#13

「ところでシオリ。今まで訊いてなかったんだが、そのドクロちゃんはどんな場面で役に立つんだ?」

「えっとそれは……索敵とか? 戦闘能力は……私が生きてる限り死なないって強みはあるけど、そこまで高くないと思う」


 何……!?

 もしこのドクロちゃんがとても優秀な斥候だった場合、俺の立場はどうなるんだ!?

 クソッ、ここに来てライバル出現なのか?


「なら今までリクとリンでやってた索敵を、リクとドクロちゃんにしてみようか」

「なるほど。うんうん、ドクロちゃん、あそこのリクって人と索敵できる?」


 シオリが優しくドクロちゃんにそう囁くと、ドクロちゃんはまるで分かったと言いたげに骨の頭で頷いた。


「よろしく頼むぞ、ワンころ」


 俺がそう言って頭を撫でると、何故かドクロちゃんに手をかじられた。


「え? なんで怒るんだ!」

「えっと……ワンころ呼びが不服だったみたいです。ドクロちゃんは気高い獅子なんですよ!」


 犬系だと思ってたのに猫系なのかよ!


「分かったごめんよ、ドクロちゃん」


 俺がそう言うとまるでドクロちゃんは「よろしい」と言って、俺の手を離した。

 そして俺の手にはしっかりと、ドクロちゃんの歯形が付いていてた。


「よし、じゃあそろそろ休憩は終わりにしよう。そろそろ先に進むよ」


 こうして休憩を止めて、俺達はまた獲物になるゴブリンを探し始めた。

 ドクロちゃんはカチカチと、骨と骨がぶつかる不気味な音を立てながら、俺の横を歩いていた。

 どうやらネコ科らしく鼻がいいようで、ゴブリンの独特な臭いを察知できるらしい。


「ドクロちゃんってちょっと呼びにくいな……そうだクロなんてどうだ?」


 そう言うと隣の骨はカチカチと肯定の意を示してくれた。

 よし、今日からドクロちゃんのあだ名はクロだ!


