24.己立者ギルド受付


 己立者ギルドの受付嬢は書き物を記し終えた。

 それをファイルに纏めると、後処理として用紙や必要になりそうな資料を揃え、次の相談者への準備をする。

 そして机の上に転がっているペンを取り左側に置く。


 受付嬢は揃え終えると、正面にいるハイリアルに顔を向いて挨拶と要件を尋ねる。その顔は余計な力が入っていない自然な真顔だった。


 受付嬢は二十代後半の焦げ茶色の髪をストレートにした女性で、業務が終わったら同僚と無駄にだべらずに、着替えてさっさと帰宅しそうな感じだった。

 

 ハイリアルは言葉にしないが、彼女を一目見て、伯爵邸でこういう女性を雇っていたらもう少し業務が効率よく進みそうだと内心思っていた。


 ハイリアルは改めて、確認の為に己立者証を受付嬢に手渡す。


 受付嬢は己立者証を確認の為に見る。何か考えるように動きは無く無言だった。

 頭を上げハイリアルに顔を向ける。


 レイリーリャには、その顔は最初に挨拶した時と同じような真顔のように見えた。



「……こちらでの登録名はハイリアル殿で、D級己立者で宜しいですね。」



 受付嬢の声のトーンは落ち着いており、余計な媚びや思惑は現れていなかった。


 ハイリアルがそれに同意する。その声は気持ち緩やかだった。



「そうだ。……二つ依頼があるのだが、一つはあのドマーラルシズトの手配書に関する資料が何かあるのなら頂きたい。……それともう一つは、それに関する協力者を求めている。その斡旋を願いたい。」 



「……まずは、あのドマーラルシズトの手配書についてですね。少々お待ちください。」

 


 受付嬢はカウンターから離れると、奥にある部屋に入っていった。



―――なんか、あの受付の人、落ち着いて気品ある感じがするなー。やっぱり、貴族出身なのかなー?



 レイリーリャは受付嬢に感心する。



―――あの雰囲気は、わたしに出せるかなぁ?……



 少し経ち受付嬢は資料を持って戻ってきた。そしてカウンターに戻ってくると、カウンターテーブルの上に複写された手配書と資料を置いた。


 

「こちらがドマーラルシズトの手配書の複写です。

 料金は一枚に付き2大銅貨となりますがよろしいでしょうか。」



 複写された手配書には、掲示板と同じような雄羊に似た角を持つ似顔絵も描かれていた。



「構わない。」



 ハイリアルは上着のポケットに入れた財布を取り出し代金を出す。



「丁度2大銅貨頂きました。ありがとうございます。」



 受付嬢はカウンターテーブルに取り付けられたレジケースに金を入れた。ハイリアルは手に入れた手配証の写しを指で近くに寄せ見始める。レイリーリャもその後ろ越しに首を伸ばして眺める。



―――睨むようで、やっぱり悪いヤツの顔してるよね。……それにしても、どうやってこの顔描いたんだろ?見た人本人が描いたんじゃないよね……。



 レイリーリャは頭を捻る。

 受付嬢が紙とペンを差し出すと、ハイリアルは礼を言って写しの右横に置いた。

 受付嬢はファイルを開くと、黙々と読み始めた。


 

