7 イントルーダーは異物

「3人じゃねぇけどな!」


 ヒースは走りながら、去り際にトルデルが吐き捨てたあざけり――「お前ら、たった三人でやろうってのか? 笑わせるぜ!」という言葉に、届くはずもない応えを返した。

 オレンジ色の光をまといながら、刀を左腰に添えて街道を一直線に突っ切る。


電光石火ライトニング・フラッシュ!」


 続いて黄色い光が帯を引いて追走する。ミツヤだ。雷の粒子が地表を滑り、残像だけを置き去りにして姿を消した。

 それを見ていたアパート屋上のヨハンは、興奮のあまり声を裏返す。


「サイモン殿――ッ! く、黒髪の少年が消えました!」


 その隣でサイモンは平然と高みの見物をきめ込んでいる。


「あのミツヤという少年は移動の際、電気エネルギーを体内に蓄えて見えない速度で移動できる。残像に惑わされるな」

「そ、そんなことが――」

「それよりヨハン見ろ。異形獣まものの到着だ。彼らギリギリタイプ3判定と決め込んでるが、この2体は5メートルを超えてるぞ」


 彼の言葉を裏付けるように、遠くで地鳴りが響いた。ヒースの前方、建物の影から2体の異形獣まものが姿を現した。黒い体毛に鋭い爪、牙とあごは鉄をも砕く。


「でけぇぞミッチー! 俺は左のヤツを仕留める!」

「了解。僕は右をやる! ヒース! 異形獣まものは殺すなよ!?」

「わあってらぁ!」


 二人は地を蹴り、左右に散開する。

 その会話が屋上にまで届き、聞き捨てならない言葉にヨハンは息を呑んだ。


「サイモン殿、異形獣まものは元イントルーダーとのことですが、だからって……生かすつもりでしょうか?」


 元々異形獣まものは生命力が異常に高い。首さえ繋がっていれば、手足を斬り落とされても死なないのだ。


「彼らは今、近隣諸国を巡りながら、異形獣まものを倒しては保護している。我々にとっては異形獣まものもイントルーダーも。死んでくれたほうが有難いんだがね」

「けど生かしてどうするつもりでしょう?」

「人間に戻すらしい。その為に30日間、絶食させている」


 ヨハンが驚きに声を張った。


「に、人間に戻れるんですか!? 足斬り落としても?」

「ああ。戻る時に失われた部位も修復される。半年ほど前、ブルタニーの護衛隊研究班が発表した。異形獣まものは人間を喰らうが、人間がいない場合は共喰いを始める。それを檻で隔離かくりし、完全絶食させる――ただそれだけだ」


 異形獣まものがイントルーダーの成れの果てであるという事実だけでも衝撃だったが、ヨハンは元に戻せると聞いて矢継やつばやに質問を投げかける。


「絶食だけで戻れると? しかしサイモン殿。そもそも、イントルーダーはどのようにして異形獣まものに変化するんです?」

「極秘ゆえ講習会でも触れられない部分だが――彼ら異世界人は彼らの世界へ繋がる『穴』から何らかのきっかけでやって来る。ところが、その穴は彼らにしか見えない」


 ヨハンは絶句し、唾を飲み込む。屋上を吹き抜ける風がパタパタと白装束をはためかせた。


「彼らは穴を見つけると大概たいがいは元の世界へ戻りたがる。」


 当然だろう、といった風に2度大きく頷くヨハン。


「ところがだ。どういうわけか、また同じ穴を通って戻ってくる者が多いと聞く」

「なんと……で、ではその時に異形獣まものへ変化するということですか」

「そうだ。異形化した者は、もはや人としての意識を持たず――ただの捕食者となる。欲望のままに、人間を襲う」

「なんと恐ろしい。彼ら、そんな者でも助けたいのですね」

「全くだ。放っておけばいいものを」

「人間に戻っても、イントルーダーのドナムで暴れられたら、たまったものじゃないですよね」

「それはないらしい。人間に戻るとドナムは完全に失われる。もうただの侵入者イントルーダーでしかない」


 ハンスとサイモンが話をしている間に、ヒースは突進してくる狼型の異形獣まものの10メートル手前に立っていた。話に夢中だったヨハンの視界には、いつの間にか巨体が影のようにヒースへ迫っている。


「ち、近すぎます! あれでは喰い殺されます!」


 しかもヒースの数メートル後方には負傷して動けない警備隊員たちがいる。ここで食い止めなければ――!

