第13話 糸美川さんは、表も裏も美少女です。

 学校を後にして、帰路につく。

 授業終了と、部活動終了の間の時間だけあって、駅に向かう生徒の姿はまばらだった。


「僕、明日からも頑張らないと」 

「一週間分の遅れを取り戻さないといけませんからね。頑張ってくださいね、湊君」

「うん、頑張るよ、糸美川さん」

「はい。でも、無理はしちゃだめですよ」


 なんだかんだで、僕は早速美少女の恩恵にあずかっていた。

 糸美川さんと一緒に歩いていると、こちらに振り向く通行人たちがいる。


 まぁこの場合、あの冴えない男は何であんな美少女と一緒に歩いているんだ?って思われているだけなんだけど。


 とはいえ、僕が目指す脱オタクには、物凄く好都合であるように思えた。

 今日出会って親切にしてもらった時に感じていた、脱オタへの第一歩。

 概ね間違っていない気がする、


「あのさ、糸美川さん。今日は本当にありがとう」

「どうしたんですか?感謝の言葉でしたら屋上でしっかりと」

「そうじゃなくてさ、いや、今日助けてくれたことは何度でもお礼を言いたいんだけど」


 思わず感謝の言葉を告げたけど、どのようにこの気持ちを伝えたものか。

 色々と相応しい言葉を考えたけれど、中々思いつかない。


 こうなったらもう、勢いで言っちゃうか、"美少女男子"というワードじゃないけれど、難しく考えない方が上手くいくかもしれない。


「僕もさ、叶えたい目標のために、努力しようと思うんだ」


 糸美川さんはきょとんとしている。

 うん、これだけじゃ分からないよね。


「糸美川さんみたいには、僕は努力をしていなかった。だから、今日から変わる。目標に向かって踏み出そうと思うんだ」

「それは、その、オタクのことですか?」

「う、うん。目指せ脱オタク、と考えています……」


 張り切って言ってみたものの、なんだか情けない目標な気がしてしまい、最後にはしりすぼみになってしまう。


「そうですか、それでは高校生活、二人で目標に向かって頑張りましょうね」


 けれど、彼女はそんな僕を笑うことなく、一緒に頑張ろうと、そう答えてくれたのだ。


「ですが、私以上に目指すべき像が浮かばない気もしますね、湊君、例えばなにかしたいことはありますか?」

「そ、そうだね……うーん」

「難しく考えなくても大丈夫ですよ。例えば私のように、女性の服を着てみたい。そんなやってみたいことでもいいんです」


 なんて適切なアドバイスなんだ。

 脱オタどうこうではなく、まずはやってみたいこと……


「彼女、作りたいかな」


 僕の言葉に、糸美川さんはピタリと立ち止まる。

 う、何か癇に障ったかな?


「あのですね、湊君」

「な、なにかな糸美川さん」

「私は彼女にはなれませんので、ごめんなさいね?」


 とんでもないことを言い出したのでその顔を見れば、ちょっと意地悪な顔をしている。


「あのね、何度でも言うけど僕は美少女でも男子には告白しません!」

「なんだよー照れるなって、彼女にはなれないけど、オレで女の子褒める練習していいからな?美しいとか可愛いとか言っていいんだからな」

「言いません!」


 そこは言えよーと、軽口を叩く糸美川さんは本当に楽しそうだ。

 くそう、完全にやり込められてしまった。


「ま、冗談は置いといてだ」

「なにさ」

「そんなに警戒するなって。ほら、お前さっき言っただろ。目標に向かって、踏み出すって」

「言ったね」

「オレも同じなんだよ。確かに、オレはもう歩き出していたけど、お前のお陰で"美少女"っていう正しい目標が分かった。だからさ」


 僕の顔を覗き込むその表情は、美少女のものとは違った。

 最初の一歩を踏み出す前の、彼女の笑顔。


「これから、目標に向かって、一緒に頑張ろうぜ」

「う、うん」

「ん?なんだよ、気の抜けた返事して。今、結構いいこと言ったぜオレ」

「そうだね。が、頑張ろう」

「うーん。なんか頼りないな。よし、一回オレのこと褒めてみ?美少女向けで頼む」


 ほれほれ、はよしろーと言った感じで誉め言葉を要請する糸美川さん。

 さっきから美少女に相応しい行動じゃないけれど、それはいいのだろうか。


「えっと……糸美川さんは」

「うん、オレは?」

「裏表のない、素敵な人です」

「……はい?」


 深く考えずに、発した言葉は、糸美川さんのお気に召さなかったようだ


「なんだよそれ、全然褒めてないし、なんなら何かで聞いたことある気がするぞ。お前な、盗用は駄目だぞ、盗用は」


 糸美川さんは怒った振りをしながら、僕の褒め方を注意するけれど、僕はそれどころではなかった。


 確かに糸美川さんの言うとおり、僕の言葉は元ネタがあり、パクったものである。


 何故そんなことをしてしまったのかと言えば、本心を伝えるのが、あまりにも恥ずかしいと思ったから。


 表に出している、大和撫子然とした穏やかで優しい表情だけでなくて、裏に隠している、今僕に見せてくれたその表情もまた、"美少女"だったから。


 "糸美川さんは、表も裏も美少女です"


 恥ずかしすぎる言葉を、思わずしまい込んだ。


「頑張って、正しい誉め言葉を考えておくよ……って、だから別に僕、糸美川さんのこと褒めないからね?」

「いいじゃんよ、練習は可能な限りしておいた方がいいんだぞ」


 やいのやいのと言い合いながら、オタク男子と美少女男子。

 とにもかくにも、まず一歩。


◆◇◆◇◆◇◆◇


これにて第1章第1節

『1歩目 糸美川さんは裏表のない美少女(男子)です』終了です。

新生活が楽しくなるような、友人との出会い。

ちょっと男子で美少女ですが、きっと楽しくなるんだろうな~と思えてもらえたなら嬉しいです。


そして、あらすじにもありますとおり、美少女男子は一人じゃありません!

どんな人物が出てくるのか?ご期待ください!


是非是非本作品、フォローをお願いします。

そして、少しでも気にいって頂けたら★を頂けるととても嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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