第51話 浜野井晶は、トクベツな美少女の親友です。
僕は、親友に対して、恥ずかしくない行動をとった。
それは、中学時代の
恥ずかしくて、まだまだ親友と言い出せない、そう、今僕の眼前の二人に対しても、誠実に、嘘偽りなく振舞って――――
「それで、どういうことなのか教えていただけますか?湊君」
場所は、毎度おなじみの屋上。
流石に、暑くなってきたので、本日は昼ではなく放課後。
テストも明日と迫ってきている。
僕の前には、糸美川さんと志原田さん。
そして、まずは糸美川さんから問い詰められていた。
「この前のテスト勉強会で報告したことが全部だって。浜野井が困っていたから助けただけで」
「それで、今日までのようなことになるんですか?浜野井君が?」
ぎろり、そんな擬音が本当に聞こえるくらいに、糸美川さんににらまれてしまう。
いやでも、本当にそれだけなんだって、僕自身、困惑しているんだから。
「ワタシー。ショックかもー」
「しょ、ショックって何がさ、志原田さん」
「湊くんがさー。ワタシの知らないところで別の子にちょっかいかけてるのー」
いや、ちょっかいって。
ていうか志原田さんにも説明したじゃん。
僕は、何一つ恥じることをしていないんだけど。
「何度でも説明するけど!僕は!浜野井を全力で助けただけなの!親友として!」
「それは~ないかな~」
「嘘ですね」
僕の必死の弁明も、取りつく島もなく、二人に否定されてしまう。
「二人とも、酷くない?」
「正直に申し上げて、湊君が嘘をつくとは思っていません。けれど、私たちに説明していない、何かをしたんじゃないですか?」
「そうだよね~。そうじゃなければ、"ああ"はならないでしょ~」
「そうですね、志原田さん。湊君、今の浜野井君は完全に」
「"美少女"になっているよねー」
そうだね、でも僕のせいじゃないってば。
「きっと湊くんが、原因だね~」
心を読まれて、僕は少し頭を抱えた。
そう、浜野井をメガネ先輩から助け、お互いの誤解を解いて、日曜日には三人でテスト勉強。
浜野井は、問題なく糸美川さん達とも友人になり、なごやかに勉強会は終了した。
その時の浜野井は、当然、普通に男子の姿だったのだ。
だったはず、なのだが。
翌日、学校が始まると、浜野井は男子の制服のまま、土曜日に出会った時のヘアスタイルになっていた。
少し余らせた、頬にかかる髪を編んで、リボンを結んだスタイル。
男子の制服だというのに、それは見事に彼の容姿とマッチしており、普段彼の周囲にいる女子生徒も喜んでいた、それは、良いのだけれど。
『湊君……どうかな?似合っている?』
いやはや、あの時は一瞬、時が止まったよね。
いやそりゃね、勘違いされても気にしないとは言ったし、浜野井も気にしていなさそうだったけれど、どう答えたものかと悩みましたよ。
『勿論、似合ってるよ』
『えへへ……ありがとう』
まあ、褒めましたけど。
浜野井、凄く喜んでくれましたけどね。
そして、その翌日にはカチューシャ。
前髪を上げるスタイル。
さらに翌日には、多分ちょっとメイク。
あんまり表現するのは問題だけれど、唇とかぷるぷるしていた気がする。
そして、木曜日、金曜日のテストまで、あと一日のこの日。
『湊君、ボク、変じゃないかな?』
浜野井、女子の制服を着ていました。
これには、周囲の女子もびっくり仰天。
勿論、テスト前で浮ついた気分には、なれないということもあるのかもしれないけれど、浜野井の周囲から女子は離れていたと思う。
なんなら、玉枝さんは興味津々というか、なんか色々聞いていたけれど。
あの子本当にすごいな。
とにかく、浜野井が何故こんなことになったのか、僕には全く見当もつかない。
はっきり言ってしまえば、困惑していた。
「僕自身、何が起きているか本当に分からないんだって」
「本当ですか?信じていいんですよね、湊君」
「本当だってば。そりゃ、浜野井を助けなきゃと思ってさ、ちょっと熱く語りすぎたところはあるかもしれないけど」
