11 チェスキー王国の影

 ドン、ドド、ドンドン、ダンダンッ――!


 このリズムは仲間で決めた合図。

 翌朝、宿の木製ドアが破られんばかりの勢いで叩かれた。


 バ――ンッ!


 扉が弾けるように開き、淡い水色の髪を揺らして少女が飛び込んでくる――ジェシカだ。


「二人とも起きて!!」


 ここは、4人が泊まっている宿の2階。

 男子3人――ヒース、ミツヤ、アラミスが同室を使っていた。

 もっとも、アラミスは夜明け前にすでに情報収集へと出かけており、今は不在だ。


 ジェシカはヒースのベッドへ突進し、迷いなく布団を一気にぎ取る。


「うわぁっ! な、なんだよジェシー!? いきなり――!」


 その勢いで床に転げ落ちたヒースが、寝ぼけまなこをこすりながら立ち上がった。

 続けざまにミツヤの布団も容赦ようしゃなく引っぺがされる。


「なんだジェシーかぁ……旅に出てもこれだからな。もうちょっと寝かせてくれよ……」


 パーン、パーン――。

 外から乾いた破裂音が鳴り響いた。

 まるで花火のようだが、この世界ではまだ使われていないはずだ。


 ヒースは重いまぶたをこじ開け、窓を押し開けた。

 王都の上空に白い煙がゆらゆらと立ちのぼっているのが見える。

 石畳の大通りには既に人の波が動き出しているようだ。子どもたちは旗を振り、大人たちは酒瓶を片手に笑い合い、まるで朝からお祭り騒ぎだ。


「すっげーにぎやかだな……今日はなんの日だ?」


 ヒースが欠伸あくびをかみ殺しながらつぶやくと、ジェシカが腰に手を当ててにらんだ。


「ほら、早く支度して。朝食べたら警備隊の本部へ行くんでしょ?」


「ういーっす。昨日捕まえたイントルの2人から、異世界への穴の情報を聞き出すんだよな?」


 ヒースがのんびりと答えると、ミツヤがドア下の隙間から差し込まれた床の新聞を拾い上げ、ページをめくった。


「そういや、あいつらどこの国から来たんだろうな」


 その時――。


 ギィ、とドアが開いた。

 黒いスーツに金髪をなびかせたアラミスが姿を見せる。

 窓から差し込む朝の光がアラミスの髪を照らし出すと、ミツヤはまた思う。


(――やっぱアラミス、映画俳優みたいだ。普通にしてたら絶対モテるのに。残念なヤツだな)


「お前ら、やっと起きたか。外じゃ祝砲が鳴りまくってる……もう9時を回ってんぞ」


 その軽い口調の中にも、ミツヤはアラミスの中にどこか焦りを感じ取った。

 アラミスの目はすでに街の中心――王都の円形闘技場をとらえていた。


「祝砲って、何の?」


 ミツヤの質問に、アラミスはツカツカと歩み寄るとミツヤの手から新聞を抜き取った。


「ミッチー、これ見たか?」


 アラミスが広げた紙面には、派手な挿絵と共にこう記されていた。


《英雄の闘技会 〜血と栄光の祭典〜 本日開催》


「『英雄の闘技会』ぃ? なんだそりゃ」


 ヒースが首をかしげていると、ミツヤは眉を寄せ、記事を覗き込んだ。


「なんか……嫌な予感しかしないよ。前も言ったけどこの世界の文明レベル、僕らの世界で言う17世紀くらいなんだ。この国の雰囲気だってチェコっぽいし」


 ヒースは、また「ミツヤが意味の分からないことを言ってるな」というような目で見た。

 彼は1歳の時、キャンプ中テントに火をつけられ炎上する中、額に火傷を負いながらこの世界へやって来た。それ以来、ずっとブルタニー王国で育ったのだ。そのためヒースは、ミツヤが言うところの〝自分たちの生まれた世界″は知らない。


「銃も火薬もあるけど、今まで回ってきたどこの国も、ほとんど権力者の独占だしな。印刷だってまだ教会の許可制。つまり――この国の娯楽と言えば異形獣まものを使った見世物くらいしかないんだろうな」


 ジェシカは確認しようとミツヤが見ていた新聞の記事に近寄り、顔をしかめた。


「じゃあこの『闘技会』って、まさか……」


 アラミスは無言で記事の見出しを指差した。


 そこには大きく――『VS 異形獣まもの(タイプ5)』の文字。


「おいおい、マジかよ……」


 ヒースの表情がみるみる険しくなる。

 朝っぱらからアラミスが珍しく真面目な表情を見せていた理由は、きっとこれだ。


「どうする? これを止めねぇと異形獣まものが見世物として始末されるぜ。俺たちは半年前のミッチー拉致事件の際、知ったはずだ――人間に戻せるってことを」


 と言って、アラミスは新聞をパシッと叩く。その音が狭い部屋に響いた。


 するとヒースが新聞をアラミスの手から抜き取り、三人に向き直る。


「俺たちの旅の目的地は、大教皇がいるエテルナ教の総本山、バチケーネだ。そこへ行く途中で出来るだけ多くの異世界へ繋がる穴の位置を聞き出し、その国の管理に置いてもらうと決めてブルタニーを2週間前に出発した」


 ミツヤとジェシカが、ヒースの真剣な言葉にしばらく耳を傾けている。


「だが、異形獣まものが元は人間だったって、知ってる国はどこにもねぇだろう。手当たり次第というわけにはいかないのは分かってる……だがよ」


 ヒースが拳を、ぎゅっと握りしめる。


「――俺は異形獣まものが昨日みたいに平然と首を落とされてんの見ても、スルーしてそのまんまバチケーネへ行くとか……無理だ」


 その瞳の奥に決意が見えた。


「言うと思ったよ」


 と、ミツヤはベッドからぴょんと飛び降りた。


「俺もそうくると思った。じゃぁ急ごう、出るとこ出て話をつけようぜ」


 そのアラミスの言葉に、ヒースとミツヤ、ジェシカは無言でうなずいた。


 窓の外では、再びパーンと祝砲が鳴る。

 それは、血と歓声の「ルールのない残虐ざんぎゃくショー」の開幕を告げる合図だった――。




 ***《次回予告》***


 ヒース:ジェシー、今朝は仕方ないけど……毎朝起こすのはえぇよ。

 ミツヤ:そうだよ。もうちょっと寝かせてくれよ。毎晩、朝までヒースとウノやってんだから。

 ジェシカ:だからその「ウノ」って何よ。それ仕事なの?

 ヒース:出た出た。ジェシーの仕事虫!

 ジェシカ:それやめてくれない? もう、予告いくから。次回、第12話「血と歓声の闘技場」。お楽しみにね!

 ヒース:ああクソッまたやられた!

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