「このドマーラルシズトについてですが、黒羊魔族と思われる成人男性です。出現場所はキムタカシンを中心とした地域で、被害としては強盗や殺人が合わせて五件です。」



「……強盗か。」



 ハイリアルは呆れたように右口許を歪め薄笑いを浮かべる。



「はい。馬車強盗が三件で、そのうちの一件が依頼主が所有する馬車です。」



 受付嬢はファイルから目を上げハイリアルを見る。



―――五件も強盗や殺人をするなんて、やっぱり見かけ通りの悪いヤツだね。



 レイリーリャはドマーラルシズトに嫌悪し、心の内で非難する。その尻尾が左右に振られる。



「そうか。……そうなると、盗品を発見し奪還した場合の報酬はあるのか?写しにはその場合の報酬額は、賞金首自体のものしか記されていないが。」



 ハイリアルは尋ねる。

 この世界での予め奪還依頼が出ていない盗品に関しては、仮に誅伐者が奪い取って着服しても、暗黙の了解として罪だと認められる事は無いのである。



「奪還した場合の報酬ですか。……三件とも依頼が出ていて、盗品は金銭と貴金属ですね。

 それらの報酬は一件当たりの盗難として届けられた金額並びに盗品の評価額に対して、三割が一件に二割が二件ですね。」



 ファイルを読む受付嬢の声が低くなり、その眉間に皺が寄る。



「……三割と二割か……。余り良い報酬とは言えないな……。」



 考えるようにハイリアルは呟く。



―――えっ、そうなの?……わたしみたいな人には大金のように思えるんだけどなぁ……。



 レイリーリャはハイリアルが言った言葉に対して、言葉に出さず内心で意見する。

 そんなハイリアルの横顔はがめつく要求したいようではなく、何か思いがあるようにレイリーリャには見えた。



「それぞれの奪還依頼に書かれた盗難品と金額を見せてくれないか。」



 受付嬢はハイリアルが見れるようにファイルの向きを変え、ハイリアルの目の前に置く。



「ここに書かれております。」



 受付嬢は書かれた所を指で指す。

 レイリーリャもハイリアルの背中越しなのでよく見えないが、少しでも解ろうと背伸びしたり身体の角度を色々変え悪あがく。



「これか……。…………奪還された後の資産確保を考えているのか……。」



 呆れたようにハイリアルの声の語尾が下がる。

 受付嬢はそれには答えず無言でファイルを自分の手許に戻した。



―――…………けっきょく、どれだけか見えなかったけど、依頼した人達はケチでしょぼいという事なのかな?



 レイリーリャは眉間に皺を寄せ首を傾け考える。



「……まぁ、盗難品に関してはついでのようなものだから、それで良しとしよう。」



 ハイリアルは苦笑いを浮かべる。



「……誅伐報酬は手配者を生け捕りの場合は2金貨と1大銀貨で、殺害の場合は1金貨5大銀貨になります。」



 受付嬢は再び説明を始める。



―――へぇ~、生け捕りの方が高くなるんだ。

 ……ハイリアルさまの魔法ですぱぱーんってやっつけて貰ったら、貰えるお金が安くなっちゃうんだ……。



 レイリーリャは意外に感じ、目が少し見開く。



「やはり、生け捕りの方が望ましいのだろう。」



 ハイリアルは目線を上げ受付嬢を見る。



「はい。尋問や刑罰等を執行出来ますので、その方が望ましいです。」



 受付嬢もハイリアルの目を見て答える。



「そうなると、……手足を吹っ飛ばさない方が、強制労働させた時に役に立つか…………。」



 ハイリアルの目線が下がり、思考の海に沈む。



「治安当局の立場から見ましたらそうですが、当ギルドの立場といたしましては、手足の有無で報酬に変化させるような事は致しません。」



 受付嬢はハイリアルの顔を見ながら、苦笑いする。



「手配者を捕縛、連行して頂く事を重要視し過ぎて、手足を切断させないよう気を付けたお陰で逃げられたり返り討ちにあってしまっては、―――本末転倒ですから。」



 ハイリアルも同意したように苦笑いを浮かべる。



―――……そうなると、ドマーラルシズトの手足をハイリアル様がすぱぱーんって切っちゃっても、ギルドとしては問題が無いという事だよね……。



 レイリーリャは思考の海の中で渦に巻かれてしまう。

 渦に巻き込まれ、頭の中も変な回転をしてしまう。



―――…………それどころか、連行する前に両手を吹っ飛ばしちゃった方が、途中で逃げられたり襲われたりする可能性がなくなるぅ?



