天国にはまず娯楽が必要なはずだ。5

霊人が長椅子から起き上がって向いた先は、市役所ロビーの隅。白い鉢植えに入れられた観葉植物が外に置かれ、何枚かのパーテーションで仕切っただけの小さなエリア。


頭カキカキ、お尻ボリボリ。羞恥心は現世に置いてきた様子の幽霊屋に着いていくハチヤとマル。パーテーションの中には、デスクトップパソコンセットが置かれているのみだった。


霊人は近くにあったキャスター付きの丸椅子をもう1つ持ってきてパーテーションの中へと滑り込ませた。


「基本的にこれからの天国は、こういうPCと転入手続きにも使ったような、わっかの中にあるICでお金を支払ったり、色々管理したりとかのやりとりするから。名付けて、新ヘヴンシステム」


自慢げにそう話すのを聞きながら、ハチヤはパソコンの前に置かれたオフィスチェアに座った。


「それはハイテクなんだかよく分からないな」


「こうすれば、少ない神様や天使で天国を運営出来るからね。まあ、今は天国に来れる人が随分と少なくなったけど」


「そうなの?悪い人が増えたのかしらね」


「世の中が便利になるとどうしても自然とね」


霊人はマルにもハチヤの隣で座ってもらい、自分は立ったまま、ハチヤの座るチェアの背もたれに手を掛ける。


そしておよそ1か月程前の自分が接続したモニターを覗き込んだ。



ハチヤがマウスを握り、少しパッドの上で動かすと、モニターが自動的に点灯した。画面には、北関東天国ネットワークへようこそ。わっかを読み取り機にタッチして下さいと出ている。


モニター横にデンと置かれたデスクトップパソコン。そのUSBポートには先ほどカウンターで見たのと同じ機械が付いている。ランプが緑色であることを確認し、ハチヤはわっかを近づける。


ピッ!


先ほどよりもスムーズな動き、つまんでいた指を離すと、わっかは彼の頭の上に戻った。


〈ユーザー認証完了。ユーザーナンバー、00003、ユーザー名ハチヤ。ようこそ、北関東べヴンシティへ〉


アカウント認証が済むと、そんな文章が現れ、いくつかの項目が表示された。


住まい、お仕事、イベント、お知らせ、転生手続きをする。など。


ハチヤはマウスをコントロールし、住まいにカーソルを合わせてクリックした。すると、今この天国に居住出来る建物が表示される。


コーポあさがお。住所、北関東ヘヴン2丁目1番地1号。全8戸。即入居可。家賃月30000ラニ。全部屋南向き、1R。PCなし、駐車場なし、駐輪場あり。



「ちょっとぉ。ここしかないわけ?」


マルが口を尖らせた。


「こじんまりしてるけど、市役所の真裏だから、近くていいじゃん」


ハチヤはそれなりに気に入っているようだ。


「天国なんだから、もっとこう優雅な部屋とかさぁ⋯⋯」


「優雅ってどんな?」


「それは⋯⋯雲の上でアフタヌーンティーが楽しめる庭園があるような?」


「意外にメルヘンなギャルだったんだな」


「なんですって!」


そんな様子を見た霊人が後ろから口を挟む。


「普通に賃貸するのもいいけど、前の天国の時は住居スペース付きのお店をやっていた人がたくさんいたなぁ」


「住居スペース付きの店?そんなものがあるのかい?」


「ああ、1回トップページに戻ってお仕事のところを選んでみ」


「ああ」


ハチヤは促された通りに、画面最上部の左向きの矢印をクリックし、前のページへ。今度は住まいの横にあるお仕事のバナーをクリックした。すると⋯⋯。


お仕事を探す。


お仕事を始める。


お仕事を辞める。


お仕事を始める準備をする。


という項目が現れた。


そしてお仕事を始めるを選択。始められる店、そして今出店出来るエリアが色分け表示された街の地図も一緒になって、種類ごとにズラッと表示された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る