#12

 それからの日々はずっと忙しくなった。

 昼過ぎまではゴブリンの森でゴブリン狩りをして、夕方からは師匠の所で修業をする。

 そんな生活を一週間ほど続けていた。


 暗殺者同士の近接戦闘って言うのは、はっきり言って初撃以外ロマンが無い。

 そもそも暗殺術は一撃で仕留める前提なので二手目、三手目以降の手札が薄いのだ。

 師匠にはいくらか技を教えてもらい、それを実践する形で師匠に技を繰り出しまくっているけど、傍から見れば双方止まっている時間の方が長いので、大変つまらない光景だろう。

 自分のタイミングで一撃に全てをかける気持ちで間合いに入り、無理なら一旦引いてもう一度隙を窺う。

 そんな感じで修業は進んで行った。


 そろそろ手加減ありの師匠になら一撃を入れれるような気がしているんだけど、中々その一歩が遠かった。


「ふむ、今のは殺気が漏れてるね。早く私に一撃を入れたいのは分かるけど、その気持ちを優先すると技と思考に乱れが生じて行動を読まれやすい。特に野生の勘が強い魔物相手だと、殺気を漏らすのは厳禁だよ」

「はい!」


 殺気について考えた事は今まで一度もなかった。

 でも意識して殺気を押さえてみると、ゴブリン相手でも攻撃を読まれにくくなったりしたので、効果はあるみたいだった。


「技を使うのはいいけど、視線を変えない!」


 視線。それも大事な考えだった。

 特に対人戦で自分が狙っている箇所、例えば首とか心臓を見すぎると相手だってそこを警戒してくる。

 魔物だってそれなりの知能があるから、自分の狙いを悟らせないのは大事な事らしい。


「足が追い付いてない! そこ! 無策で動くな!」


 師匠の指導は兎に角、頭を使う事が多かった。

 暗殺者と言う職業は、職業柄フィジカルが他の職業よりも劣っている事が多い。それを補うには頭を使って、小手先の技術を磨く必要がある、と言うのが師匠の考えである。

 それには俺も同意なんだが……師匠の求めるレベルがかなり高かった。


 でも俺は必死に師匠に食らいついて行った。

 迫る手刀をよく見て、最小限の力を体に加えて躱す。

 そこら辺の冒険者ならこの時点でそれなりに隙が生まれているけど、師匠はそう簡単に隙は見せてくれない。

 だから自分から動いて師匠の構えを崩す!

 逆手に持ったナイフを前に突き出して肉薄する。

 

 この攻撃はおとりだ。

 俺は対応される前提で、わざとナイフから手を離し、上に投げた。

 そのままの勢いで師匠の肩を支点に一回転し、空中でナイフをキャッチする。

 そしてそのまま刃が潰されたナイフの先を師匠の背中に押し付けた。


「おっと。これは発想の勝利だね。君の勝ちだよ、リク」

「ありがとうございます! 師匠!」


 どうやら俺はようやく師匠から一本取る事に成功したようだ。

 にしても自分の身体能力が日に日に上がっている気がするのは気のせいだろうか?


「ああ、何故土壇場であんな動きが出来たのか自分でも疑問なのかい?」

「え? は、はい」

「それは魔力が原因だよ。このシュテルクライネの人間は日常的に肉体と魔力を親和させていって、身体能力を上げているんだ。まあそれも各々限界があるから、私みたいに超人的な動きが出来る人もいれば、ほぼ変わらない人もいるんだけどね」


 その話は初耳だった。

 なるほど、魔力が肉体を勝手に改造してくれてるお蔭で、俺の身体能力が少しずつ上がっていたのか。


「俺も師匠くらいの身体能力を得られたりするんですか?」

「それは才能としか言えないね。まあ体を動かせば動かすほど、魔力は体に馴染むと言うから訓練に励むことだね」

「分かりました!」


 師匠の元で短刀術を学んだ結果、俺はパーティの中での火力がドンドン上がっていった。

 今まで苦戦していたゴブリンも、俺が心臓にナイフを一突きするだけで終わる事もあった。


「おお! リクは凄いなぁ」


 そう言っているリンも槍術を習い、今までとは比べ物にならない程実力あげていた。

 マユも攻撃魔術を多数習得し、場面場面に合わせて俺達の援護をしてくれるようになった。


「うんうん、みんなそれぞれのギルドで腕を上げたみたいでよかったよ。これで僕たちのパーティも前よりもっと安定してきたね」


 シュンの言う通り、俺達のゴブリン狩りはドンドン安定していった。

 相変わらずの極貧生活は続いているけど、前よりも絶望感がなくなりパーティのみんなが前をしっかりと見て、着実に実力を上げていた。

 ギルドに加入していないシュン、ハヤトも自主練習を着実に繰り返して実力を上げている。

 そして今日、シオリはなんとドクロちゃんの召喚に成功したのだった!


「にしてもドクロ、ドクロ言ってるからてっきり理科室の人体模型的な骸骨を予想してんだが……」


 ゴブリンの森で初めて召喚されたドクロちゃんは端的に言うと骨の獣だった。

 肉が付けば狼とかだろうか?

 元となった動物は分からなかったけれど、取り敢えずドクロちゃんは人ではなく獣だったのだ!


「おお! ドクロちゃん、私はずっと君に会いたかったんだよ……」


 シオリは初めてドクロちゃんに会えた喜びで泣いてしまった。

 そんな情けない主人をいたわるように、ドクロちゃんは骨の体で主人を優しくさすった。

 見た感じ頭蓋骨の中には何も入ってないし、ドクロちゃんはどこで思考をしているのだろうか?

 まあここは異世界だし考えるだけ無駄か。

 そもそも骨だけの物体が生き物のように動いてる時点でおかしいからね。

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