「あの男から守ったことは、本当に称賛に値しますけどね。というか彼、放置していて良いのでしょうか?」
「受験控えている3年だしね、流石に問題は起こさないんじゃないかな」
「そうあって欲しいものですね」
「ホントに」
僕と糸美川さん、お互いにあのメガネを思い出して、嘆息する。
もう今後は関わらないで済むとありがたい。
とっとと大学で彼女でも何でも作ってください。
「ワタシー。ソイツに話しかけられなくてラッキーだな~」
「多分、志原田さんに声をかけるのは怖かったんじゃないかな。大人しそうな子だけ選んでたんでしょ」
「成程ね~」
「あ、でもさ。もしも志原田さんの所に来たら、僕が追い払うからね」
「にひひ、ありがと」
「そういうことを、サラッと言えるから、浜野井君がああなった気もするんですが……」
糸美川さんが怖いことを言うけれど、違うから、絶対。
「第一さ、浜野井は"美少女"になりたいとかじゃないんだから。僕は友達守るのに必死になっただけだよ」
「それは、その通りなんですけどね」
「意外と普通に友達の延長線上だったりしないかな?」
「それは、無理があるかと思いますが……でも、私達のこともありますから、そうなのかもしれません」
どうやら、糸美川さんは納得してくれた様子。
「ん~?うーん……」
しかし、志原田さんは何かを考えこんでいる。
「そういえばさ~気になったんだけど、浜野井君だけ親友なの、ずるくない?」
かと思ったが、普通にご指摘だった。
いや、言われると思ったけどさ。
「いや、二人にそういうこと言うの、恥ずかしくて」
「ほほ~。じゃ、私達も親友で、良いんだね?」
「ふ、二人が良ければだけど……」
「何故、そこで躊躇されるんですか、まったく。勿論じゃないですか、湊君。志原田さんと同じで、私だってずるいと思っていましたよ」
うう、申し訳ない。
「それじゃ、思い切っていうよ、あのさ二人とも」
「はい、なんですか?」
「ばっちこい~」
「えっと、持ち良ければ、僕と、友達"以上"に、なってくれないかな」
おずおずと、勇気を出して、二人にも親友になりたいと伝える。
だというのに、なんということだろう。
二人は、黙ってしまった。
どころか、顔を見合わせている。
「え、ど、どうしたの二人とも、やっぱり僕とは親友は無理」
「いえ、そうではなくて」
糸美川さんは、何かに気づいたのか、眉根を指で押さえている。
「あのさ~湊くん、それ、浜野井君にも言ったの~?」
対する志原田さんは、呆れ顔だ。
「そ、そうだけど、何か問題あった?」
「はぁ……」
今度はため息、傷つくから止めてよ、もう。
「あのね~湊くん」
「な、なにさ」
「普通はね、友達以上になりませんかって、付き合ってくださいみたいなもんだよ~」
「え?いや、そんなことは、ないでしょ」
「普通はさ~、親友になろう、で良いと思う~」
そ、そうなの?
だって、僕は昔、
「で、でもそれだけじゃさ。後僕、親友のことだよとは浜野井に言ったよ?」
「あれ~そっか~。それじゃ、違うのかな~?」
「あの、湊君、もう一つ良いですか」
糸美川さんは、何かに気づいたのか、こちらに向けて問いかけを投げてきた。
「変な話にはなってしまうのですが」
「こ、怖いことじゃないよね」
「ある意味、怖いことかもしれません」
「ほ、ほんとに?」
「ええ、そのですね。湊君、私達には言いましたよね。『男性と付き合いたいと思っているわけではない』と」
そりゃ、当然じゃないか。
いくら美少女だからって、僕は男子と交際をしたいわけではな……あれ?
「浜野井君に、それ、伝えています?」
「いや、その……」
「あ~、これはやってしまったね~」
いやいや、違うから、そういうのじゃないからね?
「伝えましたか?湊君」
「つ……たえてないです」
「それじゃ、それが原因ですね、きっと」
原因を突き止めた糸美川さんは笑顔だけれど、眼は笑っていなかった。
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