第32話 モコターン、回顧して曰く 後編
僕は、モーコギン・ミニット。
人の王たるワルバッド王に会いに、街へ来た。
街では、魔導列車というものがあり、これに乗って移動している。
今は昼食がもらえるらしいので、食堂車というところに向かったところだ。
食堂車。
木製の壁に、石タイルの床。
綺麗に磨かれ、埃ひとつない。
テーブルも椅子も、最上ではないのだろうけれど、少なくとも上等と言えるくらいの作り。
とても明るい照明……魔力灯というやつだろうか?それに照らされた車内は、閉所だけど太陽の下のように明瞭だった。
「いい匂いがする……」
複雑な匂いだ。
幼い頃、父に連れられて、街に行った時のことを思い出す。
部族では、羊の肉と馬乳酒ばかりだが、街では「香辛料」というものを使って味を変えた肉と穀物が楽しめた。あれは、美味かった。
それに似た……、けれど、それよりも魅力的な香り。
何かを調理する音、熱された油が小さく爆ぜる音。刃物の音。
「お客様、こちらへどうぞ」
人間の、黒い服を来た男が、僕を案内する。
あり得ない話だ。
モコターンを見れば、人間は皆、悲鳴を上げて逃げるのが普通じゃないのか?
そして、馬鹿正直に挑んできた人間を、僕達は馬で逃げながら、或いは追いかけながら射かけて狩殺し、奪う。
だから人間は、野の獣のように、追われて逃げる獲物で。人間の領域にいる人間は、もっと偉そうにするはずで。
取引の場でも、モコターンであると言うだけで、値段を吊り上げられたりするのに……。
「あ、ああ、ありがとう」
そう思った僕は、動揺しつつも返事を返した。
「本日のメニューはハンバーガーとポテトフライ、コーンスープ、コーラ。デザートにアイスクリームを用意しております」
何言ってるんだ……?
向かい側に、しれっと座ってきたワーウルフの男を見る。
「二等車はハンバーガーなのか。領主様の気苦労も知れるねぇ」
一等車はステーキなんだろうがなあ〜、ナイフとフォークがなあ〜、などと、訳のわからないことを言いながらも、目の前に出された丸いものを齧る。
「ん?どうした坊主?食えよ、美味いぞ」
「これは、そのまま?」
「ああ、そうさ。二等車に乗るような奴らでもまだナイフとフォークが扱えねえってんで、基本的には手で食っても良いもんが出る。好きに摘んで食っちまいな」
「じゃあ……、はむ」
……美味い!
パン、これはパンというやつだ!
穀物を練って焼いたものに、瑞々しい野菜と、焼いた肉と、それと味のついた汁が挟まっている!
美味い!美味い〜っ!
温かくて、シャキシャキで、肉の味と甘い味がして、美味い〜!
「それと、ポテトフライとスープ。これも美味いぜ。ポテトもコーンも、領主様が齎した新しい食い物だ!」
小さな、半月型の黄色いもの。
これに赤い汁を付けて食うらしい。
美味い!塩っぱくて、甘くて、酸っぱくて美味い!
スープという汁も……、美味い!とても甘い!
「コーラも美味いぜ。俺もこいつを取材の時、瓶でよく飲んでるんだ」
黒い汁。
……んん?うま、いや、美味いのかこれ?だが、とっても甘いから美味い!こんな甘いものがこの世にあるのか?!煮込んだ野いちごより甘いぞ?!
甘過ぎて舌が痺れた!……いや、それ抜きでもなんか舌が痺れたかな?なんだろうこれ?
しかしそれでも美味い!
「おっ、アイスクリームだ!こいつは新作だぜ、いつもはアイスキャンディーだもんな!どれどれ……?くぅ〜!うめえ!」
アイスクリーム……?この白い塊か?
おっ、あっ、えっ?つ、冷たい?雪?
あ、味は……乳いや、あっまい?!!!
凄く甘い?!何これ?!何をしたんだ?!人間、凄過ぎるでしょ?!毎日こんな甘いもの食べてるの?!?!!!ずるい!!!!
「はあ……!」
美味しかった!美味しかった!美味しかった〜っ!夜もこのくらいのものを食べられるの?人間凄いぃ〜!
「……いや、本当に田舎もんなんだな、坊主は」
「だ、だって、故郷にはこんなものなかったから……」
「ワルバッド辺境伯領だと、最近はどこもこんなもんだぜ?みんな儲かっているから金があるしで、ダイナーとかスーパーマーケットもできていてなあ……」
「ダイナー?スーパーマーケット?」
「ああ、まあ……、飯を食わせるところと、なんでも買えるところだな」
「へえ……、飯炊きなんて、女達が家でやってるのに、わざわざ?」
「独り身の男にゃピッタリなのさ。飯炊きをする時間分、働いて金を稼げるからな」
「マーケット、というのは?羊も売っているの?」
「羊そのものはねえだろうが、肉とチーズと、簡単な服くらいは売ってるぜ」
「死骸では、財産にならないんじゃ?」
「おいおい、スーパーマーケットはどこにでもあるんだぜ?一々羊を連れ回して、必要な時に捌くよりも……、金で持っていて、必要な時にスーパーマーケットで買った方が楽だろ?」
「でも、スーパーマーケットにいつも羊の肉があるとは……」
「『その為の』魔導列車だぜ?」
「あ……!」
そうか!
魔導列車は、速くて正確に物をたくさん届けられる!
それなら、「品切れ」ということがなくなるのか!
す、凄い……!
人間ってやっぱり、器用だし、頭がいい!
これだけ賢いのなら、部族の問題もきっと……!
そして……、領都。
エイビルベルグ。
「うわ、わあ……?!!!」
す、凄い!
人がいっぱい……?!
そりゃ、勝てない訳だよ。
これだけの数を支配する族長……、王。
僕よりも、格上だね。
下位者として、下からお願いしなきゃ。
ここで自慢の武力を見せつけても、恐らくは、相手にしてもらえないだろうね。
だって、ワルバッド王は、僕の武力より凄い力を持っているから。
その力を、僕の部族では何というのかが分からない。豊かさの力?豊かさは豊かさであって、力と結びつかないと思っていたけれど……、でもこれはまさに、豊かさの力だ。
この豊かさは、僕の生涯の戦利品を集めても、これっぽっちも足りないであろうことは分かる。
だから、これは、僕の知らない力の結晶で……、その力はきっと、僕の部族を救う力であるはずだ。
「ん……、坊主も領主様のところに行くのか?丁度いい、一緒に来てくれよ」
「あ、森狼の人」
「領主様は、顔が整ってりゃ女だけじゃなく男の話も聞くって噂だからな、シシシ!」
「……僕、女の子なんだけどなあ」
「本当かよ?人間の顔は分かんねえな!シハハハハ!」
「それと、もうひとつ。僕、子供じゃなくて成人ね。ハーフリングだよ、僕は!」
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