第50話 弟、回顧して曰く
いやァ……、ワルバッド辺境伯領には、もう先なんざないと思っとったんやけどなあ。
喋り方を商人風にして、わざわざ王都まで行って、王都の学園に通いながらも商人の見習いやって……、ワルバッド辺境伯の分家として、沈み行く本家からはとんずらするつもりやったんやけども。
まさか、兄さんがあんなに有能やとは思わんかったわ。
ガキの頃の兄さん言うたら、デストラン将軍っちゅうとんでもなく強いゴリラ女を連れて来たことと、メイドとやりまくってガキ産ませてたことくらいで、後は平凡なもんやった。いや、農奴に変な作物も作らせとったのと、小銭稼ぎくらいはやっとったかな?でも、大したもんやない。
……今思えばあれも、ボンクラ親父に危機感を抱かせないように、擬態しとったってことやろうね。
あのボンクラ親父なら、息子が有能過ぎて自分の立場を脅かす!なんてなったら、普通に殺してきそうやもん。力蓄えつつ、三味線弾いとったんやね。賢いわあ。
とにかく、ボクは一度しくじった。次はしくじれん、兄さんに従って、家臣としてワルバッド辺境伯家を盛り立てていかなならんて。
そんなボク、イトゥワール・ワルバッドは、外交官として隣領のゼニーマン伯爵のパーティーに出席した。
で、軽く話した感じ……、このゼニーマン伯爵も、まあ、カスやね。
親父と同じく、自分のことしか考えてへんクズや。
この国の貴族は大体こんなもんやけど、こうも同じような連中が多いとわろてまうわ。いや、笑えんけれども。
まあボクも正直な話、下民共が苦しもうが死のうが知ったこっちゃあらへんよ。その点ではこいつらと思考は同じやね。
下民のカス共は、ボクが楽に暮らす為に働いて、ともすればボクの盾になって死ぬべきや。カスなんやから、ボクみたいな「上」の人間の盾んなって死ぬのは義務やねんて。そう思うわ。
でも、下民共にお悔やみを申し上げて苦しんで見せるくらいの嘘をつくのが、統治者の仕事やん?
露悪的な態度をとって何がええんよ?偉そうにできて、自分が気持ちよくなるだけで、周りからは嫌われて馬鹿にされて舐められる。何もええことないやん。
普通に考えれば分かる話やんか。
この国の貴族は、それが分からんアホがぎょうさんおって困るわぁ。
下民なんて学のないアホなんやから、ちょっと煽てて勲章だの何だので褒めれば、勝手に名誉名誉〜!言うて死んでくれるんやで?
自分らの為に死んでくれる肉盾を馬鹿にするとか、その方が間抜けな話やんけ。
……その辺は、自分が王都で学園に通いながら、冒険者を使って色々仕事やってたからかもしれんけど。
いやぁ、馬鹿にしちゃあかんで?冒険者、つまり流民のカス共でも、都落ちした元貴族とか、なんか知らんけど腕が立つ奴とか、割と探せばおるねん。
そのカス共を上手く煽てて、「ボクが偉くなった暁には家臣にしたるで!」なーんて調子ええこと言うてやれば、死に物狂いで働くんや。
貴族、支配者の仕事なんてのは、民衆という名の猿を、猿回しが如く操ることや。猿を馬鹿にして殺し回ることやあらへん。
ゼニーマン伯爵は、その辺が分っとらんアホ貴族の典型例みたいな奴や。
「経済……?ふほほほほ!経済と申しましたかな、イトゥワール殿?!馬鹿らしい、貴族であるならば、下民共から欲しい時に収奪すれば良いのです!」
ほら、見てみい?
