17 カスのリーダー

 その日の昼下がり――。


 場所は変わり、街外れにある一軒の宿の2階。

 ヒースたち一行が寝泊まりしているふた部屋のうち、男子部屋の中央には水色の髪の少女がいた。仲間の帰りをイラつきながら待っているのはジェシカだ。


 彼女はコップに注いだ紅茶を片手に、テーブルいっぱいに広げた地図をじっとにらみつけていた。ヒースたちの身柄、街の配置、そして次の目的地――考えることは山ほどある。

 そこへ階段を上がる足音が聞こえ、ドアの前で鍵を開ける音がした。ドアが開くと、ミツヤとアラミスが現れる。


「アラミス、ミッチー! 意外に早かったわね! ……って、ヒースは?」


 ジェシカがドア付近まで走り寄ると、アラミスの背後から見知らぬ女性がぴよこんと顔を出した。

 始めは明るい表情を見せたものの、ヒースはおらず、知らない人物を連れて現れた。また問題が増えたに違いないとジェシカは肩を落とし、椅子をテーブルに集める。


「じゃぁ、みんな座って。どうやら、まず自己紹介からになりそうね」


 ◆


「えっと……僕はミツヤ、17だ。高1の時この世界に来たイントル。今はブルタニーっていう国の自警団『青い疾風ブルーゲイル』の戦闘要員なんだ」


 ミツヤは、若干の緊張で固まりながらもこくっと頭を下げた。


 続いて、待ってましたと言わんばかりにアラミスが名乗る。


「俺はアラミス。同じく『青い疾風ブルーゲイル』のメンバーで狙撃担当だ。よろしくな」


 最後にジェシカが自己紹介した。


「あたしはジェシカ、16よ。同じくメンバーで中距離攻撃担当。よろしくね、で、そちらの方は?」


 先ほどから落ち着きなく視線を彷徨さまよわせていたアラミスをチラ見し、ジェシカは隣に座る淡いグリーンのポニーテールの女性へ視線を向けた。


「あ、すみません。今日は危ないところをこのお2人に助けて頂いた、ビアンカと申します」

「で? で? どこに住んでんの?」

「アラミス?」


 ジェシカの視線でアラミスはしぶしぶ口を閉じた。


「私、隣国のオスタリア王国に住んでるんです。今日は食材や雑貨の買い付けでこちらへ来ていたのですが……帰りに仲間とはぐれてしまって。そこへ現れた盗賊に絡まれていたんです……」


 しゅんと肩を落とすビアンカ。その仕草に反射的にアラミスの手が伸びるも、ジェシカがその邪悪な手の甲を黙ってつねった。


「ヒイッ!」

「今、オスタリアって言ったわよね?」


 フーフーと手をさすりながら悶絶もんぜつするアラミスを白い目で見つつ、ジェシカが声を上げた。

 それに対し、ミツヤが苦笑いしながら提案する。


「そうなんだ。で、考えたんだが――僕らがオスタリアまで連れてってあげないか?」


 オスタリアは、もともと次の目的地だ。

 隣国とはいえ、女性一人で何十キロも移動するのは危険が多すぎるし、同行すれば道案内も期待できる。反対理由があるとすれば、アラミスの暴走をどう抑えるか、くらいしか見当たらない。


