第42話 オーク族最強の戦士、回顧して曰く
私の名前はザンガンデリンス。
オーク族最強の戦士だ。
私は今、夫と食事を共にしている。
「本当ならば、貴族らしく、舌平目のソテーだのフォアグラのコンフィだの、気取ったメニューを食うべきなんだが……、俺が好きなのは肉(ステーキ)だ。もちろん、焼き加減は生肉(レア)でね」
夫は、この地の王。
ジャークという男。
ジャークは、弱いが、私とは違った強さを持つ男。
何かの術で、一時的とは言え、この私を組み伏せたことがある。
ザンガンデリンスは、強い男が好きだ。
強くて、私を愛する男が好きだ。
ジャークは強く、そして私を愛する。
だから私は、ジャークが好きだ。
「その他の俺が食うメニューと言えば、オムライスに唐揚げ、ラーメンやハンバーグ。そう言ったものが多いな。スナック菓子や炭酸飲料も。うーん、やっぱり、こういうところに『育ち』が出ちゃうんだよなあ。お里が知れるとはまさにこのこと。でもこの現代的ジャンクフードの再現には凄い金をかけているから、回り回って金持ちのプレイングかな?」
ジャークは、私のことも好きだが、喋るのも好きだ。
いつも、よく分からないことを言っている。
ザンガンデリンスは賢いが、狂人の戯言は理解できない。
「生まれが卑しい人間は大人になっても卑しいまま。金を得たって、なれるのは『金持ち』ではなく『成金』ってことだな。まあ、ガキの頃のように、飲食店の生ゴミを漁っていた時よりは良いもん食えているから……、と思っておこうか。蛆の湧いた生ゴミよりは、人肉の方がまだ食える味だからなあ」
ザンガンデリンスは、それでも、ジャークと食事を共にして、穏やかな時間を過ごすのが好きだ。
私は賑やかな宴よりも、一人で良い酒を舐めるように飲み、月や花を眺める方が好きだからだ。
愛する夫を眺めながら、美味い肉を食うのは、幸福なことだ。
「にしても、今の人民はアホだから、ちょっと甘い言葉で釣ると簡単に投資信託に金出してくれるなあ。まあ確かに、俺の手下の新聞社の一つに、日経平均ならぬワルバッド経済平均株価を毎日書かせて……、ああ、あと不動産投資信託も始めたんだった。土地バブルは怖いが、市民層にはまず『金融商品で儲ける!』という新たなソリューションをお届けしたいから……。金融はマジで、ぶん回せばぶん回すほど儲かるシステムよ」
ジャークが何を言っているのかは、分からない。
しかし、ジャークは嬉しそうにしている。
ジャークが嬉しいと、ザンガンデリンスも嬉しい。
「現物もいいがデリバティブも……、いや、まだ早いか?人民はまだまだアホだもんな、三、四年は待ちたいところ。ただやっぱり、株式が良いねえ!株式会社の登場のおかげで、ワルバッド領の経済発展と技術発展は素晴らしい!製鉄や溶接の技術も一部民間移転したから、最近では自分で蒸気船もどきを作って新大陸に出入りしている商会もあるそうだぞ!ドキドキワクワクだな!」
ザンガンデリンスは、普段は、ジャークの護衛をしている。
戦時とあれば、我がオーク重装歩兵隊一万五千人を率いて戦場に立つが、普段はそうではない。
本来ならば、指揮官としての仕事や、考えることもあるはずだが……、ワルバッド軍において、作戦を考えるのは指揮官の仕事ではない。
『参謀本部』というところの仕事だ。
『参謀本部』は、デストラン将軍の指揮するところで、ここは常に軍略や戦争について研究をしており、この組織が作戦を考えて、私のような現場の指揮官に作戦案を渡してくる。
ザンガンデリンスは賢い。
賢い、が。
戦いの最中に、余計に頭を使うことは避けたい。
ザンガンデリンスは兵士達の指揮もできるが、作戦を考えるのは参謀本部の者達の方が上手い。
ザンガンデリンスは、自分でやるには手間なことを他人にやらせることができる立場であると、ジャークから言われている。
確かにそうだ。
ザンガンデリンスは、この地の支配者の妻なのだから。
しかし最近は、私の仕事は、軍務が多くなってきた。
兵士の訓練や演習が殆どだが、ワルバッドの土地を広げるため、近隣で開拓をすることも多い。
兵員はどんどん増えているし、開拓の護衛も全く問題がなく、死者も全くと言っていいほど出ていない。全ては順調だ。
だが……、鉄道ですぐにこの都市に帰って来れるが、ジャークから離れるのは、少し、寂しい。
そしてジャークの護衛は、このザンガンデリンスと互角に戦った素晴らしい戦士である、カナタが行っている。
カナタは、戦士としては素晴らしいが、私のように賢くはない。兵隊の指揮はできないだろう。
ザンガンデリンスは、賢いので知っている。
できることは、できる奴に任せるべきだと。
ザンガンデリンスは、強く、賢く生まれた。
だが、この世界には、このザンガンデリンスよりも強い者や、賢い者がいくらでもいる。
そのことを、ジャークは私に教えてくれた。
そして、ジャーク自身の強さについてもまた、私は知った。
強くなくとも、賢くなくとも、支配をすることはできる。強い奴を、賢い奴を支配して操ることで、自分の力とする……。
それこそが、ジャークの強さだった。
ザンガンデリンスは、強い。そして賢い。
だが、ザンガンデリンスの強さと賢さは、そのまま、ジャークの強さと賢さになる。
だからジャークは、とても強いし、とても賢いのだ。
「へっへへ、領主様、此度は取材をお受けしていただき……」
「あー、前置きはいい。とりあえず、ワルバッド領の新たな施策について話すぞ。今回はワルバッド辺境伯銀行にて、『ワルバッド領資源裏付け債券』を発行する!これは、銀行に持ち込めば所定の資源と交換できる紙幣……ゲフンゲフン!交換券で、今後はこちらで商取引や税金の支払いを可能とする予定だ!単位は『イェン』で、1シルバーにつき300イェンで為替する!」
「か、貨幣の私鋳は国法で禁じられているのでは……?」
「お金じゃなくて債権なのでセーフ(強弁)。あ、偽造をやったら一発で強制労働刑なので気をつけてネ♡」
ジャークは今日も、「新聞社」というところの者達と話している。
ジャークのやることは、ザンガンデリンスには分からないが、この土地を豊かにしているということは分かる。
今も、銀貨の代わりに紙幣という紙を使うらしいが、何が凄いのかはザンガンデリンスには分からない。
まあ、紙なら軽いので、持ち運びが便利になるなとは思うが。
だが、この一見思いつきとしか思えない変更や改革の積み重ねで、世の中が変わるところを、私は毎日見ている。
「後は王都を始めとして別の領地との取引や、先物取引、そして船の保険組合というものを……」
「おお!」
ジャークは素晴らしい。
ジャークの隣にいれば、私は、より広い世界を見ることができるだろう。
そして、ジャークという最も強い男の妻でいるということは、最高の栄誉だ。
ザンガンデリンスは、ジャークと共に生きる。
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