第35話 能美高校体育祭 1
私立能美高校体育祭。
通常の学校の体育祭とは異なり、我が校の校風に則った形で開催される、学校行事である。
在籍する1学年2学年が競技者として参加、3学年が運営側として参加する。
一応2学年からは運営委員会に入ることで、運営側として参加できる。
最初から進学を目指す人間として、怪我をする恐れのある運動行為を避けるために、入会する生徒も多いらしい。
しかし、実は競技側としての参加よりも、その責任や、しなければならないことは多岐にわたり、意外に重労働であったりするらしいとのこと。
それらの苦労は決して無駄になるわけでなく、大学生活の諸活動への積極的な参加ができるような人物になれるとかなれないとか。
正直先の話過ぎて、まだ想像もできないけれどね。
それこそ1学年の僕らは、まず競技者として真面目に参加することが重要だ。
とはいえ僕、足遅いからなぁ。
事前に参加を決めた競技で活躍、とまではいかないまでも、失敗しなければ良いなと思っている。
「どしたの、湊くん。なんか暗いじゃん」
「ああ、志原田さん。今日はよろし」
開会式前の準備時間、自信の座席でボケっとしていると後ろから志原田さんの声。
振り向いて、よろしく、と言い切ろうとしたところで、志原田さんの姿を思わずまじまじと見てしまう。
「あれあれ~?どうしたの、湊くんてば。珍しい顔してる」
「べ、別にそんなことはないけれど?」
「うっそだー。ほらほらー。素直に思ったこと言っていいんだよん」
僕の眼前でポーズをとる志原田さん。
相変わらず少しパーマをかけているのだろうか、流れのあるショートヘアに、白いハチマキ。
ハチマキを巻いたところで、相変わらず少し物憂げな美人な顔をしているけれど、今回僕が衝撃を受けたのは、彼女の格好だった。
学校行事、ということでフォーマルに半袖短パンの運動着を着ているのだけれど、本来肌が露出される部分は隠され、ぴっちりとしたインナーを着込んでいるようだった。
「ま、まぁ似合うんじゃないかな?」
「え~。素直じゃないな~。絶対似合うって思ったでしょ?」
う、まぁそのとおりである。
しかも、ちょっとオタク的な部分で良いな、と思ってしまった。
だからこそ、素直に褒めて良いのかどうか悩んだっていうのに。
「ちょっと意識しちゃったでしょー」
「し、してません!普通はしない格好だったから驚いただけだからね?」
「本当かなー?」
「本当ですー!」
志原田さんは、愉快だったようで、こちらを揶揄うように笑う。
僕は動揺しながら、抗弁するしかない。
とはいえである、「普通に肌が見えた方が良い」なんて言うのも問題があるから、反論もできやしない。
「それともー?肌が見えた方が良かった?」
「そっちもいらないからね、僕」
「ふふふー。照れちゃって、湊くんてば可愛いんだ」
「僕可愛いと言われても嬉しくないし」
「そだねぇ。それじゃ、可愛いは、誰が言って欲しいでしょうー」
「そ、それは」
「ほらほら、ちゃんと口にしないと伝わらないよ~?」
ああもう、これはちゃんと言わないと許してもらえないやつだ。
「志原田さんに、よく似合ってると思う。その、言っていいのかわからないけど、可愛いとか美しいとは別の魅力があると思う」
「セクシー?」
「そ、そうとも言うかもしれない」
「にひ、ありがと」
目を逸らしながらも、僕が絞り出すように肯定すると、志原田さんは嬉しそうに破顔した。
「お弁当持ってきてるー?一緒に食べようね」
「もちろん。糸美川さんも志原田さんを誘おうって言ってた」
ひととおり、僕を揶揄って満足したのか、志原田さんが次の話題へと移った。
一緒に昼食をとろうというお誘いだ。
「糸美川さんが?」
「そうそう。折角だから、今日は3人だけで食べようって」
「あー、気を使わせちゃってる?」
「全然。『こういう学校行事で仲良いメンバーだけで時間を過ごすの楽しいですよね』って言ってたよ」
「ん~。ありがたくお願いしようかな~」
志原田さんと仲良くなれた僕たちだけれど、彼女はあまり大所帯で過ごすのは好きではない。
そんなわけで、体育祭まで、三人一緒に昼食をとることはなかったので、この機会にそれをしてみようと糸美川さんが提案してくれたのだ。
志原田さんが気にしないように隠していたのだけれど、どうやらその思惑はあっさりばれてしまったようだった。
「二人には迷惑かけちゃうなぁ」
「いいのいいの。気にしないでよ、美少女さん」
「なにそれー。ほんとしれっと恥ずかしいこと言うよねー」
「ウソはつけないタイプなんで」
「知ってますー」
僕と志原田さん、顔を見合わせてくすくす笑う。
うん、今日も絶好調だ。
「すみません。お待たせしました。あ、志原田さんもいるんですね。今日はよろしくお願いします」
「ああ、糸美川さん、待っていた、よ」
「おはよ、糸美川さ、ん?」
談笑し合う僕らに、糸美川さんから声がかかる。
そして、振り向いた僕たちは、思わず動きを止めていた。
先に校舎を出ていたのは、糸美川さんが準備があるからだとは聞いていた。
相変わらず美しい黒髪を、短いながらも一つにハチマキで結んで、凛とした美を発している。
しかし、問題はその芸術品のような顔ではない。
そんな、巧緻に設計された存在が何を着ていたのか……
「あ、あはは。二人ともあんまりじろじろ見ないでくださいよ。野暮ったいのは自覚ありますけれど、肌をさらすのは、恥ずかしいですし」
自らの格好が、不格好に見られていると思ったのであろう。
糸美川さんは恥ずかしがりながら、おずおずと自身の服装について述べたけれど、僕と志原田さんの意見は違った。
ジャージ姿の、美少女。
確かに、芋っぽい、垢抜けていない雰囲気はあるものの、それを抑え込むように美少女が立っていた。
「ね~糸美川さん」
「なんですか?志原田さん」
「ワタシの負けです。奇をてらって~すみませんでした~」
「なんで謝罪してるんですか!?」
いやだって、ダサいのに美少女はちょっとずるいよ、糸美川さん。
「うう、湊くん~慰めて~」
「大丈夫。志原田さんもめっちゃ魅力的だから、彼女がね、反則的な存在なだけだから」
「ど、どうしたんです、二人とも!?」
本気で嘆いたり、本気で負けを認めたわけでは、勿論ないんだけれども。
糸美川さんの美少女は、僕らの中で誰よりも前へ進んでいるのかもしれなかった。
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