第47話 虐待御母惨

「そもそもね、魔法である程度の軽量化や、橋の強度の底上げができるとはいえ、二倍近い大きさの列車を作ろうっていうのが大変なことだったんだよ君ぃ?ピストンは本来なら低圧のところ、通常の列車の二倍の大きさ、つまり八倍もの重さの車体を動かすには、単純に八倍の出力が必要でね。だからこそ、高圧ボイラーを最初から作ったんだよ。まあその高圧ボイラーが、今や蒸気船やこのハーバー・ボッシュ法肥料作成機で使われているから有用なナレッジになったなという感覚はあるけれどね」


すっかり大人になったが、チビの丸メガネ女のままであるドクター・サイエン。


偉そうに技術について語っているが、まとめるとまあ、「今までの技術の蓄積ですごいものが作れましたよ」と、これに尽きる。


魔導列車に蒸気船、数々の工場と、完全に産業革命を果たしたワルバッド辺境伯領は、もう完全にやりたい放題だった。


技術とは、工業とは、雑多な発明の数々の組み合わせの上に立つ前衛芸術のようなものだ。


かつて日本の政策で、「そうだ!お金になる研究にだけ出資して、お金にならない研究には出資しないようにしよう!」みたいな馬鹿話を、「そりゃあ当たり馬券だけを買えば絶対儲かる!と言っているようなもんだぞ」と知識層が批判したもんだが……、中々一般人にはそういうアカデミックな話は分からんもんだ。頭がいい奴も悪い奴も、自分のやっている以外の仕事は中々理解しようも敬意を払おうともしないのはアホ臭くて笑えるよな。


例えば、一見役に立たなそうな海中の生物の観察。しかしその生物から難病治療に有効な成分を見つけることができた……など、そういう話はいくらでもある。


国家運営の柱となる技術研究ってのは、短期スパンで収益を上げることを目的として近視眼的な行動をやり、短期の利益をかっぱぐような真似をするもんじゃない。長期運営を前提とし、また、複数の案件を動かすことも視野に入れる必要があるんだよな。


……おっと、前世の感覚がまだちょいちょい出ちゃうね。


カネは相変わらず大好きだし、カネの話をすると長くなっちゃうんだが……、女には好かれないからな。控えよう!


そして、俺がどう思うか?とか考えずに、ペラペラと自分が大好きな「技術の話」をドヤ顔で続けているドクター・サイエン。まあそりゃ、こんな奴は虐められて当然だし、周りに煙たがられていただろうな〜!という感覚だ。こいついつも自分の好きな話しかしねえんだよなあ。


が、まあ、俺は別に技術の話は嫌いじゃない。カネに繋がる話だからな。


だから俺は、ドクの話を聞いてやり、驚いてやり、頭を撫でてやる。


こうするだけでドクは勝手に働きまくってくれるから、マジでチョロくて大好き♡


「ママ……?」


「ん、君か。部屋で勉強をしていなさい。僕はパパとお仕事の話をしている」


あ、もちろんだが。


屋敷にいる奴らは全員抱いているし、俺の子供を産ませてるぞ。


ドクも例外ではなく、子供が二人いる。


上の方の子はもう四歳か?


だがご覧の通り、ドクは仕事ばかりで、娘の面倒なんてほぼ見ていない。


ドクが娘を褒めるのは、勉強で成果を出した時のみ。


普通にバリバリ虐待なのだが……、まあ良いだろう。俺に不利益はないので。


才能の有無に関わらず、ドクの娘は工学関係に進ませるつもりでいるからな。


無能ならお飾り、有能なら研究者で確定だ。予想以上の無能なら、趣味の世界でご活躍ください!で終わりだが。


「娘と言えば……、聞いておくれよ、ジャーク君!この子は、もう四歳になるのに、未だにハイスクールレベルの数学も覚束ないんだ!もしかして、知能に障害があるのかなぁ……?」


草。


それを本人の目の前で言うのもそうだが、自分レベルの知能を一般的だと思っている辺りが、かなり大爆笑って感じだ。


あー、おもしれー女。


それに、逆に言えば、四歳で微分積分が覚束ないが、理解しつつある訳だろ?十分に天才の範囲内だよ、そのガキも。


度を越した天才、バケモノには、人の気持ちが理解できないんだろうね♡


「そんなことないさ、この子は良い子だ」


俺はそう言って、ドクの娘の頭を撫でてやる。


すると娘は、俺に抱きついて少し泣いた。


どう育つもんかね?これは。


天才過ぎて人の心がない母親と、優しくて人の心があるふりをできる父親。


まあ、碌な子には育たんだろうが……、ウチで求められているのって人間性じゃなくって能力だからさ……。




「……あれでは、アインス様がお可哀想でございます」


ドクの研究室から出ると、隣に立つメイが呟いた。


ははぁ、人の心ってやつ?


