この町の幽霊屋さん 3

「あっ、そうそう。警察屋さん」


霊人がそんな風に呼ぶ時は、少しばかり面倒な類の頼み。それは彼女もよく分かっている。


「⋯⋯。ズズッ⋯⋯。なんだい?幽霊屋さん」


2杯目のコーヒーをまたひと啜りしてから返事をした。


「さっき、チラッと話した初めての天国の住人の2人のことなんだけど。どうやら那須から福島方面に向かう国道4号線の事故で亡くなった男女2人みたいなんだけど、タコちゃんはその事故覚えてる?」


「うーん、覚えてるよー。先月のだろう?」


「そんでさー、ちょびっと天国で話しただけなんだけど、女性の方が妙に死亡記憶しちゃっててさ。てっきり2人はカップルだと思ってたわけ。2人でくっついてずっと天国の市役所まで歩いて来ていたからさ」


「天国にも市役所があるんだね?⋯⋯確か2人は知り合いなどではなく、たまたまその場に居合わせていた2人だったはずだよ。互いのご両親やご家族からそう調書を取っていたはずさ。トラックに突っ込まれた軽自動車が2台だったからね」


「どうやらその時、女性の方が男性の方のことを異様に強く記憶してるっぽいんだよね。⋯⋯まあ、気になるのはそれだけなんだけど。その事故の時の、突っ込んだトラックのドラレコを確か警察が保管してるはずだよね?それって見れたりする?2人の最後の瞬間が見たくて」


霊人がそう注文を入れると、蛸田は彼とは違う方向へ小さく溜息を吐いた。




「君はまた無理難題を。念の為にまた言っておくけど、私個人が自由に捜査したり、独断で事を進められる権限とかは一切持っていないからね。君の幽霊とコミュニケーションを取れるらしいその能力をもしかしたら秘密裏に借りることがあるかもしれないという程度だから。私の給料も初任給から変わっていないし、君に比べたら、私は駄菓子をかじるようなレベルの霊感があるだけ。警察は君にも私にも何の期待も与権も抱いていないから。⋯⋯それを分かっているなら、一応聞いてみてあげる。それでいいかい?」


「もちろん。期待しているよ、タコちゃん」


「本当に分かっているのかなあ」


蛸田は満面の笑みを浮かべるピンク色の野球帽を被った男の顔を見上げ、また溜息をついた。椅子に掛けていたジャケットのポケットからスマートフォンを取り出し、電話を掛けた。


形式上は自分が所属している職場。大田原警察署の刑事課。そこの捜査班情報収集チームの責任者の男への電話である。


「お世話になっております、刑事課霊捜査担当の蛸田ですけれども。はい、例の件で⋯⋯。はい、了解しました。失礼しますー」


左耳からスマホを離し、その画面を少し見つめた蛸田は、そのままそのスマホを隣の椅子の上へとぶん投げた。



そして、何事もなかったかのように、3杯目のコーヒーが入るカップを両手でつつみ込んだ。


その顔には笑顔が浮かんでいる。


「やるじゃない、タコちゃん。すぐに許可貰うなんてさ」


カウンターを挟んで厨房に立つ霊人。ピンク色の野球帽を被り直した彼の表情も同じレベルの笑顔だ。


そんな彼に、女刑事は言い放つ。


「断られたに決まっているじゃないか」


「えぇ⋯⋯」


霊人は膝から崩れ落ちそうになったが、ギリギリのところでなんとか耐えた。


「そんな!例の件で⋯⋯ってなって、スムーズに話が進んでいるように聞こえたから。関心していたところだったのに⋯⋯」


「そんなわけないよ。君はまだそんな訳の分からない事をやっているのかい。幽霊とお友達の刑事なんて他部署からのいい笑いものだと、嫌味を言われてしまっていただけ。霊捜査って言うと、署内の警察官にはもれなく鼻で笑われる皮肉的知名度だけはあるからね。私達はそんな程度なのさ。話のさわりすらさせてもらえない」


相棒とも呼べる存在の真剣な自虐に霊人は言葉を失いながらもグラスに注いだコーラを飲み干す。2杯目はそのグラスにそのままウーロン茶を注ぐような気持ちにダウンしていたが。


「ナポリタンでも食べていくかい?」


「チーズはかけ放題なんだろうね?」


「当たり前だろ」


自分の提案で、カウンター席に座る眼鏡さんに恥をかかせてしまったこれは詫びである。

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2026年1月12日 00:00
2026年1月14日 00:00

ちょいと天国までいってくる。 ぎん @gin5401

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