第52話 渋滞は街づくりの敵
おっと……。
完全に話が逸れていたな。
視察が目的だったはずだ。
ここ、エイビルベルグ第一学校。
概ね十歳前後に入学し、十六歳の成人くらいまでには卒業するという学校だ。
何で入学と卒業の時期が決まっていないかというと、大人でも学校に通う人が普通にいるからだ。
成人している亜人が、公用語となっている人間の言葉を学ぶために入学したりもするってことだな。
もちろん、飛び級とか、カリキュラムのつまみ食いとかも全然ある。六年制だが、六年居る奴はそこまで多くないかな?村長の息子とかだと、最低限の計算と自分の名前くらいは書けるから、基盤があるんだよ。
そんなこの学校の、最終学年、六年生だが……。
「進路希望……、『銀行員』『郵便配達員』『ダイナーの料理人』『スーパーマーケットの店員』『新聞記者』『鉄工所の工員』『ホテルマン』『鉄道の駅員』……」
俺は、手元の「進路希望相談書」を机に投げた。
ダメだこりゃ。
もう二度と、元の社会には戻らないねぇ……。
これはあれだ、集めたガキ共は、下手に田舎に送り返すことはせず、町で働かせた方がいいな。
農村は徐々に俺が土地を買い取って行って、農業会社にしてまとめて管理しちまおう。
農業で黒字出すの難しそー!でも、土地持ちのバカ共から土地を取り上げて一元管理して、領地の金でクソデカトラクター買い揃えて、呪印奴隷にしたカス共や無能で数の多いゴブリンとかコボルトを働かせまくれば、ワンチャン黒字か……?
農家利権のせいでどうしようもなくなった、小さな農地とその権利が入り組んだ日本の有様を見ていると、土地持ち農家から土地を取り上げたくなっちゃうよ俺……。
……うん、そうだな、やるか。
このまま、田舎から集めたガキ共は、このワルバッド辺境伯領の「都会的」な教育を施してやり、田舎に帰らないようにする。
そして、後継者不足で寂れた田舎の農地を、俺が買い集めて、一元的に管理する。
そら経済人というか、一社長としては、「食料でもなんでも、買えるもんは買った方が早くね?」とは思うが、支配者はそれじゃダメだよな。
国家には、例え赤字でもやらなきゃならない事業があるってことだ。
で……、まだ問題はある。
さっきの、都市に田舎から来たガキが留まっているよという話の続きみたいなもんだが……。
「おい足踏むな!」「腹減ったよー、ダイナー寄ってこうぜ」「そんなんでもねえなあ、適当なパン屋じゃダメか?」「おかーさん!飴買って!」「ぼうや、走っちゃダメよ!」「白羽運送でーす!お届け物でーす!」「どけよゴブリン共〜!」「おねーちゃん、どこぉ……?」「ママー!」「スリだ!この薄汚えコボルト野郎が!」「あっ、ハンカチ落としましたよ」「私の子はどこ?!すみません、人間の女の子を見ませんでしたか?!」「パパ!機関車!」「すごいだろ?パパは機関車の停まる駅で働いているんだぞー」
「……人が、多過ぎる!!!」
ちょっと洒落にならんでしょこれは。
多い、人が。
過密過ぎる、これでは。
人が集まるってのは経済的にはアドなのだが、社会的には両手を上げて喜べるもんじゃない。
公衆衛生やインフラ、治安の悪化!人が多過ぎて公権力の力が隅々まで行き渡らず、ヤクザのような組織もできつつあるし……、金が集まったが故にその他犯罪組織が集まりつつある。
これは流石に重大な問題だ。
ワルバッド辺境伯領で犯罪をやっていいのは俺だけなのに……!許せねえ、許せねえよ……!
俺に許可なく犯罪をするなんて、犯罪だろ!お前らゴミ共は俺に利用されて金を吐き出した後にひっそりと死ぬのが役目だろうに!
