#11

 早速次の日の夕方に、俺は暗殺者ギルドへと足を運んでいた。

 似たようなギルドだと盗賊ギルドも存在しているけど、ナイフによる近接戦闘力も鍛えたいので俺はこのギルド暗殺者ギルドを選んだ。


「ごめんくださーーい」


 暗殺者ギルドは暗い路地の中にあった。

 なんだかそれっぽいなと思いつつ、若干の恐怖心を感じながら扉を開ける。

 中は薄暗く、蝋燭の微かな明かりが室内を照らしていた。

 そしてそこには誰もいなかった。


「ってうぉ!」


 誰もいない事を不思議に思ったのも束の間、俺は突如として背中を誰かに蹴りつけられた。

 反射的に腰のナイフを抜いて、背後にいる何者かを切りつける。

 しかしそのナイフは、背後の人物に余裕の表情で受け止められしまった。

 全身黒ローブで顔には仮面を被っている明らかに怪しい人間。

 男か女かも分からない人物は、少しだけニヤリと笑ってから口を開いた。


「まあ駆け出しの坊やにしては優秀ね」


 そう言って黒ローブのは仮面を取り、深々と被っていたローブを豪快に脱ぎ捨てた。


「私はシャルロット、この街の暗殺者ギルドのギルド長よ。よろしくね坊や」

「俺はリクです、よろしくお願いします」


 ローブのせいで分からなかったけど、シャルロットさんはとても大きなお山を二つ持っていた。

 それに魅惑的な太もも、見惚れる程綺麗なくびれは最早芸術だった。

 おっと、初対面の人相手に浮かれるなんていけない、いけない。


「にしても今どき暗殺者ギルドなんて、坊やも物好きだね」

「えっと……ここって人気ないんですか?」

「ええそうよ、ワースト一位を争うくらいに人気がないわ」

「そ、そうだったんですね……」


 シュテルクライネの事情にあまり詳しくない俺は、正直言って意外だった。

 だって暗殺者とか、男の子だったら一度は憧れる事のある職業だと思う。

 俺だってガキの頃は一時期スパイとかに憧れていた事もあった。


「だって暗殺者に対するイメージって……危険そうとか、陰気臭いとか、話しかけにくいとか、怖いとか散々なのよ? そんなんだから年々盗賊ギルドに人を取られて、ウチはもう十人ほどしかいない弱小ギルドに……」

「あの、泣かないでください。シャルロットさん」

「泣いてないわよ」


 いや、嘘つけ。

 絶対にシャルロットさんは泣いていた。

 だって今も袖で必死に目を拭っているんだもん。

 この一瞬で俺は彼女の事を危険ではないし、陰気臭くはないし、話しかけにくくもないし、怖くもないけど……変な人だと感じた。

 そう、シャルロットさんは残念系お姉さんである(多分)!


