天国にはまず娯楽が必要なはずだ。3

「それで?2人は生きてる時はカッポーだったわけ?」


霊人がそう尋ねると、2人は顔を見合わせた。そして、ハチヤが口を開く。


「実はあんまり覚えていなくて。カッポーでなないような。でも、全然知らない人でもないような」


何処かの市役所の人が、ウェザーコンピュータなるものをいじったからだろうか。若干強く横風がなびき、ハチヤはパーカーの紐を引っ張り首元を少し締めた。


その間、マルと名乗ったギャルが小さく舌打ちをしたような表情を浮かべたのを霊人は感じ取る。


「そっかー。マルちゃんは何か覚えてない?」


「⋯⋯別に。急に言われてもわかんないし」


そう言葉を口にした時に、ハチヤの視線も感じたマル。真っ黒のジャケットを羽織り直しながら普通の表情に戻っていた。


「まあ、いきなり死んじゃったりしたら分かんないよね。とりあえず、市役所に行って転入手続きをしよう!さあさあ!」


霊人はパチンと1つ強く手を叩いた。そして市役所の正面玄関に向かって歩き出し、2人もそれに着いていく。


自動ドアの向こうでは、カウンターの中で待ち侘びて仕方ないヤクショの姿が見える。


「入ったら、あそこの眼鏡さんのカウンターでそのまま手続きしちゃってね」


「うす」


ハチヤは正面玄関の周りを眺めながら小さく返事をした。



ウィーン。


真新しい自動ドアが反応して開く。


ハチヤはジーンズにポケット付きの薄手のパーカー。ギャルはインナーの上からジャケットを羽織ってはいるが、肩とヘソはモロ出し。外で過ごすには肌寒い。


そんな中、間に風除室がある自動ドアを2つくぐった先の市役所ロビー。程よく空調が効いて静かでほのかに暖かい空間にホッとした表情を2人は揃って浮かべていた。


「ヤクショちゃーん、連れてきたよー。記念すべき第1村人のおふたり、ごあんなーい!」


「さすが霊人さん、やるぅー!さあ、おふたり様、こちらへどうぞー!」


ようやく天国公務員として初仕事だと、眼鏡の奥がウッキウキ。頭カウンターの中でピョンピョン跳ね回っているせいで、頭の上のわっかが右へ左へビヨンビヨン。


その様子をハチヤは少し眺めてから霊人に聞いてみた。


「あの人も死んでいる人?」


「もちろん。安定した職種である公務員になりたい。という夢を描きながら母の再婚相手が振るった暴力で命を落としてしまった悲しき眼鏡さんよ。協力してあげてくれ」


「お、おお⋯⋯」


想像以上のバックグラウンドに思考を失いかけながら、2人はカウンターに向かった。


市役所に初の住人がやって来た!


早る気持ちを抑えながら、ヤクショはひとつ深呼吸をした。先ほど食べたプリンの後味が広がった。


「まずは転入届を出して頂きます。とはいっても、わっかをこの読み取り機にかざして頂くだけなんですが⋯⋯。それでは早速」


カウンターの横には小さな機械が置かれていた。上部には読み取りセンサー、下部には入力パッド。まるで魔法のカードでも対応していそうなそんな代物だ。


「こ、こうですかね⋯⋯」


ハチヤは半歩後ろに下がり、深めにお辞儀する要領で、まだ不慣れな頭上のわっかを読み取り機に近づけようとする。


「ハチヤさん!人差し指と親指でつまむようにすると、顔の下くらいまでわっかを持ってこれますよ?」


ヤクショはお手本を見せた。ビヨ~ンと伸びた彼女の真っ白なわっかは、胸の辺りまで達している。


「なるほど。こうですかね」


ハチヤも真似てやってみる。全く体勢など変える必要もなく、わっかはカウンターの上に置かれた読み取り機まで楽に届く。



ピッ!!


短くやや高い電子音が鳴った。


「オッケーですぅ!それでは、彼女さんの方も」


「彼女じゃねーし」


そう反論したマルの声はやや小さめであった。


ピッ!!


同じように電子音が鳴った。

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