…………でも、足を吹っ飛ばしちゃったら、ギルドまで連れてくるのは大変になっちゃうかな?…………



 渦に巻き込まれ、目と頭の中ごとまとめてレイリーリャは、ますます速く回転させられ洗濯機のようになってしまう。



―――……いや、足を吹っ飛ばし、縄で縛ってズゼルーマーちゃんに引き摺ってもら…………いやいや、いや。そんなおっかない事考えちゃダメね。



 レイリーリャは眉間に力を入れ首を左右に振って苦笑いをする。


 気が付くと、渦に巻き込まれ溺れてしまい、深い海の底へ沈み始めていた。

 渦に巻き込まれ回転した際に、洗剤も一緒だったら、頭の中も真っ新になれたかもしれないのに。


 受付嬢はハイリアルの顔を、釘を打つように凝視する。



「なお手配者には、確認出来た所では、5人程協力者がいるようです。

 ……ギルドの見解といたしましては、単独での誅伐は原則として推奨しておりません。お気を付けてください。」



 受付嬢の言葉の語尾が強まる。



「……まぁそうなるのは理解するが……。


 …………こいつらは協力者というより、単なる下っ端なんだろうな……。


……ここまでくると本当に、只の盗賊だな。」



 ハイリアルは呆れながらも右口許に薄笑いを浮かべる。



「それと、過去の出現日時や被害状況等といった詳しい情報につきましては、資料室に置かれた資料を確認してください。」



 受付嬢の言葉にハイリアルは頷いた。


 フロントテーブルの向こう事務室側にいた若い男性職員が、ホールを繋ぐ扉を開き紙の束を持って出てきた。



「……次に協力者につきましては、…………申し訳ございませんが、ドマーラルシズト誅伐する協力者の紹介依頼を行っている己立者は、今のところおりません……。」



 受付嬢の詫びる言葉を聞いて、レイリーリャは思わず驚愕し、心の中に不安が拡がりながらハイリアルの横顔を見る。



―――えっ、ハイリアルさま、……驚かないの?



 ハイリアルは苦笑いを浮かべていた。



―――……余裕そうだけど、紹介して貰えないのに人が集まるの?



 レイリーリャの顔に陰が拡がる。

 扉から出てきた若い男性職員が掲示板の前で立ち止まった。そして手に持っていた紙の束から一枚つかむと、その上にピンを刺して貼り出した。



「……これは、ドマーラルシズトを一緒に倒したいと思う己立者がいないという意味ではございません。


「……ご要望に応えられる己立者がおられるかもしれませんので、このホールやあちらの食堂などにおられる己立者達を、ご自身で尋ね説得いたしてみてはいかがでしょうか。」



 受付嬢が正面に手で指す。

 レイリーリャも後ろを振り返り、その方を見る。


 その先には、セパレートする為に並べられたレイリーリャの腹程の高さの観葉植物があり、その向こう側に食堂のスペースがあった。そこには20組程のテーブルと椅子が並べられ、何組かの己立者達が飲食をしたり打ち合わせをしていた。


 レイリーリャはそこから視線が向けられるのを感じ、思わず向き合い目が合わないよう顔を逸らしてしまった。



「もし協力する者がお決まりになりましたら、決定した協力者名、期間、報酬金額やその配分、担当行動などといった各種契約条項や条件などを記した契約書を記し、こちらに提出して頂きたいです。こちらで認定、管理を行います。」



 受付嬢は私情が籠もっているように語尾を強める。


 小太りで眼鏡を掛けた中年男性職員がホール内にいた己立者達を突っ切り、掲示板の前で作業している若い男性職員の側にやって来た。それに気付いた若い男性社員は作業を止め小太りの中年男性職員のいる方に身体を向けた。その途端、小太りの中年男性職員は怒りをぶつけるように責め始めた。


 受付嬢はそれが目に入ると男性職員達の方に訝しげに視線を向けたが、すぐに表情を繕いハイリアルの方に視線を戻した。



「……そうしないと、報酬か何かで契約を違えた場合、その証明にならない……のだったな。」



 ハイリアルは確認するように、言い終わると受付嬢を見た。



「そうです。契約書を提出するのは義務ではありませんので、これを行わずに口約束でも協力者と目的遂行する事が出来ます。しかし、何らかの契約トラブルに遭った場合には、契約書を基にギルドで立証する事が出来なくなります。」



 受付嬢の説明を聞きながら、ハイリアルは理解していると伝えるように頷く。


 レイリーリャも聞いてるうちに感覚として的確で正しいかは解らないが、間違っている感覚を感じなかったので、とりあえず頷く。



「それに両者の合意の無い、悪質な契約違反があった場合には、契約違反者に対して己立者ギルドに関連する罰則が課されます。」



「罰則は罰金や斡旋停止、己立者ランクの剥奪あたりだったな。」



 ハイリアルが自ら確認するように呟く。


 掲示板の前で眼鏡掛けた小太りの中年男性職員は険しい顔をして、若い男性職員を詰り続けている。その間若い男性職員は自分に全ての責任があり申し訳ないように沈んだ顔をして、身動きせずに俯いたまま黙っている。


