第15話 私立能美高校は
「それにしても、やっぱり高校って授業速度早いよね」
「そうですね、特に数学と英語。置いていかれてしまうのではと感じます」
「僕、絶賛取り残され中」
「そんなに軽く言うことですか、それ。というより、大丈夫なんですか?」
「んーまあなんとか」
お弁当を食べ終えて、水筒からお茶を取り出してのんびりと過ごしながら、話題は学業へ。
糸美川さんは、僕がきちんと授業についていけるかどうかを心配してくれているようだ。
とりあえず、どうにかなるとは思う。
入学式から一週間+登校初日+3日間と聞くと、結構なロスに感じるけれども、その間には土日もあるし、最初の週はそこまで授業を行っているわけでもない。
「どちらかと言えば、大変なのは課題かなぁ」
「そうですね、それがありました。大丈夫ですか?」
「とりあえず2週間あるから、土日で。頑張ります」
入学と同時に新入生へと出される、各教科の課題。
学校側は、インフルエンザで倒れる僕へも、当然それを課した。
きちんと配慮して、〆切は長めにとってくれている。
糸美川さん達のように普通に投稿出来た生徒たちは今日が最終締め切りのはずだ。
「難問はありませんが、とにかく分量がありますからね、めげずにこつこつ頑張ってくださいね」
「ありがと、糸美川さん。ちなみに糸美川さんは、もう提出済み?」
「ええ、実は湊君が登校された日に、提出済みです」
「おおー優等生」
「それほどでも。それに、能美高校の校風を考えると、ギリギリに提出は危険ですからね」
「確かにねぇ」
私立能美高校は進学校でありながら、一風変わった特徴を持っている。
それは、"社会に出た時に問題なく振舞える生徒を輩出する"という校風だ。
進学校でありながら、卒業者に就職する者が数名程度いるという実績もある。
とはいえ働くことが出来るような人材を育成するというわけではない。
特筆すべきなのは、自由と責任だ。
能美高校には校則は"ある"が"ない"。
正確に言えば、校則を守らなければいけないタイミングがあり、通常は学校生活に制限はかからない。
けれど、それを順守しなければならないタイミングでは、相当に厳しく規則が機能するのだ。
分かりやすいところで言えば制服である。
実は、能美高校では制服を着て登校することが、校則に定められていない。
私服登校も可能となっている。
しかし、能美高校は指定の制服も販売している、男女共にブレザーだ。
僕も糸美川さんも今、その制服を着ている。
……糸美川さんは、女子生徒の制服だけど。
さておき、ほぼすべての生徒は、制服で登校している。
何故、そんな訳の分からないことが起きるのか。
「課題を提出しないのも、締切りを守れず、遅れて提出するのも自由。けれど、その責任は生徒本人が負わなければならない、だもんなぁ」
「ええ、それに、早めに提出したことは、むしろ評価してくれるらしいですよ?」
「成程……もしかして僕のインフルエンザ。体調管理不足で評価下がったりするかな」
「それはないんじゃないですか?感染症ですし、止むに已まれぬ理由と言うやつですよ」
「本当にあいまいな部分もあって難しいよねぇ。制服もそうだけど」
「ええ、学校に相応しい、フォーマルさがあれば自由とする、ですからね」
「ちなみに噂で聞いたんだけど、入学の翌日から私服で帰宅させられる生徒が出たって本当なの、糸美川さん」
「はい。でもその生徒は制服も持ってきていたので、少し指導を受けた後、授業を受けたらしいですよ?」
「リスク管理バッチリじゃん」
「ですね。ふふ」
社会に於いて、服装選びは重要だ。
そのことを学ぶために、原則として能美では何を着てもいいとされている。
けれど、学校に相応しくない、カジュアルな私服であれば登校は認められていない。
となると結局のところ制服を着るのが一番楽ということになり、生徒は皆制服を着用としているわけである。
このように能美高校は、社会に出たなら自由を謳歌するだけでなく、自ら考えて守らねばならぬルールを学ばせてくれるわけだ。
「私も、本当はもっと髪を伸ばしたかったんですけどね」
糸美川さんは、そっと自分の髪に触れる。
今日も彼女の髪は、春の光を反射して輝き、艶めいている。
「髪の長さって、なにか規則あったっけ?」
「はい。式典等においては、学生に相応しい頭髪にすること。という規則がありますよ」
「あ、そっか。ということは入学式なんかでは」
「はい。通常の授業などでは、あまりおかしくなければ髪型は自由です。けれど、そのままでは式などに出ることが出来ないわけですね。勿論式に出ないのは自由ですが、それなりに評価がマイナスされるとか」
「おおう、厳しいね」
「はい、ですので私はこの長さに。それと」
「それと?」
「やはり、美しく保ちたいですから。今はこの長さが手一杯ですね」
ふふっと微笑みながら、自らの髪をかき上げると、滑らかに流れた。
「糸美川さんの髪、綺麗だもんね。……って、あ」
僕は思わず、誉め言葉を発してしまうが、その発言のまずさに気づいて思わず声を漏らした。
見れば、糸美川さんはまたもにんまり笑顔だ。
「湊君、褒めてくださるのは嬉しいですけれど、女性の髪について、あまり口にするものでは無いですよ?」
揶揄う表情のまま、こちらを窘めるようなことを言い出す糸美川さん。
いや、糸美川さん男子でしょ。
そりゃまぁ、美少女だけどさ。
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