第18話 カオスなレギオン
「ば、馬鹿な……?!なんだ、これは……?!」
戦術には、様々な方式が、歴史がある。
古くはファランクス、レギオン、カタクラフト。地球の現代ではエアランドバトルと言ったところか。
もっと分かりやすくインターネット風に言えば、「囲んで棒で殴る」だとか、そんな感じの話だ。
だがどれも結局、言っていることは同じである。
敵の「弱いところ」に、こちらの「強いところ」を押し付ける。
これが、ありとあらゆる争い事の真理であり、根源的な攻略法だ。
囲んで棒で殴るというのも、電撃戦というのも、結局は同じこと。相手の弱い部分に戦力を集中させて〜……という話であるからして。
つまりどんな戦いでも、この真理を実現すれば必ず勝てるのだった。
……そして、それができれば苦労はしない。現実は甘くないのである。
だが、何故か。
ワルバッド辺境伯軍は、不自然なほどに、その真理を体現していた……。
「なんなんだ、あの動きは?!」
小高い丘の上。
通常ならば、最高の位置取り。
この世界はストラテジーゲームの世界だが、軍を動かす貴族達は、ストラテジーゲームのように戦場を上から俯瞰することなんてできない。できる訳がない。
それどころか、衛星写真や偵察機ももちろんない。
なので普通は、このような丘の上などに指揮官が陣取って、戦場を眺めて指示をするのだ。
その指示というのも、ラッパや銅鑼を鳴らして単純な指示を出すのみ。詳細な指示は伝令を各隊の隊長に派遣する。
それが……、どうだ?
この有様である。
まず最初、弓の撃ち合い。
それによって牽制しつつ敵の勢いを弱めて、花形の騎馬隊による突撃で雌雄を決する。
これが普通の戦争の行程だ。
だが、ワルバッド辺境伯軍は、違った。
弓の撃ち合いで、たまたま、被害が集中した部分。
ここに的確に、弩が飛んできた。
それだけではない。
スターライト子爵軍側の突撃した部隊は、謎の、「投げると大きな音が鳴る黒い球」を投げられ、突撃中に勢いを殺され……、刃の付いた糸(有刺鉄線)を巻かれたバリケードで足を止められる。
仮に間合いまで近付けても、大盾を持った上級の兵に突撃を防がれてしまう……。ここの防御もまた、早く的確だ。
そしてこの、突撃の勢いを削がれた時や、バリケードに手こずっている時、大盾隊に弾かれた時。ありとあらゆる「隙」に、クロスボウのボルトが飛んでくる。
近接戦で華々しく戦うのではなく、徹底的にアウトレンジからじわじわとダメージを与えて削り殺す構えだ。
しかしこの足止めと弾幕……、最初は、「奇策での足止めなど、そう何度もできはしまい」などと思っていたスターライト子爵だったが、これで同じことが二度三度と続くと、顔色が変わってきた。
「クソっ……!伝令を出せ!右翼を突撃させる!バリケードを騎士の精兵達で踏み潰しつつ、敵を貫け!」
「分かりました!」
その数分後に、スターライト子爵軍の右翼はガッチリと陣を組み直して、突撃をしていった。
練度のそこそこに高いスターライト子爵軍は、しっかりと、そして迅速に陣を再編成し、騎兵が並び、突撃の準備を整え、動き出す。ここまでに、五分もかからない。この世界基準でこれは「迅速」と言えた。
……だが、ワルバッド辺境伯軍は、もっと速い。
スターライト子爵軍が陣を組み直すや否や、受けに回るために、横の陣から被害の少ない部隊が前に出たのだ。
それも、伝令でやり取りしている形跡もなしに。
流石に、精鋭の騎士と言えども、先ほどまでの二倍の弾幕は堪える……。
「なっ……?!何故だ?!こちらの情報が筒抜けだとでも言うのか?!と、止めろ!突撃を止めろっ!」
「む、無理です、子爵様!もう既に指示を出したばかりで、今更撤回は……!」
帰ってきた伝令がそう言った頃には、果敢に突撃したスターライト子爵軍右翼側は、ワルバッド辺境伯軍の弩が直撃し大打撃を受けていた……。
スターライト子爵が見たこともない、車輪のついた弩弓。
それは、地球という星において、「コンパウンド・クロスボウ」と呼ばれた代物だった。
ドクター・サイエンの作った「旋盤」によってそこそこな精度で作られた滑車と、ある種のモンスターの腱……ケブラーやアラミド等の合成繊維に匹敵する性能の素材で作られた「弦」が決め手だ。
その形は即ち、弓の両端に滑車のついたクロスボウ。
この滑車が回転することで、ボルトの威力の底上げと、弦を引く力の削減がなされている。
一人で一分に一、二発しか撃てないクロスボウが、一分で三発撃てる。
一人分では大した変化ではないかもしれないが、それらが並んで弾幕を張ると、その威力は生半可ではなかった。
「ぐっ……!」
スターライト子爵は、何もできない。
自分のために命をかけてくれた兵士達が、自分の失策により蹴散らされ、その命を無為に散らされていく様を、黙って見ていることだけしかできなかった……。
だが、スターライト子爵は、無能でも精神薄弱でもない。
再び声を張り上げて、新たな指示を飛ばした。
現在、スターライト子爵軍右翼が弾き返されたが、現場の判断で再編されていることが見て取れた。
スターライト子爵家は、子爵本人だけでなく、部下達も賢く強いのだ。
現場の隊長である騎士が優秀だからか、打撃を受けた部隊はすぐにまとまった。
それに……。
「……あちらの軍、あれは徴用兵だな?軍人の動きではない」
装備を見れば分かる。
一部のちゃんとした武装の兵を除けば、多くは、弩を持った農兵達。
弩ならば、弓よりも剣よりも扱いは簡単で、農兵でもすぐに戦力化できる。
だが、裏を返せば、こんな程度のものしかいないのなら、押せば勝てるはずだ、と。
スターライト子爵はそう判断した。
「数は多いが、敵は弱兵だぞ!訓練の成果を見せてやれ!」
見れば、敵軍は陣形も雑だった。
大量にいる農兵達は、恐らくは、弩の扱いしか知らないのだろう。陣は疎らで、動きは鈍い。ただ、何故か、位置取りと反応速度が最高レベルなだけで。
数少ない正規兵達は、大盾と槍を構えての「待ち」の戦法。危険でありながらも最も名誉ある立場である主攻を農兵隊にやらせるのは、貴族の価値観からすると普通に「頭おかしい」のだが、ワルバッド辺境伯家の頭がおかしいことは周知の事実なので問題はない。
「可哀想だが……、徴用兵の隊から崩す!少し脅かしてやれば、士気が崩壊するはずだ!『魔導師隊』を出せッ!」
「了解しました!ラッパを鳴らせ、『魔導師隊』出動〜!!!」
そうして、スターライト子爵は、虎の子の部隊である、『魔導師隊』を繰り出す。
この世界……、テレビゲーム「アストレア・オデッセイ」における、シリーズ皆勤賞の強ユニット……、「魔法使い」を、だ。
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