天国にはまず娯楽が必要なはずだ。8
神様はそう弁明する間に、霊人の手元を覗き込んだハチヤが面白がりながら言う。
「これ、うちのパチンコ屋の景品ですよ。パチンコだと5玉の余りで1枚になるやつ。スロットだと1枚だったかな。だいたいの人は余り玉でこれを取らされますね」
「この薄情者め!!ハチヤよ!何故バラすのじゃ!わっかびととしての誇りはないのか!わしは神様じゃぞ!」
「いやあ、すみません。物事は正直に話さないと気持ち悪いんで!」
ハチヤはニコッと爽やかな笑顔を見せた。神様の中にある邪の心が晴れていく。
「やっぱり嘘ついていたんだ。神様のクセに」
「ご勘弁を!幽霊屋!わしに出来ることなら何でもするから、許しておくれ!」
「ほう。そこまで言うならやってもらいたいことがある」
「何でも申してみよ」
「このパチンコ屋の建物を2人が買える値段まで値引きしろ」
「パチンコ屋じゃと!?」
「ああ、ご存知の通り、ハチヤはパチンコ屋の店長を目指す志半ばに倒れた。これは神様として救いの手を差し伸べなければならないと、幽霊屋は考える。パートナーのギャルも居るわけだからね」
「ちょっと!だからあたしは、アパレルとかやりたいわよ!」
しばらく3人のやり取りを見ていたマルが反論。霊人はまあまあとでも言いたげに手の平を彼女に向けた。
「大丈夫!パチンコ屋の景品って色々置いてあるから。な、ハチヤ」
「そうだね。うちには、ブランド物のカバンとか、腕時計とも置いていたよ。あと、ワイシャツとかビジネス靴下とか」
「それはなんか違うわよね!」
「というわけだ、神様。あなたも天国にパチンコ屋があって不都合はないでしょ?このパソコンの前に座って、神様権限でパチンコ屋が出来る建物価格の0を1つ減らしてくれるだけでいい」
「ぐ⋯⋯お主、死んでも天国には来れんじゃろうて」
「みんなが天国に来れればいい、この2人のようにね」
神様はパソコンの前に座った。そして慣れない手つきでカタカタとキーボードを打つ。幽霊屋に指示された通り、モニターに表示されていた3階建てパチンコビルの価格を大幅値下げ。
すぐさま、ハチヤはマルと共に、その天国物件を購入したのだった。
「おし、良かったな2人とも。これで家と仕事の問題が片付いたわけだ」
「ありがとう、幽霊屋くん」
ハチヤは霊人の両手を取り、頭を下げて感謝の意を表した。
「マルちゃんも頼むね」
「何を頼まれたんだか」
「今日は諸事情があって寒くなるから、2人ともくっついて寝ろよ。じゃあ、俺は帰るから。またな〜!」
仕切られたパソコン部屋を出る霊人。後ろ手を振りながら、足早に立ち去っていってしまった。
「はあ⋯⋯」
神様が深く溜息をついた。
「あ、あの。ありがとうございます、神様」
ハチヤは様子を伺いながら礼を述べた。
「よいよい。初めての住人じゃからな。大サービスじゃ」
「それで?何の台を打っていたんですか?」
ハチヤがそう訊ねると、神様の顔がぱっと明るくなった。すぐに保留が満タンになったかのように。
「もちろん海じゃ!あれは良い。今日はなかなかにマリンが働いてくれたからね。泡なのに、カニが揃った瞬間は、ケツが浮いたわい」
「あたし、買った建物見てくるわよー」
2人の会話には興味なし。マルはゴツゴツとブーツで床を鳴らしながら正面出入り口の方へ向かい、市役所を出ていった。
「へー。やりますねえ。やっぱり泡で当たる台はいい台ですよ」
「最後はちとノマれてしもうたがの。まあ、何とかプラスじゃ」
「今度、えゔぁ?とか申す新台が入りそうじゃ。ちと難しそうじゃのー」
「エヴァは比較的分かりやすい台ですよ。基本的に、次回予告かかレイ背景が出ればアツくて⋯⋯」
「なるほどのう。今度、お主の働いとる店で打つからしっかり教えてくれたもれ」
「俺もう死んじゃったんで店行けないっす」
「そうじゃったのー!」
それはハチヤお気に入りの台。パーテーションの外に出てからも、ソファに並んで座りパチンコ談議を交わす2人の元に、マルが走って戻ってきた。酷く慌てた様子だった。
「ハチ!大変よ!買ったのに、建物がないわ!」
そうは言われても。パチンコ談議真っ最中のハチヤの脳は停止している。
代わりに側の神様が答える。
「そら、すぐには出来んわい。1日待ってもらわんと」
「あら、そうなの?そういうのは、早く言いなさいよ」
神様のキョトンとすらしている落ち着きに、ギャルは若干の恥ずかしさを覚えた。
「じゃあ、今日は俺、何処で寝ればいいんだろう」
「市役所の2階に寝床がいくつかあるのじゃ。ワシはそこをたまに借りておるのう。幽霊屋も言っておったが、今日はどういうわけかやけに寒いから気をつけるのじゃ」
「ふーん」
天国にも日が落ち、夜が訪れた。
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