第17話 ウォー・ネバー・チェンジズ
戦争が始まった。
本来であれば、開戦前にお互いの軍が自分達の「正当性」を声高々に主張し合い、轡を並べて突撃し合うのがこの世界の一般的な「戦争」なのだが……、今回は違う。
もう既に戦端は開かれ、弓矢の応酬が始まっていた。
スターライト子爵家が、卑劣な奇襲攻撃を仕掛けた後だからだ。
問答無用の奇襲攻撃、それも、村の平民達を殺して畑や家畜から資産を奪う、刈田狼藉だった。
これに対して、スターライト子爵軍は大いに浮き足立つ。ワルバッド辺境伯軍は何故か堅固で動揺のかけらもない。
スターライト子爵は「そんな指示はしていない」と否定してはいるが……、ここもまた、ワルバッド辺境伯と同じで、「既に起きたこと」は変えられなかった。
ワルバッド辺境伯は、スターライト子爵が軍を引き連れて現れた時点で、「戦う」以外の選択肢を潰されてしまった。
それと同じように、スターライト子爵も、この部下による刈田狼藉が、子爵本人が指示したものかどうか?などということは関係なく……、結果として、「スターライト子爵はダークエルフ討伐と言いながらも、部下に刈田狼藉を許した」と、そういうことになってしまっていた。この混乱の最中、弁明の余地はない。
これはまさに、ワルバッド辺境伯が常々言っている、「自分がどう思ったか?」ではなく、「他人がどう思ったか?」と。他人にどう見られているのか?という話である。
最早、スターライト子爵は、この戦争に完勝することでしか、この卑劣な奇襲攻撃について弁明することはできなくなっていた。
もう既に、お互いの軍はぶつかり合い、凄惨な殺し合い……「戦争」が始まっている……。
『もすもす?』
「もしもし?こちらデストランだ。この無線というものは凄いな、天幕に居ながら、戦場の全てが把握できるぞ」
『伝令兵に訓練させた甲斐があったか?』
「ああ。伝令兵……、今は情報部だな。この者達が戦場各地での無線情報を集めて纏め、解析し、私に渡してくる。それを私が読み、戦術を決定し、信じられない速さで命令が伝達される……。戦争の理想形だな、これは」
『ダークエルフの使い魔による空撮は?』
「悪くない。戦場によく湧く、腐肉漁りのカラスを使い魔とするとは、中々考えたものだな。だが、まだまだ映像……というのか?この絵図には色もないし、粗は多いな」
『要改善、か。OK、後で考えておく。今回は有りものでなんとかしてくれ』
「ああ、了解した」
戦闘が始まり、軍が弓の撃ち合いをしている最中、将軍であるデストランは軍の天幕で高笑いをしていた。
この世界の戦争は確かに中世のそれで、ヨーイドン形式で始まるものだが、だからと言って全く戦術が無意味という訳ではない。
また、戦場は広く、距離もある。
戦争をする時は、指示出しのために銅鑼やラッパを鳴らしてみたり、狼煙を焚いてみたりなどと、様々な手段が使われる。
それがどういうことか?というと、戦術を考えて全体を指揮する者と、実際に剣を振り回す末端の兵士との距離が遠いということだ。
実際の数字で言うと、人と人とが1メートル程度の距離を空けて密集し、陣形を組むとする。
横に百人並べば100メートルとなる訳だが、100メートルの距離感を分かるだろうか?
例えるならばラグビーのコート、或いは、観覧車の直径ほど。その距離を空けて並ぶ兵隊の塊を、指揮者が自分のいる地点より先の数百メートルまで動かす、と。
また別の例えをするのならば、学校の全校集会などを考えてほしい。
よく、校長先生が、「皆さんが集まるまでに〇〇分かかりました!」などと嫌味臭く説教をするものだ、などと多くの人は思い浮かべるのだが……、実際のところ、それだけの人数の人間が動く時、テキパキと動けるだろうか?
先生が百人隊長、生徒達が兵士として、決められた陣形……並び順にしっかりと整列することは、容易だっただろうか?
そしてそのまま、陣を組んで突撃し、或いは撤退や旋回をすると考えると……、兵士というのは利口で、よく訓練されているなと理解できようものである。
そんな訳で、軍を指揮して動かすというのは、一種の特殊技能だと言える。
何せ、マイクもスピーカーもないのだから。
基本的に軍の、陣形の動きというのは、「遅い」のだ。
人が増えれば増えるほど、これは顕著である。
そして更に、前線指揮官たる百人隊長のミス、兵士一人一人のサボタージュ、士気管理の問題や補給の話など、そういう不確定要素の数々が入ってくると……、最早、軍隊を思い通りに即応させることなど、どんな優秀な指揮官にも不可能となる。
が、しかし。
「将軍!第三部隊から速報です!右翼の敵が突撃しようとしております!」
「よし、ならばこちらの第四部隊が突撃を受け止めろ。第三は退きながら擲弾を使え!」
「了解!……第四部隊、敵右翼を受け止めろ!オーバー」
ワルバッド辺境伯領で使われる新兵器、「無線通信機」は、ワルバッド辺境伯軍の「速度」を、通常の軍隊の倍以上に高めた。
この「速度」というのは、もちろんだが、走る速さの話ではない。
軍全体を一つの生き物として見た時の、反応速度が高まったのだ。
脳、つまりは司令官の考えが、末端の兵士にまで素早く届く。
普通の軍が、銅鑼をガシャガシャ鳴らして、伝令を休みなく走らせてやっとやっと命令を伝えているところ、ワルバッド辺境伯軍は即座に全てに対応してくる。
スターライト子爵軍は逆に、何をしてもダメだった。
そもそもが浮き足立っていた中で、どんな攻撃もいなされて、弱点を突かれてダメージを与えられている。
スターライト子爵軍から見れば、ワルバッド辺境伯軍は「未来予知」と言えるほどの速度で対応してくるのだ。
実際のところは、「無線通信機」を知らないスターライト子爵軍は、普通に堅実に軍を動かしているだけなのだが、その動きの予兆を見て、即座にワルバッド辺境伯軍は指示を出している。
普通に考えれば、敵軍の動きの予兆を感じたからと言って、いきなり指示を変更することは不可能だ。それをやるには、伝令を呼び戻して、戦術を考え直して、もう一度伝令を走らせなくてはならないから。
ワンアクションに数十分かかるスターライト子爵軍と、ワンアクションを数分で済ませるワルバッド辺境伯軍とでは、タイムラインが違うのだ。
「効果大!擲弾の音に敵騎馬が怯えて、落馬者多数!騎兵突撃を無効化しています!」
そして、無線以外にも、様々な新兵器。
爆竹、コンパウンド・クロスボウ、空撮、鉄条網……。
それらの特性を知り、すぐさまこの世界の戦場で活用できる、将兵達の知恵。
十分な数の兵士と武器と、充実した補給……。
それが揃っているワルバッド辺境伯軍は、凄まじい強さだった。
「よし、第四部隊を退げさせて、休憩と盾の交換をしろ!その代わりに第五部隊が穴埋めをし、第三部隊は援護を続けるように!」
「了解!」
「……ククッ、まるでこれでは、机上演習だな?言った通りに軍が動くなど、夢のような話だ!」
笑うデストラン将軍は、戦術を考えながらも、ほくそ笑んだ……。
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