「それならヒースに監視してもらえばいいだけね」


 ジェシカの一言に、アラミスは一瞬だけ複雑な表情を浮かべたものの、異論があるはずもなかった。

 道中女性が増えることは、ヒースが目を光らせるかどうかは置いておいても、彼にとって一番のモチベーションアップにつながる。

 こうして一行は次なる目的地――オスタリア王国までビアンカと同行することを決めたのだった。


「皆さんもオスタリアにご用があるのですね? よかった……ありがとうございます。しばらくの間、お世話になりますわ」


 場の空気が和らいだところで、ジェシカは早速話題を切り替える。


「詳しい話はあとよ。まずは――ヒースの奪還だっかん!」


 地図の拘留所を指で叩きながら、ジェシカが続ける。


「今夜にでも忍び込もうと思ってる。どう、ミッチー?」


 その問いかけに、アラミスもうなずいた。

 ミツヤがつい先ほどまで収容されていた場所だ。内部構造や警備の配置を把握している彼を案内役にすれば、成功率は一気に上がる。


「……あの牢に、お仲間が?」

「そうなのよ。隊長のくせに勝手な行動ばかりするから……あ、でもほとんど無実なのよ。そう。


 言い切りながらも、どこか歯切れが悪いジェシカだ。


「さっきはアラミスに下見で行ってもらってたところだったのよ」

「そうだったんですね……。でも、おかげで私が助かりました。あなた達に出会えて本当によかったです」


 その言葉に、アラミスが思い出したように眉をひそめた。


「……なあ、ひとつ気になってることがあるんだが、なんでミッチーだけ釈放されたんだ?」


 視線をミツヤに向けると、ミツヤは「僕にもよく分からない。運が良かった、だけじゃない気もするな」と、頼りない返事が返って来た。


「だよなぁ……」


 アラミスがあごに手を当てに落ちない様子でうなる様子を、ビアンカは冷ややかに見つめていた。


(この男……鋭いんだかバカなんだか、ヘンタイなんだか)


「――これを使えりゃぁ話ははえぇんだろうけどな」


 そう言ってアラミスが上着の内ポケットから取り出したのは、ブルタニー王国護衛隊・特殊部隊の認証バッジだった。

 縦長の五角形で片手に収まるサイズ。金属製の表面中央には国章である横向きの獅子ししが刻まれている。いわゆる身分証明のようなものだ。


「確かにね。けどそれを使って無理やりヒースを釈放しゃくほうさせたら、ブルタニーの護衛隊にって、逆に不名誉なイメージを植え付けてしまうぞ」


 と、すぐに反論したのはミツヤだった。


「しかも檻の前でそれ見せたら、ヒースなら絶対こう言うわよ。『早くそれ使って出してくれよ』って。国を出る時から自分が持つって言い出して、大変だったじゃない?」


 旅立つ前のやり取りが脳裏によみがり、ジェシカは呆れたように腰に手を当てる。


 アラミスも苦々しく笑った。


「ブルタニー王国と護衛隊には迷惑かけねぇって言い張ったクセに、便利なモンだと勘違いしてやがる。あの野郎言ってたからな。『これを見せれば、この周辺の国なら『ははーっ』ってなるんだろ? 1回やらせろ』つって」


 このバッジは、今回の「異世界への穴」および大教皇周辺の調査において、他国でトラブルに巻き込まれた際のみ使用を許されたものだ。一般市民はともかく、近隣諸国の衛兵や傭兵で、この紋章を知らぬ者はほとんどいない。

 前総隊長トージの暴政により今では格式こそ落ちたが、ブルタニー護衛隊は本来、歴史と実績を誇る軍事組織だ。


「絶対ヒースに持たしちゃダメなやつよね。失くしたら、始末書じゃ済まないんだから」


 ジェシカはヒースがバッジを紛失して皆が一斉に青ざめる光景を想像し、こめかみを押さえた。


 護衛隊の特殊部隊、その隊長。そんな肩書きを持つ人物が、仲間からここまで「けちょんけちょん」にこき下ろされている――そのやり取りを黙って聞いていたビアンカの視線が、徐々に変わっていた。


(ちょっと待って。よくこんな『カスのリーダー』にみんな付いていくわね。しかもこの金髪スナイパーも脇甘すぎ。どいつもこいつもバカぞろい……! この自警団、崩壊寸前じゃないの)


「アラミスさん、ちょっと見せてくださる?」


 ビアンカは興味深々でアラミスの持っているバッジに近寄った。


「まぁ……なんて格式高い。アラミスさんがお持ちなら、確かに安心ですわ」




 ***《次回予告》***


 ミツヤ:ビカンカがオスタリアから来たって、ちょうどよかったよな。

 アラミス:だよな! 現地到着したら住所をイてぇっ!

 ジェシカ:アラミスは今後、到着までずっと御者台ぎょしゃだいよ。

 アラミス:せっかくビアンカちゃんというトモダチが出来たってのに。

 ジェシカ:どうみても友達に対して向ける目じゃないわよ!?

 ミツヤ:……やれやれ。次回、第17話「タトゥーの男」。お楽しみに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る