こないな奴や。
馬鹿丸出しやね、生きていた方が有害なカスやわ。殺してやった方がいっそ「慈悲」かもしれんね。
「ははははは、いやほんまに、ゼニーマン殿の言う通り!ですが……」
めんどいわ、ほんまに。
説明するのが。
「ですが?」
「魔導列車の『線路』が通れば、このゼニーマン領にもワルバッド辺境伯のものが簡単に入って来はります!畜肉、海の魚、麦、酒……、今話題のワルバッド辺境伯産の高級品が、安く手に入りますよ!」
「ふむ……。だが、高い金を払ってそんなことをするよりも、自領の商人共に持って来させた方が早くないか?」
「いえいえ!ゼニーマン殿には、お金を払うてもらう必要はないです!むしろ、自分らに『ゼニーマン領に鉄道を引く権利』を買わせてほしいんです!」
「な、何?私が豊かになる為に、君達が私に金を払うのかね?」
「ええ、そうです!……ああ、言わんでええですわ!『そんな上手い話があるんか?』とお思いでしょ?それが、ひとっつだけ、約束をして欲しいんで」
「約束とは……?」
「鉄道と駅の中では、ワルバッド辺境伯領の法律を適応させてもらいたい……ってことですわ。つまり、ワルバッド辺境伯領が、運賃を取らせてもらう言うことです!」
「ああ、つまり、金儲けがしたいということか。いいでしょう!約束します!『鉄道を引く権利』の値段ですが……」
「そらもう、勉強させてもらいますわ!」
いやァ、ほんまにアホやわ。
契約書の内容を見ずに、自分が儲かるならと安請け負い。
上手い話はな、ないんや。
あったとしても、自分の元に転がり込んでくるなんて思うてはいかんよ。
もちろん、兄さん……ジャーク・ワルバッド辺境伯その人が、イヤーに分かりにくくて罠だらけの悪魔みたいな契約書を用意してはるのもある。
こんなん、財務の知識と税務の知識両方なきゃ分からん内容やし、文章の書き方もわざと長ったらしく小難しくしてあるもんな。無能には理解できんけど、ざっと見た感じでは「得がある」ように見えるからほんま怖いわ。
「では……、百万シルバー(三億円)でどうかね?」
ハ、やば。
わろてまうわ。
いきなり百万シルバーで吹っ掛けたつもりなんか、この豚は?
まずそもそも、100キロメートルの駅と線路を作るだけで千五百億イェン……シルバーだと五十億シルバーや。いや、今はもうシルバー安が止まらんかったんやっけ?でもとにかく、イェン基準やと千五百億はかかる。概算やからアレやけども、まあつまりは個人で支払える単位の金額やないっちゅうことや。
そしてその100キロメートルの駅と線路は、三年もしないうちに建設費が回収できて、以降もずっと利益を出し続ける……。運賃だけでそれや!地域の活性化や物流の活発化による副次的な利益を抜きでな。
百万シルバー?んなカスみたいな小銭の話、誰もしてへん!
ああ、やっぱり、兄さんの言う通りやな。
ワルバッド辺境伯領の内と外では……、経済規模が違う!!!
ワルバッド辺境伯領の外では、アホ貴族共が小銭集めで悦に浸っている中で、ワルバッド辺境伯領はもっと先を行く!もっと儲ぐ!
……ま、ここは一応、交渉したフリしとこか。
「いやぁ、もう少しまけてもろて……。そちらにも利益がある訳ですからぁ……」
「ふうむ……、だが……」
「こないなこと言いたくないんですけどぉ、他の領地にもお話をしたくてぇ……。カネネーン伯爵家にもお話をしててぇ……」
「むむっ!他の領地に先を越されるのは困るな!特にあの、吝嗇家のカネネーンめに負けるなど許せん!よし、では五十万シルバーとしよう!」
タハー!アホやこいつ!ほんまにアホ!
「それなら、ボクも辺境伯にいい報告ができますぅ!」
引き攣る頬を抑えながら、ボクは頭を下げた。
アホや、この世界の奴ら、みんなアホなんや。
貴族も下民も、なーんも分っとらんやんけ。
貴族は金勘定も分からなくて、自分の手下の使い方もよう分っとらん。
下民は、上に従うだけでなんにも考えへんくせに、文句ばかり言いよる。
カスや、クズや。ゴミなんや、みんな。
賢いのは、兄さんやその手下みたいなのばっかりで、みぃーんな、アホ。
自分は楽したいんや。汗水垂らして土いじりだの、糞臭い家畜の世話だの、馬鹿らしゅうてかなわんて。
その為には、他人に働かせるんや。この目の前のゼニーマン伯爵とかいう豚にも。
豚も煽てりゃ木に登る言うもんな。せやったら、豚を煽てるのがボクの仕事やね。
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