 小人族男性己立者が中年男性職員の顔を口許を歪ませ、憎らしげに横目で見ながら掲示板の前から立ち去っていく。



「……そうです。違反内容次第では己立者ランクダウンや資格剥奪などもあります。」



 受付嬢は一瞬男性職員達がいる方に目を向けたが、すぐにハイリアルに顔を向け顔に笑みを装いその呟きに答える。


 それを見てハイリアルは受付嬢が視線を向けた先を見ると、忌々しそうに眉間に皺を寄せ目を細めた。



―――……さすがにギルドの罰で鞭打ちや磔はないかぁ。



 レイリーリャは尻尾を左右に振りながら苦笑いをする。

 受付嬢とハイリアルの今の態度と意識に気付いていない。



―――……でも、町の統治者からの刑罰は、ギルドの罰則とは別に鞭打ちや磔があるか。



 レイリーリャは醒めたように淡々として尻尾の動きも止まってしまう。



「そのようなトラブルを防ぐ為にも、契約書を作成しこちらに提出される事をお勧めします。」



 受付嬢はハイリアルがこれに同意し行動する事を期待するかのように両口角を上げる。



「そして協力者と長期間、継続的に共同で目的遂行されるパーティを組む場合にも、こちらに契約書を提出される事をお勧めします。」



「そうか。……もしパーティを組む事を決めた時は宜しく頼もう。」



 ハイリアルの言葉の調子は内容とは異なり、気が入っていないようにさらりとしていた。

 レイリーリャはハイリアルの横顔をちらりと見る。



―――……なんか、まだパーティを組みたくないみたいに見えたけど、見間違いかな?



 レイリーリャはそう疑問に感じる。だが、それをハイリアルに尋ねるつもりは無く、ただ二人の様子を見ている。


 すると男性が詰る声がレイリーリャの耳に入ってきた。


 レイリーリャはその声の方に顔を向けると、男性職員を詰り続けている小太りで眼鏡を掛けた中年男性職員の顔が見えた。

ようやくレイリーリャも男性職員達の振る舞いに気付く。

その顔は見下すように歪み嘲笑っているように見える。


その瞬間レイリーリャの身体が竦み寒気が身体に拡がる。


 レイリーリャは小さくなった若い男性職員の背中を見て痛ましく感じ、遣り切れなく感じる。

 ハイリアルは少し我慢するような表情をしている。



「……今までの説明、礼を言おう。」



 ハイリアルは説明して貰った感謝というより、説明をした受付嬢に敬意を表すように礼としてゆっくりと慇懃に頭を下げた。それに合わせて受付嬢も、口許に笑みを浮かべながらゆったりと頭を下げる。


 レイリーリャは男性職員達の方に気が逸れていて、説明が終わっている事に気付いていない。


 ハイリアル達が頭を下げているのに目に入ると、無礼だと思われないか動揺しながら慌てて頭を下げた。


 ハイリアルは頭を上げると、掛けておいた薙刀を掴んだ。

 そして後ろを向いて中年男性職員のいる方をちらっと目に入れる。


 二人は掲示板や受付の前で並ぶ己立者達を避けて、その横を通り食堂の方へ歩いていく。

 レイリーリャはすいませんすいませんと並ぶ己立者に通らせるようお願いするように詫びながら、ハイリアルに置いて行かれないようにその後ろを付いて行く。



―――…………もしかして、これで『ドマーラルシズト』を捕まえちゃったら、この旅は終わっちゃうのかな?



 ふと、予想よりも簡単に決着が見え呆気なさを感じながら、ハイリアルの背中を追いかける。


 受付嬢はハイリアル達を見送りながら男性職員達に目を向けつつ、二人が立ち去るのを確認する。

 そして口許を歪ませ厳しい表情をしながら、無言で次の相談に備えテーブルの上の後片付けをし始めた。




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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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……この作者、他者評価に対して淡々としているようでも、やっぱり褒められると喜んでいるようなんです。


作者おだてりゃ 木を登り

ますます ハナシ 創りまくる

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