第51話 夢見てる蕾は諦めない
さて、いつもいつも上手くいっている!という話しかしていないので、たまには上手くいかなかったところの話をして、改善案を考えていこうかな。
そう思った俺は、問題があったと報告された部署の視察を始めた……。
まず、最大の問題箇所。
「今更田舎になんて帰りたくない!」
「畑を耕すより、街で店を開きたいんだ!」
「勉強したから分かる!村に籠るだけじゃ、何も変わらない!」
「実家の稼ぎじゃ映画も観れないよ!」
えー……、近代先進国あるある。
やって来た留学生達が国に帰りたがらない問題!
……昔、生意気なノーミン共を支配する為に、村長とか富農の跡取り息子とかを無理矢理街に集めて人質とすると共に、「都会風」で「先進的」な教育を施してやったことは記憶にあるな?
それから、六年。十歳くらいの子供が六年も学べば、まあそれなりにはなる。
更に言えば、最早半ば義務教育としているので、亜人も学校に通っているぞ。
文字も読めるし、四則演算もできるし、法律の触りの部分を知り、国の歴史や王の名前を知り、そこそこの礼儀作法を知り……、ワルバッド辺境伯領の地理と各地の名産品や風土を知る。科学も少し分かる。
具体的に言うと……。
手紙が読める、新聞が読める。読んで理解できる。
小数や割合の計算ができるから、株が買える、運用できる。
法律が少し分かるから、契約書の書き方読み方と、よくある詐欺に騙されない方法を知っている。
礼法を知り、聖書も多少は読んでいるので、無礼打ちもされずに済む。
地理や経済、歴史を知るから、モノの価値が分かるし、ぼったくられたりしない。
科学は、基本的な衛生学や栄養学は、病気で死ぬ危険性を大きく減らす。
そして亜人は国語……、人間の言葉を完璧に理解している。
前に、ワルバッド辺境伯領の様子を西部開拓時代のアメリカと言ったが、すまんありゃ嘘だった。
このレベルの教育を受けさせてるんだもんな、西部開拓時代のアメリカ人より賢いぞこれ。
……で、人間に関わらず、知能を持つ存在が学を積むとどうなるか?
「俺、働きながら『学院』で勉強して、銀行員になるんだ!」
「僕はすぐにお金が欲しいよ。繊維工場で働いて、弟達に仕送りして……、田舎の弟達もエイビルベルグの学校に通わせる!」
「私は魔法使いになれたから、軍隊に入る!」
そうだね、目的を……、「夢」を持つようになるんだよね。
今まではノーミンと言えば、毎日何も知らず、何も疑問に持たずに鍬振って働いて、モンスターや盗賊に襲われるか、病気になるかで死ぬ。それだけだったのに……。
広い世界を知った今では、カスみたいな故郷に帰らずに、都市で働きたがるのは当然のこと。
うん、認めよう。
これは俺が悪いです。
だけどまあ……、「じゃあ、農村に人がいなくなって、食べ物の生産量が減ってる……ってコト?!!?!?!」と言われれば、実は、そんなこたぁないんですよね。
何故か?
それは……、生命オモチャ化ガチ勢と名高い、ダークエルフドルイド隊が大活躍しているからです。
この六年で大陸中から集まったダークエルフ共は、どいつもこいつも揃って倫理観がなく、死体を操る他にも生命を捻じ曲げる力を持つ死霊術を楽しくいじくり回して、様々な動植物の品種改良をやってくれたからだ。
そうだな……、また、お得意の例え話をさせてもらおうか。
ブロイラーはご存知か?
