ちょいと天国までいってくる。

ぎん

天国にはまず、娯楽が必要なはずだ。

ここはいわゆる天国と呼ばれる場所である。しかし、ほとんど何もない。あるのは市役所の役割を果たす為の2階建ての四角い白色の建物と、その中に1人だけいる眼鏡の若い女性が存在するのみだ。


そこに若い男がやって来る。汽車に乗り、バスに揺られ、横風を浴びながらアスファルトだけが伸びる道を歩いてきた男。


頭の上に輪っかは付いていない。


ウィーン。


市役所の正面玄関。そこにはどういうわけか自動ドアがある。そのセンサーが反応する位置、ドアの開くスピード。入ってすぐに置かれているアルコール消毒液スタンドの場所。


全てを熟知しているその男は慣れた様子でやってきた。そして、ポケットから出した右手を広げながら、カウンターの中にいる眼鏡の女性に挨拶をした。


「おっすー」


男の存在に眼鏡の女性はすぐに気付いた。きれいに整頓されたデスクに備え付けられた椅子に、ただ座っていただけの彼女。飛び上がるように立ち上がり、カウンターに向かう。そして、お行儀良くお辞儀をして挨拶を返した。


ややつぶらな瞳と肩より少し長く伸びているだろう真っ黒なツヤツヤした髪の毛。それを淡いピンク色のふわふわした幅広のゴムで纏め、左肩から髪の先を垂らしている。


真っ白なブラウスの首元だけボタンを外し、カーディガンと膝丈ピッタリのスカートは深めの紺色で統一されていた。



「おはようございます、霊人さん!もしかして、ついに死んでしまいましたか!?」


眼鏡の女性はその奥の瞳をキラッキラに輝かせながらそう訊ねた。期待と興奮が溢れを抑えきれないといった様子だ。


それを見た霊人と呼ばれた男。彼は小さく溜息をつく。もう何回目だとウンザリした表情だ。


「だから勝手に人を殺すな。まだ死ぬような年齢じゃないっての」


「そうですか、残念です。でも、私が死んだのは、あなたくらいの時でしたからねえ。仲間が出来たかと、一瞬テンション上がったんですけど」


「人が死んだかもでテンション上げるな。それでも天国の公務員か!」


「へへへ、すみません。まぁ、ゆっくりしていって下さいよ」


眼鏡の女性はそう謝罪の言葉を口にした。しかし、仕事終わりには生クリームが乗ったプリンが待っているかのように何故だか嬉しそうだった。




「じゃあ、とりあえず。ここにいらっしゃったんで。はい、霊人さんのわっか」


彼女が使用しているデスク。カウンターに1番近い場所。そのスチールとアルミ製であるデスク脇のフック。まるでヘッドホンでもぶら下げておくかのように、霊人のわっかがあった。


彼はそれを受け取ると、頭の上に装着。すると、わっかはパッと白く点灯したあと、何故か虹色に色が変わる。流れるようなグラデーションの鮮やかなレインボーだ。


「そんで?神様は?」


「まだお見かけしたことはありませんが」


「マジかよ」



「まだ誰も居ない、これ以外の建物もない。とはいえ、ここにも、もうそろそろ住人達がやって来るのに。神様が居ないんじゃ格好がつかないでしょ。せっかくリニューアルオープンを迎える天国の街なのに⋯⋯うん」


「そうですね。あっ、でも先日、捜索願を提出して置きましたよ」


「へぇ。ちゃんと仕事してんじゃん。公務員ちゃん。で?進展はあった?」


「私が捜索を記入し、私がそれを提出し、私がそのまま受理しまして、私が付近を捜索しています。もちろん、進展などありません!」


「何が面白いの?それ」


「大丈夫です。今の時、捜索隊が2人に増えました」


「勝手に俺を数に加えるな」


「それに、ちょいとばかり作戦がありまして」


「一体どんな?」


「この建物を色々探検していましたら、とある部屋に、ウェザーマシンなるものを見つけまして。これがなんと天気を自在に操るすごいマシンだったんであります」


「へー、そんなのがあるんだ」


「現在の設定は、晴れ。最高気温24度。最低気温15度ということになっていましたので。これをちょいとばかし外で過ごすにはちょっと寒くて辛い設定に変えさせていただきまして。そうすればどこかでほっつき歩いている神様も、ひょっこりここへ帰って来るのではないかと!」

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