 ヒースは足を踏みしめた。

 瞬間、熱気がドッと周囲に広がる。


おおかみ野郎、こっからは一歩も通さねぇ!」


 異形獣まものの赤い目を真っ向から睨みつけ、炎斬刀えんざんとうを振りかぶる……!


爆炎奔流ファイアバースト――ッ!」


 ゴオォォォォォォォォ――――ッ!


 牙まで10メートル。

 ヒースが力の限り炎斬刀えんざんとうを、地面に打ち付けると、刀身から噴き出した炎が地面をうように走り、1秒足らずで異形獣まものの胴を飲み込む。

 炎に包まれた異形獣まものは奇声を上げてすぐに動きを止めた。


「ミッチー、そっち頼んだ!」


 その叫びが耳へ届く前に、既にミツヤは2体目の異形獣まものを前に、数歩後ろに下がり、バレーボール大にした電気の球を10メートルも空へ放っていた。

 視線を球へ合わせたまま軽く助走をつけ、上空へ跳ぶ。

 空中で左手を前に伸ばし、体を大きくらせ、右腕を引き絞った形はまるで――完璧なスパイクだ。

 右手の中指の付け根あたりに雷球かみなりだまの中心をとらえた!


 そのシルエットがヨハンの目線――およそ地上8メートルの高さに達した瞬間、ミツヤの背に「翼」が見えた気がした。


「なんと高いジャンプ……!」


 反り返った身体のバネを利用し、雷球かみなりだまへ強烈なスパイクを打ち込む――!


「食らえ! 雷霆爆弾サンダースパイク――ッ!」


 バリバリッと空気を切り裂くような音と共に電光がスパークし、電撃が背に叩き込まれた異形獣まもの痙攣けいれんし、そのまま轟音ごうおんと共に沈黙した。


「サイモン殿、見ましたか!」

「フンッ……それでも、に過ぎんのだ」


 サイモンの小さな呟きはヨハンの耳には届いていない。次なる脅威が目の前に展開されていたのだ。


「見て下さい! 3体目の異形獣まものが、ヒースの背後に!」


 見ると、ミツヤのジャンプサーブに気を取られた一瞬の隙に、最後の1体が背後から飛び掛かってくる。巨大なあごが大きく開くとよだれが糸を引いた。牙が……ヒースの頭に迫る!


「ヒース、後ろ――! って、あ?」


 ミツヤが叫びかけ、ふいに安堵あんどの息を漏らす。

 ミツヤの視線は数百メートル先、3階建て建造物の屋上に向けられていた。そこには、黒いスーツに金髪の青年。腹ばいになってマスケット銃を構え、標的を狙っている。ミツヤはギリギリ肉眼でその姿を捉えていた。


「――距離、521メートル。風速2カンマ4、角度補正ほせいマイナス2」


 あろうことか、弾道計算を暗算で行っていたのだ。


「サイモン殿! 誰かが狙撃しようと狙っています! しかし、あんな距離で命中できるはずが――!」




 ***《次回予告》***


 ヒース:なぁミッチー、あのビルの上にさっきから白い服着た奴が2人いるの、気づいてたか?

 ミツヤ:ああ、トンガリ帽子2人組だろ? 何者だろうな。 そいやジェシー、アイツもずっと後方のビルの上にいたぞ?

 ジェシカ:あー、走るより早いんだって。

 ヒース:ケッ! ヤツはいなくても問題ナシだ。じゃ予告いくぜ? 次回第8話。あれ、何だっけ?

 ジェシカ:次回、第8話「そのスナイパー、難あり」。お楽しみにね!

 ヒース:クソッ、またやられた!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る