第151話 無慈悲なオーバーキル

 その後、俺たちは破竹の勢いで攻略階層を深めていった。

 ジェームズの前衛、エミリーの狙撃、桜の魔法、そして俺の遊撃。

 過剰戦力にも程があるこのパーティに、敵う魔物など存在するはずもなかった。


 1時間もしないうちに、俺たちはこのダンジョンの最下層――10階層に到達した。

 階段から数百メートル程の直線を進むと、ボスエリア特有の重厚な扉があった。


「よし、開けるぞ」


 ジェームズが扉を押し開ける。

 そこは広いドーム状の空間になっており、中央にはこのダンジョンのマスター、【イエロー・リザードロード】が立っていた。

 体長5メートル。黄金色の鱗を持ち、巨大な戦斧を携えたリザードマンの王。


 確かに見ようによっては黄龍……と言えるかなぁ?

 なんか無理矢理名付けた感があるが、それでも、初心者パーティなら総力を挙げて挑むべき強敵だ。


「グオォォォォォ!!」


 リザードロードが威嚇の咆哮を上げる。

 だが。


「うるさいですわ!」


 ドォン!

 エミリーの開幕ヘッドショットが炸裂し、リザードロードの兜が吹き飛んだ。

 怯んだ隙に、ジェームズが懐に飛び込む。


「がら空きだぜ!」


 ドゴォォン!

 腹部に重いボディブロー。巨体がくの字に折れ曲がる。

 そこへ、俺と桜の追撃。


「よいしょっ!」

「奔流よ、弾け——《アクア・ブラスト》!」


 俺の蹴り上げと、桜のロッドから放たれた極太の水流の叩きつけが同時に決まる。

 リザードロードは一度も武器を振るうことなく、天井まで打ち上げられ、そして地面に叩きつけられて光の粒子となって消滅した。


 一呼吸での決着。

 完全なるオーバーキルだ。


「……可哀想に。相手が悪すぎたな」


 俺は消えゆくボスに合掌した。


 ボスの消滅と同時に、部屋の奥に宝箱が出現する。ダンジョンでマスターを倒すと貰えるご褒美だ。

 一般的な探索者にとっては、マスターを倒すことで得る報酬は嬉しいものだ。

 だが、このパーティーにおいては、初心者向けのダンジョンのクリア報酬は『お土産』レベルでしかない。


 実際、宝箱の中身は【黄岩の戦斧イエロー・バトルアクス】という巨大な斧だったが、ジェームズは片手で持ち上げ「軽すぎて使えんな」とのたまい、エミリーは「野蛮ですわ。美しくありません」と拒否。桜は「重くて使えないし、斧はちょっと……」と嫌がり、結局俺に回ってきた。

 俺もいらないけど、必要とする人がいるかもしれないので持ち帰ることにする。


 俺たちの目的はそれではないわけだ。

 ボス部屋のさらに奥。

 突き当たりにある、古びた祭壇だ。


 何も知らない探索者なら、ここで引き返すだろう。

 祭壇の前には帰還用の転移魔方陣が生まれているので、わざわざ祭壇まで様子を見に行こうとする人は少ない気がする。


 だが、俺はリュックから、例の石板を取り出した。

 泥を拭い去り、鈍い輝きを放つ【深層ゲートキー】。


「ここからが本番だ」


 俺は祭壇に歩み寄り、中央の窪みに石板を嵌め込んだ。

 サイズはあつらえたようにぴったりだ。

 カチリ、と小さな音が響く。


 次の瞬間。


 地響きと共に、祭壇が左右に割れ始めた。

 石造りの床がスライドし、地下のさらに奥底へと続く、巨大な螺旋階段が出現する。


 役目を終えた石版が、ぽとりと窪みから落ちてきた。

 ——これは、持って行けということなのか。


 石版を拾い上げ、次の階層へと続くであろう螺旋階段を見やる。

 その暗闇の奥から、生温かい風と、これまでの階層とは桁違いの濃密な魔力が吹き上がってきた。


「……おいおい、マジかよ」


 ジェームズの表情から、笑みが消えた。

 彼は真剣な眼差しで、その暗闇を見つめる。


「この魔力濃度……。冗談抜きでSランクダンジョン相当の気配だぞ。

 こんなもんが、観光地の下に眠ってたってのか?」

「わたくしの肌がピリピリしますわ……。これは、只事ではありませんわね」


 エミリーも真剣な表情で銃を構え直す。

 桜もゴクリと喉を鳴らし、ロッドを握る手に力を込めた。


「どうする? 安全を考えて、ここで引き返すのも手だよ?」


 俺は一応確認する。


「愚問だな。安全が保障された冒険に、楽しみはねぇよ」

「舐めないでくださいまし。探索者たる者、未知に挑戦しないはずがないでしょう」

「行こう、ひろくん!」


 全会一致で行くことが決まった。


「じゃあ、行くか!」


 俺たちは警戒を強め、未知なる階段を降りていった。

 その先に待つのが、世界の核心に触れるものだとは知らずに。



———————— あとがき ————————


すみません……。

短いですが、キリが良いのでここまでにします。

明日からダンジョン本番です。

よろしくお願いします!

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