この町の幽霊屋さん 2
蛸田もそれが自分のよく知るものであることを舐め回すように見て確認。そうしてから再度、霊人を睨みつける。
「ひどいじゃないかい。どうしてタバスコなんか。私はナポリタンを食べる時にも、タバスコは入れない派なのを君は知っているよね?」
蛸田にそう告げられ、霊人はもちろんタバスコなど入っていない冷たいコーラを口にしながら思い返した。
この場所でたまにスパゲッティを振る舞うことがある。リクエストされて鉄板ナポリタンだった時もある。口角を上げながらパルメザンチーズを振りまくる彼女の絵面はすぐに浮かんだ。一方でタバスコの瓶を手にした女刑事の姿を見た試しがなかった。
「確かにタコちゃんはそうだったね。⋯⋯ついでにだけど、いつもチーズ使いすぎだからね。1人前のナポリタンに容器の半分も入れやがって。次からその分のお金も取るからね」
「ちょっと待ってくれ、少年。それは酷くないかい?ついでの使い方も間違っていると思うんだ」
「知ってると思うけど、最近チーズの値上がりも半端ないから。マジでまた真っ白になるまでドバドバ使うようならマジで考えるよ、マジで」
「そうやって食べるのが好きなんだからしょうがないじゃないか。ナポリタンを頼んでチーズがない喫茶店なんてあり得ないよ⋯⋯」
「最近そういうとこ、増えたよ。容器で出てこなかったり、有料だったり」
「そうなのかい?ここしか来ないから知らなかったよ」
「おかわりいる?」
「うん⋯⋯。もらおうかな。⋯⋯もう、タバスコは入れないでおくれよ?」
「分かってる」
少し会話をする間に、彼女が飲んでいたカップは空になっていた。飲み終わったカップの底から、まだ湯気が立っている。霊人がそのカップに手を伸ばし持っていく。その寂しさを紛らわすように蛸田はまた話し始めた。
「でも、美味しいよ、君が作ってくれるのは何でも。タバスコが入ったコーヒーだったとしてもさ。⋯⋯心がね、静まるんだよ。そんな気分にはもうなれないんじゃないかって。君に出会うまではそう考えてしまっていたね。もう君の側に居ること以外考えられないよ。⋯⋯これからもずっと一緒に居てくれるかい?」
「ああ、どっちかが死ぬまでだけどね」
「まるでどちらかがすぐに死んでしまいそうな言い方だ。幽霊屋さんが言うとシャレにならないから止めておくれよ」
「タコちゃんが初めてここに来た時は半分死んでいたようなもんだったじゃない。2、3人のゴツい警察官に抱えられて。体中アザや傷だらけでさ。頭にメロン包むやつ被ってたし、注射器の跡もたくさんあった。そのくせ、来て半日で憑き物が取れたようにケロッとしやがってさ」
「⋯⋯そうだったっけかね。君にゲラゲラ笑われていた印象しかないよ」
「はい、おかわりのコーヒー。2杯目だからミルクだけ入れといたからね」
「君は本当に素晴らしいよ」
わざわざ出来るだけ高い位置までカップを持ち上げて口を付けた蛸田。ゆっくり味わい、口からカップを離すと、彼女の眼鏡はまた曇っていた。両方とも。
「話を戻すけど、最初にこの世のものとは思えないと言ったのは、天国でしか取れないスパイスの話を君がしたからだからね」
「そうだっけ?いつの話?」
「昨日の夜。一緒にテレビゲームをやっていた時さ。酔っぱらった君が私に赤い甲羅を当てながら言っていたじゃないか。もし天国に、そこでしか取れないスパイスや鉱石なんかがあったりしたら、お金儲けが出来るかもしれないとさ」
「ああ。そうだったらなあって話ね。なんせ今日やっと初めての住人が現れた天国だからさ。これからどう発展していくかは未知数だし。噂では、別世界と天国を共有するとかいう話も聞いたし、どうなるかは正直分からん。とはいえ、前の天国の時みたいに、先輩幽霊屋さん達の為に、色々持ち帰ってやろうとは思っているけど、もちろんタコちゃんのリクエストにも応えてあげるよ」
「そんな得体の知れない所業にリクエストなんて出来ないよ、幽霊屋君。君が毎日ここに居てくれるだけで私は十分なんだから。お願いだから危ないことはしないで欲しいな」
「拳銃で自殺未遂した方がよく言う」
「あの時はすみませんでした」
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