第12話 オタク男子と美少女男子 3

「もうひとつ、お礼を伝えて良いですか、湊君」


 学校案内を終えて、屋上を立ち去る際に、糸美川さんが僕に声をかけた。


「お礼って、僕は何も」

「そんなことありませんよ。変な男に絡まれたときに、助けてくれたじゃないですか」


 僕のしたことなんて大したことないけどな。

 そんな風に考えたのだけれど、彼女はふるふると首を横に振る


「大したことではないけど、お礼ってそのことについて?」

「いいえ。勿論そのことも感謝していますけどね。湊君は先程、私のことをなんて言いましたか」

「なんてってどういう?」

「もう。私の様な女性の服を着る男性を、何て呼びましたか」

「う。それは……」

「恥ずかしがる必要はないんですよ。さあさ、聞かせてください」

「び、美少女男子……」


 我が意を得たりとばかりに、目の前で彼女はにっこり笑う。


 今更ながら、なんてワードを作り出しているんだ僕は。

 凄い違和感と矛盾しか感じないぞ。


「良い言葉ですよね、美少女男子」

「え、そうかな?」

「はい、私はそう思います。というよりですね、女装男子や男の娘なんて呼ばれることもありますけど、あまりしっくりくる呼ばれかたではなかったので」

「男の娘はわかるけど……女装男子もダメなの?」

「はい、私べつに女性を装いたいわけじゃないですからね。私に似合うから、こういった格好をしているわけですから」


 女装って別にそういう意味ではないと思うけれど……

 まぁこういうのは本人の気持ち次第だしな、ピンとこない以上はしょうがないだろう。


「それに比べて、湊君の美少女男子は良いですね」

「て、適当に言っただけなんだけど」

「いえいえ、思い付きほど本質を表していると言うじゃないですか。つまり、湊君にとって私は美少女だったんですよね?」

「え……いや、それは」

「ですよね?」

「……はい」


 穏やかな雰囲気とにこやかな笑顔なのに、圧が凄い。

 我が意を得たとばかりに、糸美川さんは満足そうだ。


「あのですね、湊君」

「……うん」

「私、女性になりたいわけではないですけれど、きっと私の目指したものって、きっと"美少女"だと思うんです」


 おっと、なんかすごいこと言いだした気がするぞ。

 とはいえ僕が生み出した言葉で製造責任はあると思うので、黙って拝聴する。


「男性を好きになるわけではありませんし、女性になりたいわけでもありません。けれど。目指す容姿、着てみたい洋服、今のような話し方、他にも沢山の理想」


 指を追ってゆっくり自分の目指す目標を数えながら、彼女は楽しそうだ。


「私の目標は、間違いなく美少女だったんです。湊君のお陰で、気づけましたから」

「お役に立ったなら、まあ、良かったかな」

「もう。私は本気ですよ。湊君が言葉にしなければ、そんなこと考えもしなかったんですから」


 なんだか、無責任な言葉を、こんな風に受け止められるの申し訳ないな。

 とはいえ糸美川さんがそれでよいなら、問題ないか。


「男子が、美少女を目指して、美少女になっても、問題ありませんよね?湊君」

「ん、まあ良いんじゃないかな」

「そこはハッキリ肯定してくださいよ、先程は力強く頷いてくれたのに」


 いや、思わず首を縦に振っただけですから、強く同意はしてないですからね。


「だから、湊君」

「なんでしょう、糸美川さん」

「これからしっかり、美少女として、扱ってくださいね」

「……了解」

 

 気のない返事に糸美川さんは「その対応は美少女にするものではありませんよ?」なんて言いながら、くすくす笑った。

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