第150話 ミジンコではない
俺と桜が前に出る。
ちょうど、通路の曲がり角から新たな増援が現れた。
地響きと共に現れたのは、【アイアン・ゴーレム】の集団だ。
全身が黒鉄でできた3メートルの巨人。ロックリザードよりも遥かに硬く、タフだ。
物理攻撃を弾き返し、魔法耐性も高い難敵。
「げっ、ゴーレム!? あれは堅いですわよ! ジェームズ様、わたくしの徹甲弾モードで……」
エミリーが慌てて銃のセレクターを切り替えようとする。
だが、それより速く。
俺は地面を蹴った。
魔力による身体強化を発動。
意識するのは、速度のみ。
俺の視界の中で、世界の色が反転し、時間の流れが遅くなる。あるいは俺だけが加速の世界の中にいる感覚。
エミリーが瞬きをするその一瞬の間に、俺は既にゴーレムの群れの真ん中にいた。
目の前に立ちはだかる鉄の巨人。
遅い。止まって見える。
「崩れろ」
俺は手近なゴーレムの足首に、軽くローキックを入れた。
ただの蹴りではない。
インパクトの瞬間に魔力を炸裂させる、浸透勁のような一撃。
乾いた破裂音と共に、数トンの巨体が重力に逆らって宙を舞った。
鉄の足首が飴細工のようにねじ切れ、バランスを失った巨体が天井に激突して粉砕される。
それと同時に、後方から桜の凛とした詠唱が響く。
「光よ、穿て——《ホーリー・レイ》!」
桜が愛用のロッドを振るうと、空間に無数の魔法陣が展開された。
そこから放たれたのは、レーザーのような光の矢。
だが、その威力は尋常ではない。
光の矢は、鉄の装甲を豆腐のように貫通し、ゴーレムの額に書かれてあるルーン文字のようなモノ——それの最初の文字を正確に撃ち抜いた。
【死】の刻印を押されたゴーレムは、鉄屑になり崩れ落ちていく。
精密誘導。
乱戦の最中にある俺には一切かすりもせず、敵だけを殲滅していく神業的な
俺はその光の雨の中を縫うように移動し、残った個体を処理していく。
鉄板を紙のように素手で引き裂き、コアを握りつぶす。
拳が鉄にめり込む感触。硬いが、脆い。
戦闘開始から、わずか数秒。
10体のアイアン・ゴーレムは、鉄屑の山へと変わり、崩れ消えていった。
「……ふぅ。こんなもんか」
「ナイスだよ、ひろくん!」
俺は息を吐き、桜とハイタッチを交わした。
振り返ると、そこには口をポカンと開けて固まっているエミリーの姿があった。
「え……? は……?」
彼女は目をこすり、俺と崩れ消えていった鉄屑の山を交互に見ている。
銃を構えたまま、引き金を引くことさえ忘れていたようだ。
「な、何が起きましたの……?
おじさまが消えたと思ったら、ゴーレムが空を飛んで……光が飛んできて……気がついたら全滅して……」
彼女の動体視力でも、俺のトップスピードと桜の魔法展開速度は捉えきれなかったようだ。
隣で、ジェームズが愉快そうにニヤニヤと笑っている。
「言っただろエミリー。こいつらは規格外だってな。
あの速度、あの威力。正直、俺でも目で追うのがやっとだったが……。
アレで全力からは程遠いんだろ? ランクワンとはかくも恐ろしいといったところか」
ジェームズが感嘆の声を上げる。
ランク2の男からの手放しの賞賛。俺は少し照れくさくなって頬をかいた。
「いや、ゴーレムの動きが単調だったからだよ。それに、桜の援護が完璧だったから」
「むふふ。ひろくん、褒められて照れてるね。可愛い」
桜がにんまりしながらこちらを眺めてくる。
その様子を見て、エミリーはようやく我に返ったようだ。
彼女はバツが悪そうに視線を泳がせ、扇子——どこから取り出したんだ?——で顔を仰ぎながら、モゴモゴと口を開いた。
「……そ、その。ま、まあまあですわね。
わたくしの予想よりは、ほんの少しだけ……ほんの少しだけ、やるようですわね」
素直じゃない。
だが、ジェームズが「おいエミリー?」と低い声で名を呼ぶと、彼女はビクッと肩を震わせた。
「うぅ……。分かりましたわよ! 認めればいいんでしょう、認めれば!」
エミリーは真っ赤になりながら、俺と桜に向き直った。
そして、深々と……頭を下げることはなく、プイッと顔を背けたまま、蚊の鳴くような声で言った。
「……わたくしの目が、少し曇っていたようですわ。
あなたは……ミジンコではありませんでした。その……すみません、でした」
最後の言葉はほとんど聞こえなかったが、プライドの高い彼女にしては精一杯の謝罪なのだろう。
耳まで真っ赤になっているのが、なんとも微笑ましい。
「ありがとうエミリー。君の射撃も見事だったよ」
「ふ、ふん! 当然ですわ!」
どうやら、少しは打ち解けられたようだ。
——あとがき
今更ながらにカクヨムの二重山括弧に使い方を知りました。
それに伴い、技や魔法名のカッコを《これ》にし、詠唱的なものをしっかり明記していこうと思います。
以前の話もゆっくり修正していこうと思っています。いつ修正できるかは未知数ですが……^^;
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