天国にはまず娯楽が必要なはすだ。4
それを確認したヤクショは横の端末で何かカタタターン!とやって顔を上げた。
「お疲れ様でした!これで転入手続きは終了です。無事、このお天国の住人と認められたおふたりには、こちらをお渡ししますね。ハチヤさん、マルさん!後は毎月税金を収めて頂ければ結構ですので。それでは、ここからどうぞご自由に。ご利用ありがとうございました」
ヤクショはそう言ってペコリと頭を下げた。
数秒後。上がってきた顔に、早くお帰り下さいと書いてある。
「あ、あれ?もう終わり?」
「もっと説明とかないわけ?」
ハチヤとマルは全く同じレベルのビックリ顔を晒し、後片付けに入るヤクショの方を見た。
2人の視線を感じたヤクショが少し気まずそうに指で頬をかいた。
「説明と言われましても⋯⋯。後は今、お渡しした手引きに書いてありますから⋯⋯。正直、始めての業務ですので、私も色々手探りで⋯⋯。後は、霊人さんにでも聞いてみたらいいんじゃないですかね」
2人はそれぞれの手元に視線を落とす。漫画本程のサイズがあるが、たった数ページ程度しかなさそうな冊子。すぐに無くしてしまいそうだ。
表紙には、天国で楽しく暮らそう!と書かれた大きな文字。そして、雲より高い場所に浮かぶ神聖な扉に向かってラッパを吹く天使たちのイラスト描かれている。
あくまでイメージです。の文字が端に小さく書かれているのも2人は見つけたようだ。
とりあえずその冊子をめくるハチヤ。
「えー、なになに。天国には各自、一定の税金を収める必要がある以外、特にこれと決まりはありません。あなたの限界寿命が近づいたらお知らせ致します。10日に1回程度は最寄りの端末に、わっかでアクセスをしてあなた宛のお知らせがないかと確認してください」
続くように、マルが2ページ目を読む。
「天国のみならず共通して、〈ラニ〉という通貨が常用されています。日本では、おおよそ1円=1ラニです。皆さんが本来全うするはずだった寿命を限界寿命。消化しきれなかった寿命を余暇寿命といいます。余暇寿命が残り僅かになると、転生競争に参加することを義務付けられ、生まれ変わる事になります。人生査定でプラス判定だった皆様は、余暇寿命がなくなるまでこの天国で暮らすことが出来ます⋯⋯よく分からないわね」
「だな。おーい、幽霊屋君!」
役目は終えたとばかり、ヤクショはデスクに戻ってパソコン仕事。それならば振り向いたが、案内人の姿がない。
と、思って2人が辺りを見渡す。よく見るといた。
ロビーの最後方の長椅子。背もたれも肘掛けもない、木にスポンジをかませて安物の革で覆ったそれの上で寝転んでいた。
茶色のひざ掛けブランケットを拝借し体に掛け、2人が手にしているのと同じ天国の手引きを30冊程重ねて枕にしていた。
靴を脱ぎ、手元にスマホを置いて、彼のわっかはオレンジ色で淡くゆっくり点滅を繰り返させながら、仰向けにいびきをかいていた。
「おい、幽霊屋くん!幽霊屋くん!」
側までいったハチヤが2回声を掛けると、わっかがレインボーに戻った。どうやら目を覚ました模様。そして、霊人はゆっくりと首だけを彼の方に向けた。
「むにゃむにゃ⋯⋯あのなぁ、君ごときが天国に行けるわけないだろうが。舐めるなよ、幽霊屋をよ⋯⋯」
「何を寝ぼけているんだ、幽霊屋君!」
「おお、ハチヤだったか。ごめん、最近色々立て込んでいてさ。どうしたの?ふあ〜ぁ⋯⋯」
「転入手続きというのは終わったけど、それだけでこれを渡されて説明は終わってしまったよ」
ハチヤがペラッペラの冊子を指先だけでつまんでヒラヒラとなびかせた。
「転入が終わったら、次は住むところを探す感じだね。いっそのこと、何か商売でも始めるのもいいかも」
「商売ですって?あんたと眼鏡の子以外、誰もいないじゃない」
マルは不満げな様子で腕を組んだ。
「これから増えてくるよ。早いもの勝ちだよ?天国も。⋯⋯ほら、あっちに職安所があるから」
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