第41話 浜野井晶(びしょうじょのすがた)3
糸美川さんに入学早々告白し、そして、たった一週間で再告白。
そこで断られたことに腹を立て、逆上した最低の先輩。
そんな陰険メガネ先輩が、ほんの少し開いた扉から、顔を覗かせていた。
こちらと目が合うと、彼はそれを細めた。
なんというか、ホント、嫌な眼をするなこの先輩。
とはいえ偏見は厳禁だ、僕がされたくないことだしね。
「君か……どうやら、トラブルメーカーらしい」
やっぱこいつ嫌な奴だろ。
あーだめだめ、切り替えよう。
そもそもこの人、何しにここに来たんだ?
「あの、すみません先輩。なにかご用でしょうか?」
「ふん。簡単な話だ。僕は運営としてね、問題が発生しているということで、それを確認しに来ただけだ」
おいおいこの人、3学年かよ。
それで入学式で即、告白したの?
「何か言いたそうだが……それはまあいい。体育祭では、特別教室の使用は許可制だ。すぐ退出してもらおう」
因縁がある僕、ではなく運営としての職務に戻ったからであろうか。
普通の眼に戻ると、淡々と規則について話し出した。
「通常、ペナルティが発生するところだが、体育祭の盛り上がりに水を差す必要もないだろう。今こちらの指示に従うのならば、それで構わない」
「ありがとうございます、先輩。それでは……」
って、駄目だわ。
了承して、すぐさまこの場を立ち去りたいところだけれど、ここにはまだ浜野井がいる。
玉枝さんがまだここに来ない以上、今すぐ、というわけにはいかない。
「どうしたのかね?従わないつもりかな?」
「そういわけではありません。ただ、もう少し、あと10分程度待っていても良いでしょうか?」
「悪いが、規則は規則だ。そういうわけにはいかない」
「どうにか、お願いできないでしょうか。何も悪いことはしていません。少し時間を置けば、すぐ退出できるようになりますので」
「ふむ……そもそも、君はここで何をしているのかね?それに、君たちもだ」
残念ながら、こちらの交渉には応じてもらえず、先輩男子は周囲を見回し、僕ではなく、応援団女子達へと質問を投げかけた。
「わ、私たちは、赤組の応援に臨時に参加してもらおうとして」
「ふむ、彼にかね?」
「ち、違います。別の後輩に、参加してもらうために、着替えてもらうためにここを利用していたんです」
「成程、それは完全にルール違反だね。すまないが、後で反省文の提出をしてもらおう」
「そんな……!」
おっと、普通に有能じゃないか、この先輩。
後はどうにかもうちょっとだけ融通を利かせてもらえれば、なんとかならないかな?
「それで?君の方は、何故ここにいるのかね」
「はい。先ほどそちらの応援団の先輩がおっしゃられた、後輩ですが、無理矢理参加させられそうになったのです」
「そんなことはないわ!」
「済まないが、口を挟まないでくれたまえ。それで?」
僕の言葉に反論する先輩女子だが、それを遮って、メガネ先輩は僕へ説明の続きを促した。
「彼は、半ば騙される形でここへと連れてこられました。そして、応援団の服へと着替えさせられ、残った運動着を片すという名目で、教室へ持っていかれてしまったのです」
「それが本当だとすれば、大問題だな」
「証拠になるかはわかりませんが、もうすぐ僕の友人がここへ着替えを持ってきてくれます。少なくとも、本人の意思で着替えていないことの説明はつくかと」
「成程、ふむ……」
僕の説明に、メガネ先輩はしばし考え込む。
そして、周囲の応援団へと視線を向けた。
「彼の言うことは本当かね?」
「そんなことありません!浜野井君は、快く了承してくれました!」
「しかし、本当にそうであるのならば、今こうして扉の前の彼は、籠城などしていないだろう?」
「それは……だから、浜野井君が急に」
「急に意見を変えた、ということならば、それを了承して諦めるべきだったと俺は判断する。何か、間違っているかな?」
「…………」
言い訳が思いつかなかったのか、押し黙る先輩女子。
ふう、助かった――――そう思った時である。
「で、でもですね。先輩!浜野井君のチア服は本当に可愛くて、最高なんですよ!」
「それは強制する理由には……うん?チア服?その、浜野井君と呼んでいたような気がするのだが」
「そうですよ、男子なのに、びっくりするくらいチア服が似合うんです!きっと彼が応援に参加してくれれば勝利間違いなしで……」
「へぇ。そうかそうか」
先輩女子が、余計な一言を放つ。
それを聞いた瞬間、扉の隙間から、メガネ先輩の顔が覗き込まれた。
―――――いやな、眼だ。
「悪いが、君。当事者にも話を聞きたい。その、浜野井君と話をさせてくれるかね?」
糸美川さんに振られた時と同じ、眼をしていた。
自分と糸美川さんが同性であることを、強調した時と同じ眼。
人の趣味にケチをつけるつもりはないけれど、この先輩、そういうのが好きなんだ。
「直接顔を合わせて、判断したいな」
まるで舌なめずりでもするかのように、先輩は嗤う。
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