第3話 私は黙って服を着た
「私は――どうしたらいいんでしょうか?」
マリーネは、私の話を始終ニコニコしながら聞いていた。
ナターシャは無表情で、なにを考えているかわからない。
「ノエル……あなた……」
マリーネが私の手をとる。
「素晴らしいわ!」
目を輝かせて、まるで宝物を見つけたかのような感じで言う。
「え?」
「あなたこそ、私が探し求めていた人材よ!」
「でも、私は回復魔法が下手で……」
「そうね!」
やっぱり……
「これじゃ、みんなを助けられない……」
私は……セラ様のようにはなれない。
「それは違うわ!」
うつむく私に、マリーネははっきりと言った。
「あなたは、野良犬に回復魔法をかけていたわね。
それはどうして?」
「それは……助けてあげたかったから……」
「もし、回復魔法が成功して、助かったら、どうしたの?」
「え?」
「あの犬は、そのまま野良犬として生きていくわ。
でも、どっちにしろ年老いたあの犬の先は長くないわ」
そうだ。
「あなたは、魔法が失敗する可能性もわかっていた。
むしろ、失敗する可能性の方が高いことを知っていた」
……
「失敗してもいいと思ったのよ」
……
「成功すれば、あなたは自分の魔法が上手くいったことで、自信が持てる。
野良犬は、怪我が治って残りの命を生きられる。
それが幸せかどうかは別としてね。
失敗しても、あの犬の命は残り短いことが分かっていた。
そして、怪我をしたまま生きるくらいなら、死んだ方が楽なことを、あなたはわかっていた」
……
「だから、あなたは野良犬に回復魔法を使った。
とても合理的で、素晴らしい選択をしたわ。
とてもクールで、素敵だと思うわ」
……そうだろうか?
私は、とても利己的で、無慈悲な行いをしたのではないだろうか?
マリーネの話を聞いても、納得ができなかった。
「ノエル、あなたのその力。
そして、その行動。
私は好きよ。
最高にクールだと思うわ」
マリーネのいうことは、わかるけど、どこか納得ができない。
「行くところがないんでしょ?
少し私たちの仕事を手伝わない?
大丈夫、簡単な仕事よ」
「本気か? マリーネ」
ナターシャが口を開いた。
「彼女は向いているわ。
それに、あなたとの相性もよさそうだもの」
ナターシャは、マリーネの意図をつかみかねているようだった。
「……マリーネが良ければ私はかまわない」
「それじゃ決まりね!
今日は、ここに泊まっていきなさい」
「え……?
でも、こんなホテルに泊まるお金なんて……」
「いいのよ。
私たちは仲間じゃない」
勝手に仲間にされている。
でも、泊まるところも、行く当てもないの事実だ。
「……わかりました。
お願いします」
二人が泊まっている部屋は、信じられないくらい大きい部屋だった。
学校のクラスメイトたちが、全員で泊まれそうな部屋だ。
部屋の床には厚手の絨毯が敷かれ、深い赤色の織り模様が均一に連なっている。
壁は淡いクリーム色で、金の細い縁取りが施されていた。
天井には小さめのシャンデリアが下がり、柔らかな光を部屋全体に広げている。
大きなベッドがひとつ、白いシーツで整えられ、その上には羽毛の枕がいくつか並べられていた。
窓際には重厚なカーテンが吊られ、外の街灯の光がわずかに透けている。
壁際の棚には銀色の水差しとグラスが整然と並び、横の小さな机には花瓶が置かれ、淡い香りの花が一輪生けられていた。
奥には扉付きの浴室があり、石造りの床に沿って浅く光沢のある白い浴槽が据えられている。
浴槽の縁には湯気が立ち上り、温かい湯が静かに満たされていた。
浴室の壁には金属製の注ぎ口が設けられ、そこから一定の速度で湯が流れ落ちている。
「ここは部屋ごと借りているから、好きに使っていいわよ」
マリーネの言葉に甘えて、浴室を借りる。
冷えた体に、温かいお湯が嬉しい。
「はぁ~」
思わず声がでる。
これから、私はどうなるんだろう?
仕事のことは、まだ聞いていない。
それほど大変な仕事じゃないと、マリーネはいう。
しかし、どこまで信用していいのか、わからない。
なんとか、回復魔法が普通に使える方法を探さなければ。
学校は、退学になってしまったけど、理論的な勉強は終わっている。
あとは、技術さえなんとかなれば……
「なんとかなるといいな……」
思わず、ためいきをついて天井を見上げる。
ここにも、綺麗な細工の明かりと、白い天井。
カビで少し黒くなった寮の浴室とは全然違う。
こんなところに泊まるくらいの仕事。
私は、一体なにをやらされるんだろう?
「……なんとかなるといいな」
こんなに大きな部屋なのに、ベッドはひとつしかない。
そして、マリーネとナターシャは、浴室から出てくると、そのまま裸でベッドの中へ入った。
「えっ……!?」
私は、信じられないものを見た。
「あっ!」
マリーネは、今気づいたというような顔をして、声をあげた。
「ごめんごめん。
私たちは、そういうのじゃないから心配しなくていいわよ」
「エルフは眠るときに服を着ない」
「ってわけなのよ。
それで、私も真似をしてみたら、結構気持ちよくて。
いつものことだから、説明するのを忘れていたわ。
ノエルは好きにすればいいわ」
ここはどうするべきか……
二人に合わせて裸で眠る?
いや、さすがに抵抗がある。
でも、二人の部屋だし、二人のやり方に合わせるべきでは……?
うーん……
私は、しばらく考えたのち、服を脱ぎ始めた。
なに、ここには女しかいないのだ。
恥ずかしいことはなにもない。
「ノエルにそっちの気もあるなら、相手をしてもいいわよ」
私は、黙って服を着た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます