第9話 オタク男子と美少女??? 4

 屋上へと向かう階段を昇り、鍵を開け扉を開く。


 おお、確かに花壇がある、随分と小さいけど。

 ついでにいくつかの鉢植えの花。


 ……なんか、思ってたのと違って、しょぼくない?

 屋上庭園みたいなのを期待していたけど、本当に気持ち程度の植物しかここにはなかった。


 ただ、屋上を囲うフェンスは、絶対に事故を起こさせないって意思を感じさせる物だった。

 うん、僕が学校案内するときはこの堅牢さと安全性を伝えることにしよう。


「…………」


 などと、益体のない思考に耽るのは、糸美川さんが無言で、黙ったままだからだ。


 うーむ、どうしよ。

 正直な所、完全に勢いで学校案内を続けてしまったからなぁ。


 最低限、僕は気にしていない、と伝えたいのだけれど。

 どの程度まで踏み込んだものか。


 とりあえず、当り障りのない会話から始めるか。

 まずは貧相なこの花壇たちについて――――


「……お前さ、どういつもり」


 色々と悩んでいる僕より先に、糸美川さんがポツリと、僕へと問いかけた。


「ええと、どういうつもりというのは……」


 僕は、おずおずと糸美川さんに返答したけれど、答えはない。

 沈黙に耐え切れず、植物たちから目線を切って、糸美川さんに対峙する。


 "彼"の表情からは、その感情は読み取れない。

 それでも、その顔はやはり美しかった。


 ……何考えてんだろ、僕、はずかし。


「さっき助けてくれたことは、感謝する。ありがとう」


 心の中でセルフツッコミを入れていると、糸美川さんの方から会話を切り出した。

 頭を下げて、ぶっきらぼうだけど感謝の言葉を述べる。、


「あ、いや別に気にしないで」

「たださ」


 ありがとうの言葉に対して、謙遜しようとしたけれど、糸美川さんはそれを遮った。


 すぐに言葉は続かず、一呼吸置く。


「さっきも言ったけど、オレ、男と付き合う気、ないから」


 そして、糸美川さんはとんでもないことを口にした。


 ――――はい?いきなり何をおっしゃりなさいますんですか。


「確かに、勘違いさせるような行動だったかもしれないぜ?けどな、オレはただの一クラスメイトとして親切にしただけでな」


 呆気に取られる僕をよそに、糸美川さんは止まらない。


「そりゃ勿論?オレの態度でその気になっちゃうのは分かるぜ?さっきの男と違って、お前のそれには理由があるもんな」

「いや、それって何ですか」

「ん?まぁ一目惚れ。告白、しようと思ってここに来たんだろ?」


 何言ってんだ、この人。

 落ち込んだりダメージを受けているかと思って気を使った僕が馬鹿みたいじゃないか。


 なので、糸美川さんの望み通り、僕はハッキリと気持ちを伝えることにした。


「あのさ、糸美川さん」

「なんだよ。しつこいのはお断り」

「しません、告白」

「……へ?」

「僕、単にさっきのこと気にしないで良いよって伝えようとしただけなんだけど」

「……!!」


 自分の勘違いに気づいたのか、糸美川さんは黙ったまま顔を真っ赤に染める。

 うん、やっぱり顔すっごい整っている、かわいー。


 別に悩んでいないということなら良かったけどさ、僕の心配を返してよ。


「……てた癖に」

「えっと、ごめん。何?良く聞こえないんだけど」


 真っ赤な顔のまま、ぼそぼそと糸美川さんは呟く。

 僕が問いかけると、わなわなと震えだして、一歩近づいてきた。


「オレにデレデレしてた癖に!絶対そういう反応だったろ!お前!」


 糸美川さんは、とんでもないことを叫んだ。

 ええ……いや、間違ってはいないけどさ、前提条件が違うって言うか。


「そういう反応!してただろ!?だから告白とかしてくるとオレが警戒するのもしょうがない……」

「いや、だから糸美川さん、男じゃん」

「う、いや、それは。まあ、そうだよ」

「しかもさっきの馬鹿な先輩に、男と付き合う気はないっていってたじゃん」

「…………」

「それで告白したら、僕、馬鹿みたいじゃない?」


 僕が糸美川さんに恋心を抱いていると、糸美川さんが勘違いしていた。

 その事実に気づいて、糸美川さんは更に顔を赤くした。


「だ、だけどよ。お前間違いなく、そういう態度、取っていたよな?学校案内申し出た時、ニコニコしていたし!こっちのちょっとした反応も目で追ってたよな、わ、分かるからなそういうの視線で」


 しどろもどろになりながら、言い訳を並べて慌てふためく糸美川さん。

 別に揶揄いたいわけでもないので、僕は助け船を出すことにした。


「まあ、確かに糸美川さんのことは美人で、可愛いと思ったよ」


 多少、恥ずかしくはあるけれど、本当の事ではあるので、迷わずそう告げた。

 すると、糸美川さんはピタリと止まる。


「ふふっ。ありがとうございます。湊君。そういう風に褒めていただけるの大変うれしいです」


 一瞬で、姿勢を正すと物腰柔らかながらも凛とした、美しさを感じさせる佇まいへと変貌する糸美川さん。


 うわ、切り替えすご。

 とはいえ都合が良い、このまま本来の目的、感謝を伝えることにしよう。


「それでさ、今日の学校案内を申し出てくれたこと、ありがとう。助かった」

「いえいえ、気にしないでください、ですが」  

 

 僕の感謝の言葉に、糸美川さんは小さく笑ないながら、それは大したことではないと受け答えた。

 そして、そこで言葉を切る。


「やはり、それで好きになられてしまうのは、困ります。ごめんなさい、湊君」


 続きを待つ僕に、少し困ったかをしてとんでもないことを言う。

 再度、こちらが告白してしまった流れに強引に持ち込むつもりのようだ。

 

 ふむ、そちらがそのつもりなら、僕も言わせてもらおうかな。


「あのさ、ひとつだけいいかな」

「はい、告白以外でしたら何でもどうぞ」


 満面の笑顔で、こちらの言葉を待ち構える姿に、短く一言。


「調子に乗るな、糸美川」


 僕の言葉に、呆気にとられたようで、しばし無言。

 だけど、一度天を仰ぎこちらに向き直ると、ばつの悪そうな表情が浮かんでいた。


「悪かったよ」

「いいよ、気にしないで」


 強気な態度でニヤリと笑みを浮かべる糸美川さんに、僕も同じ表情で返して。

 なんだかおかしくなって、二人で一緒に笑い出した。

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