……いや、俺がやることは一点の曇りもなく全て『正義』な訳だが。だって正義と悪を定義するのは俺だから。
とにかく、悲しみを堪えつつ、俺は、幹部を集めて会議を開いた……。
はい、領主のマナーハウス。
もちろん、舐められないようにというのもあるが、俺の趣味もあって、マナーハウスは豪華絢爛。そして、マジックアイテムで冷暖房完備、大きな一枚ガラスの窓と、電灯まである。
上位者が慎ましい暮らしをするのが美徳だって?バカ言うな、金持ちが金持ちらしい生活をして愚民共に「裕福な暮らしのモデル」を見せてやらなきゃ、カス共が成り上がろうと奮起しなくなるだろ。
「偉くなっても責任が増えるだけで給料は大して変わらないし、このままで良いや!」みたいな奴で溢れると、国が終わるんだよ。底辺こそ成り上がろうと死に物狂いになって働かなきゃよ……。
はい、そのマナーハウス。
こちらで会議をします。
メイが資料を持ってきてくれたので、それをホワイトボード的なアレに貼り付けて、話す。
「えー、エイビルベルグですが、人多杉です。対策を今何やっているのか、大臣の皆さんはお話ししてください」
あ、因みに、大臣連中は色んな種族の奴らだぞ。
デストラン将軍とかザンガンデリンスは参謀本部とか軍部の人なんで、町割とか人口対策とかそういう話には呼ばない。管轄が違う。
大臣達は基本的に、各種族の有力部族の長や、先代から引き続きワルバッド辺境伯領の町長をやっていた人々とかだな。リーダー格の人材は、流石に六年ぽっちじゃ無から生やすことはできないっすねえ……。
そんな訳なので、旧世代から生きるリーダー陣を締め上げる。ちょっと〜、どうなってんの〜?と。
「ブ、ブルガザルゲドは、対策をしている!人が増えているから、マッシブ山は麓まで開発して街を広げている!これ以上は職人が足りない!」
ブルガザルゲド。ザンガンデリンスの父親で、オーク族最大の氏族「大黒山族」の族長。今はマッシブ山一帯に責任を持つ、オークの街の町長だ。
「アタシ達の支配下にある村は、十分な規模があるよ。集まってきたダークエルフは全部受け入れてるさね。別に人間共が来たって構いやしないけどさ、あっちが嫌がるんでね」
クルエル・ルナテク・マニアク。ダークエルフの村々の長にして、魔法大臣的なアレをやらせている。「学院」の長もだ。
「ぶひひひひ……、我が街、イクナインもまた拡張中ですが……、やはり多くの人々はエイビルベルグを目指す傾向がありますねえ。イクナインにも……いえ、イクナインでこその、人が集まる産業があれば良いのですが」
この豚みたいに太ったキモいおじさんは、先代の頃からイクナインの街の町長をやっている、オインク男爵だ。オインク男爵は、俺の弟と同じ薄汚い裏切り者野郎なので、俺が強いと見るや否や即座に土下座してきた。なので、生かしておいてやっている。
「ホゥ、新しき街『アジンバラ』は、まだまだ建設途中でございますホゥ。機関車とジャイアント族のお陰で、もう既にわたくしのマナーハウスと、バー、ダイナー、スーパーマーケットに学校などはできているのですが、住宅街は何分……、ホゥ」
こちらのフクロウのハーピィ、ナイトオウル族の爺さんは、名前を「山猫撫でたホゥ」という。変な名前だが亜人はそんなもんだ。で、こいつは、ハーピィのような定住地を持たない亜人の為の街、『アジンバラ』を、ワルバッド辺境伯領内に建設中なのだが……、まあ、そう簡単に街はできないな。ちな、こう言う街は同時並行で他にも何個も作っている。
他にも、各街の町長達は、「頑張ってるんだけどどうしようもなくね?」みたいなことを言ってくる。生意気な奴らだな、気に入った。殺すのは最後にしてやろう。
でもまあ、うん。
確かに、即座にどうにかできる問題ではない。
となるとこれは……、治安の悪化を防ぐのと、インフラの整備についてか。
俺は、大臣?幹部?とにかく目の前の偉い人達を送り返して、別の面子を呼び出した……。
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