第31話 モコターン、回顧して曰く 前編
僕、モーコギン・ミニットは、街人達が馬賊王と呼ぶ「偉大なるハーン」の血を引く戦士だ。
始祖、エビライ王こと、エビライ・ミニット。
最強の戦士にして、草原の民の全ての祖先。
その王の、長男の直系が、我々ミニット氏なんだ。
……先先代、アジライ・ミニットは、街人の王たるキョアーク・ワルバッドなる戦士と戦い、死んだ。
我々、「モコターン」は、その勇猛な戦いと圧倒的な強さに敬意を表し、西への略奪を控える約定を交わしたのだけど……、今回はどうしても、西の王に会わなくてはならない。
部族の運命がかかっているからだ。
例え僕の命を捨ててでも、西の王を動かさなくては、部族に未来はない!
このままでは、モコターンは冬を越せない。いつものように略奪をしようにも、略奪をする相手も碌にいないのだから。
こうなれば、恥を忍んで、西の王に頼むしかない。
二世代が過ぎてはいるが、強大な先先代の王の孫なのだから、きっと強く、そして王たる寛容さもあるはずだ。
この僕の命とたくさんの財産で、どうにか今年だけでも命を繋がなくては……!
僕は、部族の財産を持てるだけ持って、馬に跨り、草原を駆け抜けた……。
……西の領域に来た。
おかしい、こんなに道が綺麗だったかな?
モンスターどころか、賊もいないし……。
え?いや、角兎(アルミラージ)すらいないの?この辺りだと大狼(ダイアウルフ)が出たような気がするんだけど……?
す、凄く平和だ。
あ、軍隊。
多いなー……、軍隊。
なんだか、鉄の筒に木の取手?みたいなものがついた槍のようなものを抱えた戦士達が、ずらりと並んで練り歩いている。
なるほど、戦士を歩かせて訓練すると共に、モンスターや賊を退治しているのか。
こんな東の地までこの数の戦士を動員できるなんて、ワルバッド王の武威は物凄いんだなあ……。
うわっ?!
「……なにこれ?!」
なんか……、なんか、ある。
大きい……、なにこれ……?
「うわーっ?!」
大きい、鉄の馬車の化け物のようなものは、笛のような奇声を上げると、頭のてっぺんの筒から黒い煙をもうもうと吐き出して、ゆっくりと動き始める。
「……速い!」
駆け足の馬くらいだろうか?黒煙を吐く鉄の蛇?のようなものは、みるみるうちに見えなくなっていった……。
「なんだったんだろう、あれは……?」
「お、坊主!魔導列車を見るのは初めてか?」
「うわっ!」
森狼(ワーウルフ)?!街の中に?!
「っと、やめろよ?どこの田舎もんだか知らねえが、ワルバッド辺境伯領では、亜人にも市民としての権利がある。ワーウルフの俺も、殺される謂れはないぜ」
一瞬身構えたが、よく見ると、清潔な白いシャツに、青い布の下履き……いや、下履きと前掛けが一体化したようなもの(オーバーオール)を着ている。身なりが綺麗で、肉付きもよく、とても人喰いの化け物には見えない。
「そ、そうなのか……、すまない」
……ん?じゃあ、ハーフリングの僕も、ここにいて良い、のか。
まず最初に、馬賊として殺されるかもしれないと覚悟していたけれど、街に入れるのは助かる。
「で、あの鉄の蛇は一体?」
「坊主、ありゃあな、魔導列車だぜ。炭と魔石を焚べて、その力で動く『機械』だ。すげえぞ、あれは」
「確かに、すごいね。あんなに大きければ、どんな敵も怖くはないだろう」
「ははは!戦わせるもんじゃねえよ、あれは。ほら、見ろ!」
ワーウルフの男が指差した先を見ると……、大量の獣肉や、魚、野菜が。
「麦袋にして千袋分の食い物が、領地の端から端まで一日もせずに届くんだ!見てみろ、あの魚を!海の魚なんだぜ!」
「海の魚?!!!」
海なんて、ここから馬でも十日はかかる!
その魚が腐らずに、こんな平原の真ん中まで届くのか?!
「あの蛇は休憩をしないのか?!」
「ああ、そうさ!休まずに一日中走り続けて、千人の人だって運ぶんだ!見ろ、あっちにいるのは出稼ぎの連中で、ここから歩きで四日の街から、ここの開拓をしに『通勤』しているんだぜ!」
す、すごい……!
すごい、すごい!
なんて大きな、なんで偉大な力を持つんだ、今代のワルバッド王は!
これだけの力があるのなら、僕達もきっと助けてもらえるはず!
頑張って頼んでみれば、きっと……!
……そして僕は、この、『魔導列車』というものに乗った。
運賃はとても安く、馬を売った金でこの二等客室に乗れたし、「食堂車」も利用できて、それでもかなり余るらしい。
馬を売ってしまうのはモコターンとしてどうなのか?とは思ったけれど、これに乗ると明日にはワルバッド王の居る城まで行けるらしいからね……。
それに、本当に、安くて。
食事付きで銀百粒くらい?
僕の部族の女に、嫁入りの時に持たせる絹布の服が、一枚で銀板十枚、つまり銀の円盤が千粒くらいする訳だから、まあ……、安いよね。
僕だって族長の子供だ、算術くらいは心得ているとも。
人の街で、略奪をせずに水と食料を得ながら移動するとすれば、一日につき銀三十粒は必要だろう。
一日につき、銀三十粒の行程を、ワルバッド王のところまで数十日繰り返せば……、それは、銀百粒より余程手痛い出費となる。
だから、この魔導列車に乗った方がいいのだ。
「わああっ……!」
す、すごい!
透明な石?でできた壁の向こうでは、馬で走っているときのように、景色がどんどん流れている!
途中、人の街や畑がありながらも、本当に休みなくぐんぐんと……。
……ん?
「切符を拝見します」
あ、ええと、この薄い板?みたいなのを見せるんだっけ?
「はい、確認しました」
あ、魔力紋。
これが、「見た」って印なんだ。
面白いなあ、街って。
「いただき!」
「わっ?!な、なんだ?!」
そうそう。
さっきのワーウルフの男は、僕の隣の席に座っている。
さっきから、羊皮紙?いや、もっと薄い何かに文字を書いたり、光が出る黒い小箱を光らせたりしている……。
「あん?坊主は本当に田舎者だな!『カメラ』も知らねえのか?」
「カメラ……?」
「ほら見ろ、これが、俺が撮った写真だ」
「これは……!」
凄く精巧な、絵。
とった、とは……?
「これは……、つまり、一瞬で視界に入った景色を絵にできる道具なんだよ!高かったが、買った甲斐はあったぜ!」
「へえ〜……、おもしろいな!」
街はすごいな、本当に!
いや、南部の、よく取引をしていた街にはこんなすごいものはなかった。
場所によって違うんだな、多分。
「お客様、食堂車にて昼食の準備ができました。これから二時間、食堂車を開放します!」
食堂車……、ああ!食事がもらえるんだっけ?
じゃあ、向かってみようか……。
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