スパイダーウォーク

茶村 鈴香

スパイダーウォーク

40すぎても

びっくりするほど

彼は身体が柔らかい


直立して、後ろに反っていって

ブリッジ

そのまま手足で歩けたりする


あんまり勢いつけずに

側転も出来る

逆立ちでいつまでも

立っていられる


トンボ返りは一度なら

昔はニ連続出来たらしい


そんなことできるの?


知り合った頃は

イタリアン食べながら

ワインの産地の話したり


炎天下並んで

新進気鋭の 

体験型アート見に行ったり


着物着付けてもらって

川越の古びた街中を

人力車で巡ったり


そんなデートだった


今日はちょっと遠くの

アミューズメントパークに

車で行く予定 だった


なんらかの事故渋滞で

にっちもさっちも行かない

あなたは鷹揚に構えてるけど


私意外と

“イラチ”なんだよね


「ね、もう高速降りよう」

「遊園地は?」

「着いたらじき閉園しちゃうよ

降りて休憩しよう」


渋滞の運転も疲れるじゃない

辿り着いたインターから

地獄の低速道路を脱出


大きな川沿いの

何にもない広場

酷かったねぇと笑って


何にもしないデート

こんなのもいいね

さぁさぁと水音だけ


やおら 彼は立ち上がり

背筋を伸ばしたかと思うと

そのままブリッジの体勢になる


「曲芸のサービス?

てか、なんでそんなこと

出来るの?」


彼は男の子三兄弟だった

揉め事があれば力技で決着

相撲にプロレスに柔道に


“喧嘩にもルールがあるの

戦うんならちゃんと

守りなさい”


お母さん、賢いかも

文句があるなら1対1

もう1人が公正な審判


ちなみに彼は1番年下

容赦なくやられて鍛えたらしい


「だもんで、場所があると

ブリッジとかしたくなる」

40を過ぎても


それなら

私も言ってなかった過去が


「…隠してた訳じゃないけど

私も学校卒業するまで

空手やってたんだ」


「そうなの?瓦とか割れる?」

「多分10枚くらいは」

「今度ガチで戦おうよ」

「身長分のハンデはちょうだいね」


シティ派の大人気取ってた

お互いにね

でもこれから面白いかも


40を過ぎても 


「瓦割り教えてよ、

関節技とか教えるから」

「だいぶジャンル違うのよね…」


まぁ若くもないし

無理なく遊ぼうね


黒帯で三段持ってるのは

しばらく内緒


“上段突き”から教えてみる

私はブリッジから教わる


「無理すんなよ」

「お互いさまでしょ」


名前も知らない川沿いで

何してんだろうね 私たち


40を過ぎても











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スパイダーウォーク 茶村 鈴香 @perumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