って言うか、ドクの娘ってアインスって言うんだな。もうガキとか百人超えているから、一人一人の名前とかいちいち覚えてないんだよね。


まあでも、そう言われればそうだよな。子供にアインス(1号)と名付ける辺り、サイコ野郎のドクらしいなーって感じ。やっぱりアレか?聖王ゆりかごとか繰り出してくる感じ?まあプロジェクトFみたいなことはやっているから、ほっといたら作るんじゃねえの宇宙戦艦とか。


そんなもんはどうでも良いとして……、次だ。


「メイ、次のスケジュールは?」


「……ご主人様。あの子は、貴方様の娘なのですよ?」


「知ってるけど?」


「あのような扱いで、何故……!」


「良いじゃん、別に」


「私の子もです!教育は確かに素晴らしい環境ですが、最後に会ってくださったのはいつでもございますか?!子供には親の愛情が……!」


えー?


「愛しているけどな、それなりに」


「は……?」


「ウチは、力さえあれば何しても許されるというスタンスな訳じゃん?だから、知恵でも腕力でもなんでも、力をつけさせるのが最大の愛情表現なんだよね」


「し、しかし!それでは潰れてしまいます!」


「良いんじゃね?」


「良いはずが……!」


「良いって、別に。潰れたら潰れたで。そんときゃ別の道に進めば?」


「……ッ!」


「ワルバッド辺境伯領には、力さえあれば何をやっても良い!金さえあれば蛮行も許される!と、そういう価値観を主軸とした『自由』がある。だがそれは別に、ついてこれない奴が問答無用で犯罪者になる!とか、そういう話ではない」


「で、ですが……」


「潰れてもいいさ、それでも別に、母親はどう思うか分からんが、俺は潰れたガキを愛さない訳じゃない。人間、ダメになっても、心が歪んでも、そうなったならそうなったなりの人生があるもんさ」


「そんな、割り切りを……」


「そんなもんじゃねえの、人生って。やってみて、ダメならダメで別に行く。それだけだろ。そしてワルバッド辺境伯領では、ダメになった奴を助けることも、ダメな奴同士で助け合うことも禁止していない。あくまでも、上に立つのは強い奴ってだけで、弱い奴は弱い奴なりに別の楽しみを見つけて生きていきゃあいいだろ」


これなんだよなあ。


ブスに生まれた?結構!整形サイボーグなんぞにならんで、普通に働いて、顔の良さが関係しない趣味の世界でご活躍してくれ!


男の癖に雑魚い弱男?結構!軍人や警察官はやらんで、工場で働いてくれ!


オカマの人?結構!変な権利を主張せず、ホモ同士イチャイチャしていてくれ!


他人に迷惑かけずにいるんなら、なんでもヨシ!


それが俺の作る「社会」だ。


弱いことは悪くねえさ。


だが、弱い奴には権利が与えられない。それだけの話。


やれ、黒人でゲイでユダヤ教徒で〜だの、ポリコレ弱者カードが多い方が強いゲームをやるから、世の中がおかしくなる。


その環境で最も強い奴が世の中を動かせばいい。


カードゲームと一緒だ。


好きな雑魚カードを使うのは個人の自由だが、環境で一番強いデッキが一番勝っている状況が普通で当たり前!雑魚カード使っている奴は社会という名のレート戦に出てきて勝率低いのは当たり前!と、俺はそう言っている訳よ。


「貴方は……、ご主人様は、我が子に自分の力を継承させようとは思わないのですか……?」


「おっ、流石は封建制国家育ち!頭中世だな!……そうやって能力ではなく血筋で選んでいるから、この世界はこの有様なのでは?俺の敷いたルールは能力のある奴が偉くなれる制度なんだから、ガキ共にゃ能力が高くなるような環境を与えているぞ?これで良いだろ」


「酷過ぎます……!」


「えー?じゃあ、他の領地みたいな『貴族に生まれたら勝ちが確定するゲーム』と、主人公サマみたいな『どんなに頑張ってもみんな平等出来レース』と、どっちが良い?」


「それ、は……」


「ってかさ、平等にだって色んな形があるだろ。これこそが、俺の作る『平等』の形だよ」


そう言って俺は、メイを置き去りにして歩き出した……。


「あ、ごめん、スケジュールは?」


そして戻ってきた。

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