第34話 ガトリング斎的価値観

「で……、助けるってのは何の話だ?」


モーコギン・ミニットに聞く。


モーコギンは、そのくりくりお目目をギュッと閉じて、語った……。


「僕の部族、モコターンは、冬前や春先には南方にある『大華国』の街、『麗蓮』というところで略奪品を売り、そのお金で香草や冬用の食料や鉄器なんかを買っているんだ。それなのに……、『麗蓮』の街は、疫病で滅んでしまったんだ!」


ははあ、なるほど。


馬賊であっても、経済からは逃れられず。経済圏が潰れたら、死ぬしかない、と。


そういう訳だな。


まあそりゃそうだわな。草原の民!とかカッコつけても、塩がないと人間は死ぬし、着る物がないと凍えて死ぬ。剣がないと魔物から身を守れずに食い殺される。


人間は、集団で生きるという強みを得た種族だが、その代わりに、野生の世界でずっとサバイバルはできなくなっちゃった。


それは恥じゃない、そういう生き物なんだよ、我々は。分業と協調こそが、知的生命体の本懐だ。


「なら、俺の街と交易をしたいという認識で良いか?」


「それを許してくれるなら、モコターンは全力であなたに報いると、我らが祖霊に誓う!」


ほー、祖霊。


祖霊信仰なのか。


こっちでは、宗教関係は「女神教会」一本だな。ほらアレですよ、タイトルにあるアストレア……女神アストレアを信仰するアレだ。


俺?俺は……、神とかいうのは、「最初に罪を考え出した愚かな男さ……」、みたいな思考をしているゴリゴリの唯物論者なので……。


「では、ワルバッド辺境伯、ジャーク・ワルバッドが誓おう。君達モコターンは、ワルバッド辺境伯領の法を守るならば、この地の民として認められ、自由に生きることを許す。交易でも何でも、法に反さないならば何でもやって良い」


「ああ……!よかった、これで部族は救われる!」


「何言ってんだ、タダじゃねえぞ。俺の街では、金が全てだ!モコターンも、馬や羊を売って、金を稼いでもらう!……助言をするが、羊のチーズや羊の毛で作った毛糸なんかも売れるんじゃないかな〜?」


「ううん……、略奪は当分できそうにないから、その分、働いて物を作り、それを売る……と。分かった、兄上に提案してみよう」


ん?


兄上?


「ん、ああ。僕は族長の娘で、兄上は次期族長なんだ。兄の名は、イカライと言う」


おお、イカライ・ミニットか!


確か、馬賊モコターンのボスキャラだったな。


モコターンの中でも、イカライだけは固有グラフィックがあった……ような記憶がある。つってもまあ、汎用男モコターンに色変えて髭を生やしただけの見た目だったが。


原作キャラと言えば、まあ、原作キャラだな。


……いやしかし、原作にこんな展開はあったか?疫病だなんて、そんなのは。


まあ、ゲーム本編だけをチラッとやったくらいで、設定資料集を読み込んだりはしていなかったからな。


後は大人になってからプレイ動画をチラ見したくらいか。


そもそも今は原作前の時間軸だしなあ、よう分からんわ。


ストラテジーゲームだからさ、戦力にならないのに仲間になるカスみたいなのとか、隠しキャラとか、そういうのが多過ぎて、俺も全部を覚えている訳じゃないのよ。


「とにかく、僕はこれから部族に戻るよ。皆に報告をしたい」


「ああ、行ってこい。……メイ!東端の街カストラに食料を可能な限り輸送しろ!御用商人のブンブク商会を使え!バウワン!最初の仕事だ!今回俺がモコターンを助けて商売してやっている件について、記事を書いてみせろ!コツは、『バカでも分かりやすく』だ!」


「「はいっ!」」


「ザンガンデリンス!お前は俺の護衛だ!」


「良いだろう。ザンガンデリンスは強いので夫を守れる」


まあ何だっていい、馬賊共を支配するチャンスだ!




馬賊共の支配。


馬賊共はまず、強い。


フィジカルはそこそこだが、ストーリー後半の主人公勢力を手古摺らせる程度には強い、終盤の敵ユニットだ。


これを、自分の武力として好きに使えるのは、アドだな。


……あれ?そういや、馬賊もそうだが、領地に盗賊が湧いているのってダメじゃね?原作主人公さん、職務怠慢では?


うちはもう、軍隊を訓練半分にいつも領内を巡回させていて、領内にそういう存在は出なくなったなあ。


まあ、たまに出たとしても、列車強盗や線路泥棒なんてやった奴は、特にキツいと評判の「ダークエルフの実験体になる」という労働をお任せしているからね。


そうやって、「死が救い」と言える状態になった実験体を晒し者にしたりして、注意喚起はかなりやっている。呪印刑も相変わらず低コスト化と条件の複雑化が進んでいるし、犯罪者ってのは実はそう多くない。


で、話を戻すが……、馬賊共。


毒物の扱いに長けており、人体破壊にも詳しい上に、部族の民全員が草原のサバイバリストで馬を操る騎兵でもある。


おまけに、こいつらのみが作るという、特殊な獣毛の絨毯である「カシミニア絨毯」は、ゲームの中でも高額な換金アイテムだったな。


そうでなくても、人口は力だからな。


こいつらから得られるものは、単純な労働力の他に、薬物や家畜、そして牧畜産品、使っていない小さな銅鉱山の数々。大したものではないのだが、あればどれも助かる。


もちろん、こいつらも「草原の掟が〜」みたいなことを言って、使いにくい部分はあるだろう。


だが結局、経済には敵わない。


現代の遊牧民達が、完全に文明と切り離されているか?遊牧民や部族の民はスマホを持っていないのか?医者にかからないのか?


そんなわきゃない。


一度、文明の味を、「便利」と言う物を知ると、それなしでは生きていけなくなるんだよ。


だからこいつらにも、まず、「与える」のさ。


うまい飯を、便利な道具を、医療を……、「カネ」を。


そうやって一度経済圏に組み込んでしまえばこちらのもの。こいつらは俺に一生逆らえなくなる。


この三年、オークだのゴブリンだのワーウルフだの、色んな種族を併合してきたが……、どの種族もそうだった。


でも、そんなん当たり前だよなあ?


医者にかかれば、子供達は風邪やちょっとした怪我みたいなので死ぬことはなくなる!


人と戦って奪わなくても、脂身たっぷりの家畜の肉に、最高にうまい酒だって手に入る!


不作や不猟になれば、今までは親兄弟が痩せ細って飢え死にしていたが……、今なら金で食い物を買える!


こんなもんを、こんな便利な状況を、手放す訳がねえんだよ。どんな種族も、誇りだけじゃあメシは食えねえもんなあ?!!!


特に、バケモノと、魔族と呼ばれてきた奴らにとって、金さえ稼げば人間よりも尊重されてでかい顔ができるってのは衝撃だったろうぜ。


俺の経済は、「カネ」は、バケモノでも人間以上の生活を……、いや、「尊厳」を与えてやっているんだ!


「カネ」さえあれば、醜いゴブリンだろうが「尊厳」が手に入る!「尊厳」があれば、周りからいじめられず、でかい顔ができて、うまい飯と女が手に入る!


雑魚でもブスでもバカでも無能でも、「カネ」があれば上等だ!という、新たな価値基準を俺は作ってやったのよ!


モコターン共にもそうしてやる、お前もそのお仲間に入れてやるってんだよ!!!!






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正月なんだからこんな小説読んでないで親の顔とか見た方が良いですよ。

一応、二回更新しておきますが。

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