第11話 オタク男子と美少女男子 2

「あのさ、別に馬鹿にするつもりじゃないから、答えてくれるか。湊は、オタクってことでよいか?」


 僕が

 僕の事を開示したわけでもないのに、推測で辿り着かれてしまった。


 その事実に心が騒めいたけれど、糸美川さんの表情は穏やかで、そこに馬鹿にする意図は一変たりともないことが見て取れた。


 だからだろうか、僕は素直に頷くことが出来た。


「それで、今はオタクじゃないことを目指している、これで、あってるか?」

「うん。そんな感じ、かな」

「そっかそっか。じゃあさっきのは嫌だったよな、ごめん」

「ぼ、僕の方こそ」

「だからさ、お詫びって訳じゃないけど、オレの話、聞いてくれるか」

 

 そう言って、糸美川さんは自らの事を語り始めた。


「オレはさ、どうしても今、今すぐにでも、こういう格好をしたかったんだよな」


 糸美川さんは、中学生の途中くらいから、女の子が切るような、可愛い服を着てみたくなったらしい。


 ある日、なんとか手に入れることに成功した女性服を、思い切って着てみたところ、十分に似合っていると自信を持ったらしい。


「なんならクラスメイトの女子よりオレにぴったりと思ったね」


 なんて自信だよ、とはいえ確かに、今、目の前で嬉しそうに語る糸美川さんの制服姿は、それこそ今日見かけたクラスメイトよりはるかに似合っているように思えた。


「一度試したら、もう一度着たくなった。でも、一着じゃ飽きるしさ、物足りない。だから思い切って親に相談してみた」

「……マジで?それで、どうなったの?」

「お前の目の前の姿で、分かるだろ」


 おおう、親御さん理解あるな。

 いや、きっと糸美川さんは、自分の事を分かってくれると確信していたのだろう。


 僕だったらどうだろう。


 オタクを止めたいと言ったら……あ、駄目だ嬉々として漫画やゲーム、様々なグッズを捨てそうだ。


 僕の目指す脱オタク、それじゃあないからな。


「中学時代は、あくまで休日のみ着ていたんだけどさ、その内それじゃ物足りなくなって」


 何かを思い返すように、糸美川さんは一度言葉を切った。

 ゆっくりと息を好いて、吐き出す。


「思い切って、高校生活を、この姿で過ごしたいってお願いしてみた」

「それで、今のその姿なんだね」

「そういうこと」


 本当に凄い行動力だな。

 自分がしたいことのために、まっすぐ進んだからこそだろう。


 その表情は自信に満ちていた。


「一応、大学生まで我慢するってことも考えていたんだけどな」

「じゃあ、なんで?」

「それまで、ずっと似合う保証はないだろ?それは、嫌だったから」


 未来の事を語る糸美川さんの表情に影が差す。

 僕は慌てて話題を変えることにした。


「親は良いとしてさ、よく学校が許したね」

「んー。最近って性別の問題とか色々あるだろ?入学の前からしっかり相談していたらな、なんとかなったよ」

「それにしたって、許可されたのは凄いな」

「それほどでも、ありますかね?」


 ペロッと舌を出して、いたずらっぽい表情で微笑む糸美川さん。

 気づけば丁寧な口調に戻っている。


 やはりその所作は、美少女と呼ぶほかなかった。


「とまあこれで、オレの話は終わり、感想は?」

「感想って、質問じゃなくて?」

「ははは、良いだろ別に。それで、どう思った?変な奴だと思ったか?」


 明るく言いながらも、表情は真剣そのものだ。

 だから僕も、茶化すことなく本音で応えることにした。


「叶えたい目標のために、努力して、達成したの、本当に凄いと思うよ」

「男なのに、女性の服を着たいなんてことでもか?」

「うん。絶対に馬鹿に出来ない。糸美川さんは凄いと、僕は断言できる」

「……そっか」


 糸美川さんは、その場でくるりと僕に背を向ける。

 何度目かの、沈黙。


 けれど、それは不快なものでは無かった。

 柔らかい風が、美しい髪をひらりと揺らす。


「ありがとうございます。湊君。おかげで自信が持てました」

「どういたしまして、糸美川さん」


 糸美川さんから、こちらへと手が差し出されて。

 僕はしっかりと"彼女"の手を握った。

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