第19話 ダイナマイッ!!!

まず前提として、この世界は「現実」だ。ゲームではない。


「プレイヤー」が、空の上から戦場を俯瞰して、部隊をユニットとして運用している!なんてことはなく。


補給線や士気問題、武器の手入れに怪我人の治療や運び出しに、致命傷を受けた戦友を介錯してやるような戦場の流儀の話など、そういう戦争としてあり得るが、ゲームとして省かれがちなことは全て「ある」のだった。


決して、ゲームの世界だから、ゲームのバグ技を使って最強!のような、舐めた真似は許されない。第一、その手の「ズル」を転生者であるジャーク・ワルバッドが試さないはずもなく……。


結果としてジャーク・ワルバッドが理解したことは、正攻法、つまり、確かな準備と有能な指揮官、そして精強な兵士達を用意することが、勝利への一番の近道となる、と。


そんな真面目な世界だということだった。


だが少なくとも、ゲームの設定はそのままだった。


例えば、デストラン将軍は、女であるからと冷遇されているが、武力も指揮能力も世界でトップクラスの女傑であること。


ワルバッド辺境伯家は、先先代による新大陸の開拓で成り上がった家系であること。


農兵ユニットは普通のユニットより士気崩壊が起きやすい弱小ユニットであり、経験値を注いで(訓練して)ランクアップしなければ後半の戦いにはついてこれないこと。


そういう、人やモノの設定や、ユニットの特色は、ゲームと変わりない。


では、「魔法使い」というユニットは?




「「「「ファイアボール!!!」」」」


「「「「ぎゃああああ!!!!」」」」


魔法使い、魔導師部隊というユニットは……、間違いなく、このゲームの中でも最強の一角だ。




「……凄まじいな、魔法使いというものは」


スターライト子爵が、そう独り言を呟く。


それも無理はない。


ほんの百人足らずの小部隊が、五百人を超える農兵部隊を、一瞬で吹き飛ばしたからだ。


……魔法使い。


この世界はファンタジーであり、ストラテジーであるからして、魔法使いという兵科が存在する。


その特性は……、歩兵並みの速度と、農兵並みの防御力、無に等しい近接格闘能力。そして、その欠点を補って余りあるほどの、特殊能力の数々だった。


まず、「魔法攻撃」。


属性などは様々だが、とにかく、魔法によって遠距離範囲攻撃ができる。


その火力は弓兵を鼻で笑えるほどで、城壁も兵士も吹っ飛ばす高威力の、しかも範囲攻撃だ。


そして、「魔法防御」。


相手の魔法攻撃含む、遠距離攻撃を大幅にカットする防御の魔法。


この二種のアクションを以て、魔法兵はシリーズ皆勤賞の、欠かせない「強ユニット」と扱われている。


更に言えば、この他にも、バフやデバフの魔法を積むことができる。例えば、行軍速度を五割り増しにする、敵の士気を下げるなど。


そのオプションも込みで考えると、使わないのは最早「縛りプレイ」と言えるほどに必須のユニット。それが魔導師部隊なのだった。


もちろん、高ランクユニットであり、現実的にも、魔法を戦闘レベルで扱える人材は希少であるため、魔導師部隊を山ほど用意することは不可能であるが……。


スターライト子爵であれば、一部隊程度なら維持と運用ができた。しかし、領地の運営方針が「平民に優しい政治」でなければ、資金を集めてもっと多くの魔導師部隊を持てたのだが、それは余談だ。


とにかく、ワルバッド辺境伯軍のお手軽農民弩兵達は、スターライト子爵軍の魔導師部隊の魔法攻撃を喰らい、蹴散らされていた……。






所変わって、ワルバッド軍。


将軍たるデストランは、戦場を己の目で見ずに、「通信兵」から齎される情報のみで、指揮を執っていた。


本来ならばそんなことはしないのだが……、今回は特別だった。


「将軍閣下!三等兵で構成された第十三部隊がやられました!」


「予定通りだ、構わん。奴らは、このワルバッド辺境伯軍にまつろわぬ郎党とその村々の猿共だ。精々、『名誉の戦死』を遂げさせてやれ。……本隊は?」


「たった今、配置についたと連絡がありました」


「そうか……、もう少し引き付けたいな。三等兵をそれとなく擦り潰しながら、キルゾーンに誘き出せ!」


「了解!……十四、十五弩兵部隊を前へ!」


「敵魔導師隊に押されております!」


「十四、十五弩兵部隊、敵前逃亡!」


「さて……、そろそろ、ドクターの『発明』とやらの力、とくと見せてもらおうか。敵陣下に埋めた『爆弾』を発動させろッ!」


「了解!……起爆だ!起爆ーーーッ!!!」


瞬間、落雷の十倍を超えんばかりの爆音。


そして、地面が揺れた。


デストラン将軍も思わず、天幕を飛び出して、外を見て……。


……大きな黒い雲ができあがっている様を見た。


「は、ははは……!凄まじいな、爆弾とは!魔法を使わずに、ここまでの威力か!」


ニヤついた顔をしていたデストラン。しかし、すぐに表情を引き締めて、天幕へと戻る。


「さあ、敵は総崩れだぞ!伏せていた本隊を、スターライト子爵軍の本陣に突撃させろ!」


「了解!突撃命令ーーーッ!!!」


そう……、今回の作戦は。


新兵器である「ダイナマイト」と、「無線通信」の実証実験であって……、戦争ではない。


無線通信によって、軍上層部が兵士を遠方に派遣し、動かせるか?


爆薬、爆弾の、この世界での効果の程は?


起爆装置はどんなものが有効か、電気通信技術と組み合わせて遠隔で爆破できるか?


その他様々な新兵器の運営は?運用は?補給については?


デストランにとっても、ワルバッド辺境伯にとっても、この件は単なる実験で、自分達の兵士を使ったりはせず。


死ぬのは、反抗的な村人や郎党達のみという、一挙両得の「策略」に過ぎなかった……。


最初から、「相手にしていない」と言うことだ。対等な相手として、正々堂々、貴族らしく戦争で決着をつける!だとか、そんなものではない。


ただ、「駆除」で、ただ、「実験」で。


相手の誇りや、人として貴族としての矜持などは一切認めない、一方的な暴力だった……。




そして。


主力をダイナマイトで爆殺され浮き足立ち、手薄な本陣を精鋭の兵士とダークエルフ呪術部隊に包囲されたスターライト子爵及び男爵二名は、あっさりと制圧され逮捕された……。

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