第36話 能美高校体育祭 2

「よしっ行けー!抜いちゃえ抜いちゃえ」

「足元っ。玉まだ残ってるぞ!」

「うわぁ、また負けた」

「なにやってるんだよ」


 それぞれの観戦席で、生徒たちの歓声が上がる。

 能美高校の体育祭は、紅白戦だ。


 競技者である生徒を、学年ごとに半数になるように紅組白組に配置する。

 つまり同じクラス内であっても、違うチームに所属することになるようだ。


 クラス内の不和を生むのではないかと心配になるけれど、これもやはり能美高校の、社会に出たときの訓練のようなものらしい。


 社会って大変過ぎない?

 さておき、そのおかげもあって、僕は糸美川さん、志原田さんと同じ白組に所属できた。


「あぁもう!本当になにしてるんだ!」

「今は接戦なんだよ、理解しろよ!」

「が、頑張れ~!1年生たち~」


 思いのほか盛り上がる体育祭。

 それは良いことなんだけれど、声を張り上げる先輩たちの、かける言葉の内容がちょっとばかりよくない方向に流れ始めた。


 今はちょうど紅組との点差は均衡状態。

 そんな中で、僕たち1学年の生徒がダッシュ玉入れ競争が行われており、苦戦中である。


 発破をかけたいのだろうけれど、罵倒になってしまっては問題だ。

 そう考えていると、同じことを思ったのか、一人の先輩が強い言葉をぶつけている生徒たちに話しかけた。


「君たち、それじゃ応援じゃなくて非難じゃないか?」

「あ?なんだよ、あいつら情けないのが良くないんだろ。気合い入れてやってんだよ」

「そうだぜ、俺らが1学年の時だって上にこんな風に言われてたんだから、良いだんだよ」


 注意を受けた側が、少しむっとして返答をすると、それに乗るかのように別の生徒が自分たちは正しいと抗弁する。


「はぁ?お前らあれ受け入れてたの?正直当時はムカついてたからさ、そういうの止めようぜ?」


 それに対して、さらに反論するように、また別の生徒が声を上げる。


「いやそもそもこんな体育祭別にそんな力入れるもんじゃないだろ。しっかり行事に参加したって実績ができればそれで良いんだよ」

「あ、分かる~。来年の実行側面倒だよねぇ。受験オンリーでいきたーい」


 まずいなぁ、白組側の空気は最悪だ。

 僕たち競技に参加していない1学年の生徒は、この状況でおろおろするばかり。


 僕も口出しは難しい状況だ。

 今ここで何か言ったところで、空気がより悪くなるだけだろう。


 とはいえこのまま放置しても、何も良いことないしな……

 考え込みながら、ふと別の場所へと視線を移すと、つまらなさそうに白組の大旗を振る先輩の姿。


 あ、ひらめいた。

 中学時代、僕の友人の言葉を思い出す。


想太郎おもたろは口が達者だけどな、それじゃどうしようもないときは、行動して見せろ。お前が言葉で行う説明や説得を、動くことでやれば良い。その後にお前の言葉がくっつけば、相当に効果的だぞ?』