「でも新人が入ったからにはビシバシ鍛えてやるわよ、坊や! これでも私はパーティを組んでた時代は金級冒険者なのよ!」


 そう言って、金色に輝くプレートを俺に見せつけてきたシャルロットさん。

 なんだかお姉さん系で豊満な見た目の割に、どや顔で自慢してくるものだから更に残念お姉さんのイメージが加速してしまう。

 だけど金級の冒険者と言うのは、自慢するに値するほど高位の冒険者ではあった。

 シュテルクライネに来てひと月弱、俺は初めて金級の冒険者に出会ったのである。


「よろしくお願いします!」

「その意気よ、坊や。まずは徹底的に体を鍛えるわ! 冒険者はフィジカルが命! 軟弱者はすぐ死ぬのよ!」

「はい! 師匠!」

「お、早速師匠呼びだなんて…………その調子で頑張りなさい!」


 それから地獄の訓練が始まった。

 シュテルクライネに来てからの数週間で自分の体力には自信がついてきたはずなのに、その自信は一日にしてなくなった。

 暗殺者のくせに徹底的な走り込みを強要してきた師匠シャルロットさんは、俺と同じメニューで街中を走り回ったのに息を切らしてなかった。

 流石は金級冒険者と言った所だろうか、俺は既にバテバテで立っているのもやっと、と言った状態だった。


「軟弱だね」

「し、師匠がヤバいんですよ」

「もう、最近の異邦人はもう少し優秀だと聞いていたんだけどなぁ」

「あれ、俺っていつ自分が異邦人だって言いました?」

「ああ、それは協会から聞いたんだよ。リクのパーティと……それともう一つ、異邦人のパーティを組んだってね」

「なるほど……」


 それにしても俺ら以外の異邦人で構成されたパーティか、少し興味があるな。


「まあ私は異邦人とかそう言うのは一切気にしないからな! ほら立て、次は短刀術だぞ」

「は、はい」


 俺は疲労でフラフラになった体を何とか動かしす。


「ほら、これを使って、刃は潰してあるよ」


 師匠から刃潰し済みの練習用ナイフを受け取った。

 えっと、これを持ってどうするんだ?


「かかってきなさい、リク。私に一撃を入れたら短刀術の訓練は終わりだよ。それまでは何回だって挑戦するんだね」


 俺に手招きをしながらかかってこい、と言う師匠。

 俺はナイフを構えるけれど、師匠の構えに隙が無さ過ぎて固まってしまう。

 師匠は素手なのに、どう動いても俺が倒される未来が見えてしまうのだ。


「どうした? こないのかい?」

「い、行きます!」


 もう一度深呼吸をして、ナイフを構えなおす。

 先ほどと同じように、俺が付け込めるような隙は見当たらない。

 だけど俺は師匠の間合いへと入り込んでいった。

 予想通り、俺のナイフに合わせて師匠の手刀が迫ってきた。

 最初からその攻撃を予想出来ていたので、俺は体を捻って手刀を回避する。


「ほう、目はいいみたいだね」

「昔から観察眼だけは自信があるんです」


 今の一瞬の攻防で分かったが、俺が今の実力で師匠から一本取るのは、恐らく不可能だ。

 あの素早く的確なカウンターを避け、更に攻撃を入れるなんて不可能すぎる。

 でも、男ならやらないといけない瞬間がある!


「おりゃぁぁ!」


 もう一度師匠に肉薄する。

 次は一撃を入れたら勝ちと言うルールなら、攻撃を食らってでも一撃をいれてやると言う魂胆だ。


「暗殺者は大声で叫びながら攻撃しない!」

「ぐへぇ!」


 もっともらしい指摘を受けながら、俺は師匠の手刀で空に飛ばされる。

 クソッ、尻が痛い……。


「俺の本職は魔術師なんですよ……」

「ほう、それは初耳だね。でも、リクが暗殺者ギルドに来たからには、君には立派な暗殺者になってもらうよ」

「まあそれに関しては、願ったり叶ったりなんですけどね……」


 ――リクの本当の職業は黒魔術師だ。いつかこの問題は僕が解決するからそれを忘れないでくれ。


 出発の前に、シュンは俺に対してそう言ってきた。

 確かに俺は黒魔術師としてギルドで一週間訓練を受けた。

 勿論魔術師としての誇りはある。だけど今のパーティで必要なのは、暗殺者とか盗賊のような職業だ。

 だから俺は弱音なんか吐かないで、しっかりと暗殺者としての技術を磨く必要がある。


「ッ!!!」


 心の中では叫びながらも声には出さず、ナイフを握りしめて加速する。

 師匠の攻撃は手加減されているのか、避けようと思えば避けれる範囲内だったので、丁寧に攻撃を捌きつつ、隙を窺っていく。

 ほぼ一歩も動いてないのにもかかわらず、師匠は俺の攻撃を全て受け止め、お返しのカウンター攻撃までがセットだった。


「いい目になったけど、まだまだね。今日はここで終わりよ。あまり遅くなると明日の活動に影響があるでしょ?」


 ふと小さな窓から外を見れば、既に月が昇っていた。

 気が付かない間に夜になっているほど、俺は集中していたようだ。


「ありがとうございました。師匠。また明日来ます」

「久しぶりに筋の良い弟子を取ったから私も楽しみだよ、がんばりな」

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