そうそう、鶏肉の鶏のことだ。
ブロイラーはね、化け物なんですよ。
いや、自然派ママとかオーガニック云々とかの話ではなく。
普通の鶏は、食べられるくらいまで大きくなるのに、五ヶ月かかるんだとさ。
でも、ブロイラーは、僅か五十日程度で成体になる。
そんな無理な成長をするから、ブロイラーは常に成長痛で苦しみ、病気になりまくり、生まれてきた何割かは碌に歩くことすらできないらしい。でも、食べる分には問題ない、と。
これが、人間の「品種改良」というやつだよ。怖いねえ。
そういう訳なので、ワルバッド辺境伯領では、あらゆる家畜、あらゆる作物をバチコリ品種改良させてもらったぜ!
研究者肌のダークエルフ共は、金と待遇さえ良くしてやれば、倫理観とか一切気にせずに言われたことをやるから本当に助かるな♡
そんな感じで、ワルバッド辺境伯領の生産力は、前領主時代の数十倍にはなっているんじゃないかな。
なので農地には、不自然にデカ過ぎる上に短い期間で成長する作物とか、キモいくらいムキムキで歩けない牛とか、毛が生え過ぎて前が見えない羊とかのオモシロ奇形生物に溢れている感じだ。
そうなってくると、ノーミンなんてそんないなくても良いんだよな……。
この世界の他の領地もそうだが、中世の人口の殆どがノーミンである理由ってのは、そうしないと食い物が足りないからだったのよね。
ノーミン一人で作れる食べ物の量は、ノーミン本人の分を除くと、二、三人分……。そんなような状態じゃ、人口の半分以上をノーミンにしないといけない。
だが、現代とか、今のワルバッド辺境伯領みたいに、ノーミン一人でもうん十人うん百人分くらいの食料を作れます!ってなると、ノーミンはそんなに多くなくて良いんだよ。
とにかくそんな感じで、社会構造が現在進行形で変化している。
ここ、領都エイビルベルグなんて、もう東京くらいに人口密度があってほんまに大変……。
と言うか、問題起こすのはやっぱり、領外から来た奴らなんだよな。
最近は隣のゼニーマン伯爵領に線路を伸ばしているのだが、まあカスわよね。
本当にカス。
ワルバッド辺境伯領だと、亜人共にも教育をしつつあるので、亜人でも弁えているんだ。
そりゃ、亜人なんて、人間基準だと全員サイコパスだからね。
オークなんてどんなに教えても力を持たない人間は見下すし、ダークエルフは放っておくとアンブレラ社か何か?みたいなオモシロ非人道的実験をやりまくる。ゴブリンはバカだし、コボルトは手癖が悪い……。
でもそれは基準を人間にしているからそうなのであって、法律という名の社会システムを上手く活用すれば、そんなカス共も一応は統制できちゃうんだよね。
ダークエルフに「人体を使ったオモシロ実験を直ちに中止せよ!」って言った時に、「それが正義だからです!」って理由だとダークエルフは納得しないよ。「社会公益の為に個人レベルでの人死を伴う実験は禁止しており、やりたい場合は公的組織の認可を受けてからやってね!」だと納得する。あいつらは理屈っぽいので。
で、そうやって人間から見ればダークエルフは理屈っぽい上に倫理観ないサイコ集団って感じなんだけど、ダークエルフから……と言わず、他種族から人間がどう見られているか?
人間は、他種族からすると、めっっっちゃくちゃに、「偉そうにしている」んだと。
善悪や道徳などという「人間の考えた基準」を絶対視し、それに反する存在は例え同族でも激しく攻撃し、虐待し、殺す。その癖、その基準に従う者は、どんな存在でも限りなく依怙贔屓する。
何様のつもりなんだ?と、亜人共はよく言っているよ。
そんな感じで、余所から来た「ニンゲン」共は、相変わらず正義だ何だとごちゃごちゃ言って、ワルバッド辺境伯領で問題起こしまくりなんだとか。
うーん、大変だなあ。
最近はワクワク鉱山労働ランドも、「儲かるから」って刑罰レベルの仕事をやりたがる亜人が多いから人足りてるし……。
ダークエルフの実験体行きかなあ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます