天国にはまず娯楽が必要なはずだ。2

眼鏡の女性は、さあどうぞ存分に褒めて下さいとでも言いたそうな顔をしている。


「勝手にそんなことしていいのかなあ」


霊人の反応はそんな様子。一応この新しい天国を出入りしている人間としての責任感のようなものを若干は抱えているようだ。


「全然大丈夫です。何故なら、この市役所は私しかいない。つまり、私が暫定トップ。すなわち、私が全てのルール!逆らえる者は誰もおりません!わーはっはっはっはっー!!」


霊人のわっかから放たれる虹色の光がうっすら反射する天井に向けて顔を上げ、両腕を広げる市役所の暫定トップとやら。


「従う者も逆らう者いないというだけの話でしょ」


そんな霊人の指摘など全く耳に入っていないくらいの高笑いがロビー中に響いていた。


「コホン。というわけで霊人さん。外に誰かいらっしゃるようですから、ここまでたどり着けるようご案内をお願いします」


「俺は君の部下じゃないっての」


霊人はそう言いながらも、正面玄関の方に向かって歩き出す。自動ドアのガラスの向こう。そこには市役所前の広場がある。白、青、緑。いくつか色の付いた正方形のコンクリートブロックが隙間なくきれいに敷き詰められている。


広場の何カ所かには、丸い盛り土がある。直径はおよそ2メートル。腰の高さくらいまで盛られた土をレンガが囲み、側には3、4人で座れそうな木製のベンチが設置されていて、高さ7、8メートル程の木々も所々にそびえていた。とはいえ、せっかくある盛り土に何か植物が植えられているわけでもなく、木々が落ちた枝や葉がそのまま。誰かが日常的に手入れをしているわけではなさそうだ。


とはいえ、太陽のようなものがあり、月もあり、空気もあり、地面もある。しかし、他はない。そんな状況でなくても、お天気さえよければ、ぼーっと座って日向ぼっこするにはちょうど良い広場に見える。


広場のちょうどど真ん中。正面玄関から進み、小さくも幅のある3段の階段を降りた。先。若い男女が2人、辺りをキョロキョロしながら立ち止まっていた。


彼ら2人が記念すべきこの天国初の住人。伝説の始まりである。


霊人が近付いてくるのを若い男女が気付く。


「よー!お疲れ様ー!」


キョロキョロしていた時よりも、さらに困惑度が増した様子の2人に、霊人はポケットから出した右手を上げながらラフに声を掛けた。


「結構歩いたでしょ?ちょっと前に、バス停設置する場所ミスちゃって。2人はカップル?天国に来たってことは、無理心中とかしたわけではなさそうだね」



「あっ、えっ?無理心中?」


整髪剤で髪の毛をツンツンヘアにピシッと整えている男。霊人の口から飛び出した難題ワードを聞いてさらに困惑した。


ヘヴンズジョークだということが相手に伝わらずに慌てる霊人。


「あはは!ごめん、ごめん。自殺とかしちゃった人は天国にそうそう来れないシステムだからさ。⋯⋯俺は繋木霊人。ここの案内人みたいな存在。普段は栃木県で幽霊屋をしているんだ。そこんとこよろしく」


霊人はそう言って右手を差し出した。


「そうなんすね。自分ハチヤです。よろしく」


(幽霊屋ってなんだ?霊媒師のことか?)


ハチヤはそんな疑問を抱きながらも、幽霊屋とやらの右手をガッチリと握った。


「そんでそちらの、素敵なギャルさんは⋯⋯?」


全然知らない男と握手などしたくない。しかし、素敵と言われてしまってはまんざらでもない。


そんな顔を覗かせた金髪ギャル。大まかに分けると白ギャルに分類される生き物。


「マル。どうも」


差し出した右手の指の爪は全て違う色。どれもツヤツヤとした深い色。よく手入れされているのが分かる。


それを目にした霊人は興味津々。


「わ〜、すごいね!ネイルってやつ?お店でやってもらってるの?」


「は?こんくらい自分で出来るっしょ」


「すごーい、マルちゃんはおしゃれさんなんだね。白お洒落ギャルだね」


「なにそれ。意味不明だから」

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