「クロ、ゴブリンを見つけたら、俺の足をその骨で突いてくれ」


 そう言うとすぐに、クロは俺の足を突いて来た。

 どうやらタイミングよくゴブリンを見つけたらしい。

 双眼鏡を構えて、クロに言われた方向を慎重に探る

 確かに奥にはゴブリンの姿が見えた。

 それも一匹でぶらぶらと行動してる、通称放浪ゴブリンだ。


「でかしたぞ! クロ!」


 俺はすぐさま後ろのシュンに合図を送って、ゴブリンに奇襲をしかける。

 一匹のゴブリンを討伐する時の理想は、俺が奇襲して一撃で仕留める事だった。

 そうすれば他のメンバーの体力消費が押さえれるし、他の魔物に戦闘している事を気付かれる危険も減る。

 シュンの許可が出たので、俺はゴブリンへとゆっくり近づいて行った。

 クロは後ろに下がらせたので、無駄な音が出来る心配もない。

 師匠の猛特訓のお蔭で、移動の際に発してしまう音を最小限に抑えた俺は、ゴブリンに気付かれる事無く背後を取る事に成功した。


「ッ!」


 ある程度近づいたら、後は仕留めるだけである。

 息を強く吐くと同時に地面を蹴って、瞬間的にゴブリンへと近づく。

 そしてそのまま勢いを殺さずに、ナイフを後ろから心臓に突き刺した。


「よし……終わったぞーー!」

「おお! またリクが活躍やなぁ」


 はっきり言って今のはイージーすぎた。

 あんな無警戒のゴブリンを一撃で殺せないようだったら、暗殺者失格である。

 それでも人間褒められたら嬉しいもので、俺は浮かれていた。

 仲間五人とクロが俺のゴブリン討伐を喜んでくれてる雰囲気の中、俺は奇妙な感覚に陥った。


 ――――世界の流れが遅い。


 まるで精神だけが、物質的な世界から切り離されたかのような感覚。

 周りの情報が全く脳に入ってこないし、体も自由に動かない。

 自分の身に何が起こっているのか何も分からない。


 ――――それでも世界は進む。


 唯一正常に機能しているのは、視界だけだった。

 ゆっくりで、音のない世界の中、俺は最悪の光景を見る。

 突如として森の中から飛んできた鋭い矢が、リンの脳天に突き刺さってそれで――――――――


 ――――リンは死んだ。


 血が盛大に空中を舞い、リンの体は崩れ落ちる。

 必死に体を動かしても、俺の体は言う事を効かない。

 必死に藻搔いて藻搔いてそれで――――


 ――――世界は正しく進む。


 まるで今まで散歩していた魂が居場所を再び見つけたかのような感覚の後、俺の体は再び自由に動き始めた。


「リン!!!!」


 先ほどの現象はなんだったのか、そんな事を深く考える事などせず、俺は目の前の、のリンを抱きしめ、そのまま押し倒した。


 するとそれと同時に先ほどまでリンの頭があった場所をヒュン! と矢が通過していった。

 それを見たシュンが声を上げて、俺達は即座に戦闘態勢に移る。


「あ、ありがと」

「大丈夫か? どこか痛い所は?」

「ちょっと痛いけどこんくらい我慢できる範囲や。やっぱリクは頼もしいな」

「いや、今のは俺もなんで危険を予測できたのか分からないんだ」

「それは……どういう意味や?」

「取り敢えず、敵を始末してから後でみんなに話すよ」


 シュンとハヤトの目線の先には弓持ちのゴブリンがいた。

 その周りには三匹の剣を持ったゴブリンがいる。

 かなり手ごわい相手だろう。

 今の俺達が無傷で倒せるかどうかは、少し怪しいかもな。


「シュン」

「ああ、分かってる。ここは劣勢だ。撤退する。後衛は任せたよ」


 シュンも俺と同じ考えのようだった。

 まずは後衛のマユとシオリを逃がしたいけど、撤退するには相手の弓持ちゴブリンが邪魔すぎる。

 なんとか弓持ちの邪魔をしないと……って俺が魔術を使えばいいのか。


「マユ、攻撃魔術で時間稼ぎをしてから撤退を頼む! リンはマユとシオリの護衛!」

「わ、わかりましたっ!」

「はいよー!」


 マユが放った風の攻撃魔術が炸裂し、辺り一帯に暴風が吹き荒れる。

 その隙にマユ達は戦場から離れていく。

 逃がすものかと、弓持ちゴブリンは弓を引いた。


「っへ、そう来ると分かってたら、対策は立てやすいんだよ。『ストーンバレット』!」


 マユの攻撃魔術の効果時間中に用意した『ストーンバレット』を弓持ちゴブリンに直撃させ、更に時間を稼ぐ。

 既にマユ達は弓の射程範囲を抜けだしていた。

 そうなれば後は、男子勢による本気の鬼ごっこが始まる。

 勿論、鬼はゴブリンだ。種族的にもゴブリンは小鬼族だしね。


「逃げるぞ!!」

「おう!」

「うん!」


 シュンの叫び声に合わせて、俺達は一斉に逃げ出す。

 それぞれが三方向に一斉に走り出し、相手の狙いを分散させた。

 逃げる時の集合地点は予めパーティ内で決めてあるので、後は矢が当たらないようにジグザグに走って行けばいい。

 ヒュンと、俺の真隣りを矢が通過した。


「クソッ、あいつ俺の魔術に邪魔されたからって俺を狙うのかよ!」


 狙うなら大剣を持っているせいで、逃げ足の遅いハヤトだと勝手に思っていた。

 だけど実際はただの恨みで、ゴブリンは俺の事を執拗に追いかけまわしている。


「しゃーない、暗殺者兼黒魔術師としてはここが腕の見せ所だね」


 この最近著しく向上した身体能力をフル活用して、木と木の間をまるで猿のように駆け抜けていく。

 走りながら時々魔術を使って、ゴブリンを牽制してみる。

 だけど中々狙いを定めるのが難しくて、『ストーンバレット』が当たる事は無かった。


「あれ、なんでゴブリンは目が悪いのに、あの距離から俺を認識できているんだ?」


 そこでふと俺は一つの疑問を抱いた。

 ゴブリンの視力は人間でいう所の0.02くらいで、とても目が悪い。

 だからこれだけ距離が離れていて、ましてや木が生い茂っている森の中で、俺を認識するのは難しいはずだった。

 なら視力以外の何か?

 答えは少し考えれば単純だった。


「なるほど耳で俺の位置を把握していた訳か」


 俺は一度立ち止まり、まるで索敵している時かのように音無くす。

 するとゴブリン達はキョロキョロと辺りを見回して、やがてどこか別の方向へと走っていった。


「なるほど、こう言う逃げ方が正解だったのか」


 ゴブリンが離れたのをもう一度確認し、俺はパーティメンバーとの合流地点へと向かった。

 勿論俺以外のメンバーは既に集合していたので、かなり待たせてしまったようである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る