第5話 魔法学生誘拐事件
(行方不明事件、消えたおばあちゃんの孫、ひみつ文字で書かれた「たすけて」)
行方不明になった子が、このホテルにいる?
私は、スタッフの一人に私くらいの年の子が、このホテルに来なかったか聞いた。
スタッフは、すぐに教えてくれた。
宿泊客の貴族の一人が、回復魔法学校の生徒の一人を連れていたという。
この国では、貴族の権力が強い。
もし、行方不明事件の犯人が貴族だった場合、よっぽどのことがなければ事件は表にはでないだろう。
被害者が、平民ならなおさらだ。
さすがに、部屋の場所までは教えてもらえなかった。
でも、だいたい予想がついた。
最上階にある最高級の部屋は二つ。
一つは、私たちが泊っている。
もう一つは?
貴族が、安い部屋に泊まるはずがない。
その貴族が、女の子を一人連れ込んだところで、ホテルもいちいち大事にしない。
そもそも、貴族に取り入っていい暮らしをするために、自分から売り込む女の子も多いのだ。
わからないことが多いけど、掲示板の「たすけて」の文字は見過ごせない。
会って、話を聞くくらいはした方がいいだろう。
私は、その日はホテルの最上階のもう一つの部屋の様子をうかがって過ごした。
部屋の出入りは、その下の階から続く階段から分かれている。
隣の部屋へいく階段で、人の出入りを見張る。
夕方くらいに、若い貴族らしき男性がでていった。
(チャンスだ)
私は、隣の部屋へ続く階段を昇る。
見つかったら、間違えたと言い訳すればいいだろう。
ホテルのスタッフも、上の階には呼ばれなければ行かない。
これは、私たちの部屋で実証済みだ。
構造も装飾も、私たちの部屋とほとんど変わらない。
鍵はかかっていない。
そっと部屋の中に入る。
飲みかけのワインがあるくらいで、特に変わったことはなさそうだ。
寝室へ行く。
誰かいる。
部屋へ入ると、人の気配。
「いや!
……お願い……もうやめて……」
シーツにくるまった少女が、小さい声でそう言った。
「……あいつじゃない……?
あなたは……?」
私は、彼女を見たことがあった。
「たしか……ミレーヌ……?」
魔法回復学校の生徒。
クラスは違うが、合同実習の際に何度か言葉を交わしたことがあったはず。
「あなたは……退学になったノエル?」
むこうも、私のことを覚えていたようだった。
私は魔法学校では悪い意味で有名人だったから、覚えられていても不思議じゃない。
「掲示板の助けてはミレーヌが書いたの?」
私がそう聞くと、ミレーヌはうなづいた。
「私は……だまされたの……」
そう言って、彼女は私に胸元を見せる。
そこにあるのは、禁止された奴隷魔術の模様。
「これは……」
「貴族の男の人を紹介してくれるっていうから……
それなのに……こんな……ひどい……」
奴隷魔術の解除は難しいという。
高位の神官が使う魔法でないと解除できなかったはずだ。
解除には、高額の寄付金が必要だった。
あまりに非人道的ということで、セラ教で禁止令がでていた。
この国でも、それに合わせて使用に罰則ができたはずだ。
「とにかく、ここから逃げましょう。
あいつが帰ってくる前に……」
私は、ミレーヌに逃げるように促す。
ミレーヌの祖母が、おばあちゃんならば、寄付金も用意できるだろう。
最悪は、マリーネに頼むのも一つの手段だ。
「……そうね」
ミレーヌは、シーツを体に巻き付けると、部屋からでようとした。
「おいおい、どこへ行くんだ?」
あいつが、戻ってきた。
「ひぃっ!」
ミレーヌは、その声を聞いただけで腰を抜かして座り込んでしまった。
それから、私をぎろりとにらむ。
「なんだ? お前は?」
怖い……
でも、このままじゃ私まで奴隷にされてしまう。
「ど、奴隷魔術は禁止されています!」
私は、勇気を振り絞って言った。
そいつは、私の前まで無言でやってくる。
その目には狂気が宿っている。
それでも、私は目をそらさない。
次の瞬間、視界が白くなり、背中に衝撃が走った。
続いて頬に痛みを感じる。
殴られたようだ。
「貴族が平民を好きにしてなにが悪い?
奴隷魔術だってばれなきゃいいんだよ」
そう言うと、そいつは私の顔を蹴った。
なんとか腕でガードしたけど、腕が折れるんじゃないかというくらいの痛みが走る。
「どいつもこいつも、うるせぇんだよ!
俺のやることに、いちいち口出しするんじゃねぇ!!」
そいつは、何度も何度も私を蹴り上げた。
そのたびに、痛みが走る。
「俺は貴族だぞ!
平民の女をどうしようと勝手だろう!!
お前らも! ジジイ共も!
教会なんて知るか!!
俺は、俺の好きなようにするんだよ!!
俺のやることに!
いちいち口出しするんじゃねぇ!!」
怒りに任せて、私を何度も蹴る。
体を丸めて、なんとかやりすごす。
「やめて!
そんなことしたら死んじゃう!」
ミレーヌは、そいつを止めようと足に縋りついた。
「うるせぇ!!」
「きゃあ!」
ミレーヌが蹴り飛ばされる。
その隙に、私は部屋から飛び出す。
「待て!」
そいつが追ってくる。
私の目に入ったのは、ワインの入った瓶。
ワインの瓶をつかむ。
「お前も、奴隷にしてやるよ!
あとでたっぷりとお仕置きだからな!」
そいつが、入り口の前に立ちふさがる。
逃げられない。
ミレーヌを助けるためには……
私が助かるためには……
やるしかない。
「平民の女なんて、みんな俺たち貴族の言う通りにして、股を開いてりゃいいんだよ!」
そいつが魔術の詠唱を行う。
聞いたことがない詠唱。
奴隷魔術か?
「お前の奴隷になんてなるか!!」
私はワインの瓶を机に叩きつけて割る。
瓶は割れて、鋭い凶器になる。
付与魔術、発動。
付与するのは、私の回復魔法。
死ね! 下衆野郎!!
私は、ワインの瓶をそいつに投げつけた。
そいつは、とっさに飛んできた瓶を手で払いのける。
尖った部分が、そいつに小さな傷をつけた。
「奴隷魔術発――っ」
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