8 人型の異形獣(まもの)
EIA本部の集会ホール入口付近――。
そこに立つ見知らぬ1人の男と、無造作に投げ出されたEIA総裁の姿を目にした瞬間、会場全体は言葉を失い、更に遅れてやってきた現実に騒然となった。
男の服装は、ニット帽にトレーナー、カーキ色のワークパンツという、ごくありふれたものだった。街中に紛れ込んでいても一見、
血のように赤い瞳は
そして何より皮膚の下で脈打つ
「ひ、人型の
誰かの悲鳴じみた叫び声に黒髪の
「……あぁ? 今この俺様を
ふいに、男は消えたように見えた。そして気づいた時には白装束の1人が左手で首元を掴まれ、床から軽々と持ち上げられていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ――ッ!」
白装束は宙に浮いた足をばたつかせるが、
「お集まりの皆さぁ――ん!」
男の
「たった今から、パーティーの始まりだ!」
右手の指を
――ホールは一瞬で地獄へと
「う、うわあああああああああ――!!」
誰かの絶叫を合図に、次々と白装束たちの声を伴ってホール全体が悲鳴の合唱に包まれる。皆、互いを押しのけ合い足をもつれさせ、
「いやだ、死にたくない!」
「出口はどこだ!」
恐怖が恐怖を呼び、秩序は一瞬で崩壊した。
「さあ、始めようか。お前らが
男は中央の白装束へ向かって進み始めた。
「サイモン殿! 早く非難しましょう!」
その叫びに、サイモンはようやく我に返った。指導者としての仮面を被り直し奮い立たせる。彼は首から下げていた小さな細長い筒状の笛を吹いた。人の耳には聞き取れない音が発せられたようだ。
――総裁はもういない。今この場で指示を出すべきなのは自分なのだ。
「落ち着け! 前後の非常口を使え!」
叫びながら視線を走らせると、三角帽を外して床にへたり込んだヨハンの姿が目に入った。
「立てヨハン! 今、対策部隊を呼んだ、すぐにここへ来る!」
サイモンは彼の手を掴み、無理やり立ち上がらせる。
「サイモン殿……!」
涙目のヨハンの手を引き、その場から立ち去ろうとして中央に目をやると、既に
奥歯をぎり、と噛みしめ、それでも
「ぎああああああああああ――っ!」
激痛で反り返る人型の
「ジェシカ……!?」
「サイモン、早く皆を避難させて! 大丈夫、あたしに任せて。あなたから教えられた恩を返す時よ!」
一度は
「……ああ……誰だ?」
そう呟きながら男は振り返る。ジェシカは一歩も退かず照準を合わせ続けていた。
「この矢じりは銀よ。その場から少しでも動けば、次は額を打ち抜く」
サイモンの目に映ったのは、かつてのがむしゃらなだけの小さな娘ではない。恐怖の只中にあっても逃げず、たった独りで立ち向かう勇気と自信を身に着けた「戦士」の姿だった。
(ジェシカ……
ジェシカを見つめるサイモンの瞳に、これまでになかった戸惑いの色が浮かび始めていた。だが人型の
「なんだ、そこの小娘……生意気に銀の矢なんぞ持って来やがって。お前もEIAの一味か!」
ギラリと赤い瞳がギロリとジェシカを
だが、不意にその流れが止まった。非常口の向こうから数十人の武装兵が一斉に雪崩れ込んできたのだ。
「間に合った! 対策部隊が来てくれたぞ!」
口々に
「ほう……? ちったぁ楽しませてくれるってわけか」
下唇をペロッと
「――なっ!?」
銃は宙に浮いたまま一直線に男のもとへ吸い寄せられる。男はそれを、ストンとあまりにも自然に両手で受け取った。
「ど、どういう事だ!?」
何の魔法かと青ざめる白装束と隊員たち。その様子を楽しむように男は、耳まで広げた
「俺がこの姿になる前はドナム系イントルーダーだったこと、この姿を見ればわかるだろう?」
***《次回予告》***
ヨハン:サ、サイモン殿おおおおおッ! 大変です。人型の
サイモン:ヨハン。何度も言っているが興奮して唾を飛ばすな、頭巾を被れ!
ヨハン:も、申し訳ございません!
サイモン:それより鉄製の武器はもう使えないぞ。
ヨハン:サイモン殿!? あの男の
サイモン:そうだ。次回第9話、「2人目の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます