ……うあああああああああッ!」
ジェシカは床を転がるように身を立て直し、必死でクロスボウへ手を伸ばす。その手が
――だが、すぐに振動が足元から伝わる。床が盛り上がり、砕け、地中からザイードが躍り出る。彼はまるで最初からそこにいると知っていたかのように、ジェシカの正面へ立ちはだかったのだ。
見上げたジェシカの視界は、あっと言う間に赤髪の
ホールの空気は凍りつき、誰もが言葉を失った。
「ジェシカアアアアアアッ!」
サイモンの悲痛な声が響き渡った、その時だった。
乾いた破裂音が2発、ホールに
パンッ、パンッ――!
ザイードの肩に穴を開け、巨体がよろめくとすぐ次の一撃が、正確に
「ど、どこから……?」
誰もが音の方へ見上げるが、姿は見えない。すると天窓の裏でひとつの黒い影が動いた。
ガラスが砕け散り、影は宙を舞うようにホールへと降り立つ。そこにマスケット銃を構えた青年の影があった。
「ジェシーちゃん、無事か? 待たせた分だけ後で『お仕置き』してくれ!」
軽薄な言葉が、聞き慣れた声に乗って耳に飛び込んできた。
「アラミス――! けど『お仕置き』とかやめて! キモいから!」
そうは言いつつ、張り詰めていたジェシカの胸はほどけていく。
「誰だ、テメェ!」
「嬉しいね、聞いてくれちゃう?」
黒いスーツを着た青年は不敵に笑い、銃口を向けたまま名乗った。
「俺はアラミス。全女性の味方、
***《次回予告》***
ジェシカ:待ってアラミス。名乗りを上げる
アラミス:あ、ゴメン! 「
ジェシカ:そこじゃない! でもなんであたしの居るとこ分かったの?
アラミス:え? ジェシーちゃんの残り香を追うなんてこと、俺にとっちゃぁ朝飯前――。
ジェシカ:このヘンタイッ!!
アラミス:キ、キッツい飛び蹴り……キイタァ――ッ! でも、そんなジェシーちゃんも大好きだぁ!
ジェシカ:次回、第11話「8時だ。全員集合!」。もう病院案件ね……。
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