 了解了解、湊想太郎、動きます。


「あの、先輩!旗、自分に振らせてもらってもよろしいでしょうか?」

「……なんだよ、急に。なんか文句ある感じ?」


 おっと、ファーストインプレッションは悪い感じ。

 とはいえこういう時はまずは平身低頭ですよ。


「いえ、文句ではありません。同じ1学年として、今頑張っているチームメイトを応援したくなりまして」

「俺が応援していないって言いたいってことか?」

「違います。僕が徒競走に参加しているときも、先輩たちはしっかり応援してくれたじゃないですか!」


 はきはきと、相手の目を見て朗らかに。

 思うところは何一つありませんよと、先輩に向けて真摯に乞う。


「今苦戦している彼らと、次の競技の先輩たちを応援したくて、我慢できなくなっちゃいました。なので、旗、振らせてほしいです!」

「……ま、別にいいけどよ、ダルいし」


 いやいや先輩、本音出ていますよ。

 とはいえ、そんな突っ込みしたい気持ちはおくびにも出さない。


「ありがとうございます!それで、次の次の競技に僕参加するんですけど、その時は旗を誰に渡せば良いですか?」

「あー……あそこにいるだろ、背の高いやつ。あいつに渡せばいいよ、一応俺も次参加だから、お前の準備までには戻ってこれないから。話はつけとくから」

「ありがとうございます!先輩もしっかり応援させてもらいますので!」

「へいへい、そりゃどうも。ほら、旗」


 先輩は面倒くさそうにしながらも、僕に旗を手渡してくれた。

 見送ると、先ほど言っていた背の高い人物へ声をかけている。


 よし、これで武器は手に入ったぞ。

 ということで、まずはアクション!


 僕は旗を掲げると、観戦席の端から端を、一往復。

 うわ、意外と重い。


「白組!ファイトー!」


 今度は声を張り上げてもう一往復。

 最初の往復と僕の声に、先輩たちの注目が僕へと集まった。


「白組、先輩たちが見ているぞ!頑張れ!」


 今度はブンブンと白旗を大きく振りながらの声援。


「大丈夫!この後で先輩たちが軽くまくってくれるからさ!気負わず全力で行こう!」


 そして僕は、競技が行われているグラウンド側から、くるりと観戦席側へと振り返る。


「ですよね、先輩たち!?次の競技では、僕たちが全力で応援させてもらいますから!」


 顔を見れば、肯定してうなずいてくれる先輩たちと、戸惑っている先輩たち。

 うん、これで十分。


 とりあえず、罵倒が出てしまうようなことはなさそうだ。


「先輩方!この次の次、僕が白組を勝利に導きますので、お任せください」

「いや、君の競技個人戦でしょうよ」


 僕が大げさに自分の活躍についてホラを吹くと、一人の先輩がこちらへと声をかけた。

 ありがとうございます、その突っ込みを待っていました。


「すみません!ちょっと吹きました!その分先輩方の団体競技でなんとかしていただければ!」

「調子いいこと言うな、きみ。とはいえ、後輩にここまで言われちゃ、張り切るしかないか。しゃーなし」

「それでは?」

「はいはい、よっしゃ!競技参加者は次の競技頼む!残った奴は後輩達を"応援"な!」


 声をかけてくれた先輩は、同じチームメイトたちの肩や背中をはたいて、他の仲間に発破をかける。


 僕はそれを見て、旗を振り上げようとすると、背の高い、この後旗を託す先輩が僕に向かって手を差し出した。


「……任せろ」

「え?いや、僕旗を預かりましたし」

「なに、不甲斐なくなっただけだ。負けてられん。……借りるぞ」


 ぶすっとした声だけれど、その眼にはしっかりと光があった。

 先輩は、大旗を片手に持つと、その柄を地面に突き立てる。


 うおう、格好良い!

 ちょっと、オタク的感想だけれど!まるで線上に立つ戦士の様だ!


「これより!白組応援を始める!フレーフレーし・ろ・ぐ・み!」

「フレっフレっ白組!ガンバレガンバレ白組!」


 発せられたその声に、先輩たちは追随して、応援が始まった。


「やるぅ。湊くん」


 僕も声を張り上げて応援していると、志原田さんが僕の肩に手を置いた。

 僕は応援を辞めずに、ゆっくり頷く。


「それじゃ、ワタシも~」


 志原田さんも、ゆったりとではあるけれど、応援の声を上げる。


 そして、グラウンドの糸美川さんと目が合った。

 グラウンドの各場所に散らばった、球を回収している状況だ。


 僕がサムズアップすると、ほんの少しだけ裏の"美少女"の顔でニヤリと応える。

 美しさを保ったままに、糸美川さんはフィールドを駆けた。


 ――――そして、白組逆転勝利!


 やったぞー!それでは、次は先輩組を全力で応援!

 その次は競技、僕の活躍、乞うご期待、である!  

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