第131話 困った時の神頼み
翌日。
朝早くから出勤してきた白雪さんは、猛烈な勢いでキーボードを叩いていた。
パソコンに向かう瞳は、黄金の円マークに燃えている。
「おはようございます、柴田さん!
緊急性の高いメール100件への返信と、今月の経費精算、あと税務署への申告準備を終わらせておきました!」
爽やかな笑顔で告げられる業務報告。
有能すぎる。
だが、出勤時間はしっかりと決めておいた方が良いな。お陰で朝早くから起こされることになった。
もっと寝られたのに……。
「あ、ありがとう。助かります」
「いえいえ! これくらい朝飯前です。
……あ、ちなみにボーナスの査定には響きますよね?」
「響く響く。超響きますよ」
白雪さんは「よし!」と小さくガッツポーズをして、再び業務に戻った。
その背中を見ながら、俺はふと冷静になった。
……これ、結構マズい状況じゃないか?
いや、仕事が片付くのは良いことなんだ。
だが、白雪さんがウチのギルドの専属になったということは、彼女もまた『当事者』になったというになる。
現在、俺は、世界中から注目されている。いや、自分で言うのも何だけど、まぁ事実としてそうだから仕方ない。
崇拝や期待だけならいいが、嫉妬、恨み、そして、利用してやろうという悪意も相当数向けられているはずだ。
王獣の牙やバチカンで尻尾切りになった残党、利権を侵害された企業、俺の力を危険視する国家機関など、敵は星の数ほどいる。
……つらい。
俺はただまったりしたいと思っているだけのに、なぜこんなに敵が増えているんだろうか。
例え敵がちょっかいを出してきても、俺自身はどうとでもなる。
だが桜や白雪さんは、どうだろうか。
一応、プロテクト魔法を付与したペンダントを渡してあるし、いざとなれば俺が駆けつける。
ただペンダントは万能ではない。
大河原の時の蜥蜴怪物やサンダー・ベルのように、強力な攻撃では破られるリスクはある。
それに俺が留守中で、駆けつけるまでに時間がかかるところにいたら?
ペンダントだけでは心許ない。
もっとこう、能動的に動いて、敵を撃退してくれる『番犬』のような存在がほしいな。
それも、24時間365日、文句も言わずに働いてくれる、絶対的な強者。
そんな都合のいい存在が、どこかにいないものか。
そういったスキルやアーティファクトがあればいいんだけれども。
俺はコーヒーを飲みながら、つけっぱなしにしていたテレビに目を向けた。
テレビでは七つの金色の珠を集める、冒険活劇が放映されていた。
「……あ、いたわ」
灯台下暗し。
ウチの庭には、世界最強の魔物? が住んでいるんだった。
餅は餅屋。
ダンジョンのことは、専門家に聞けば良いじゃないか。
◇
なんだか久しぶりに来た気がするな。
瀬戸岩市にある俺の家。
白い壁がオシャレな半平屋の家屋とそこそこの庭がある、我が城だ。
ここ最近は生活の場が【空飛ぶ大福】ギルド拠点になっているため、こっちにはほとんど寄りついていない。
人の住まない家は朽ちるのが早いと聞いたことがあるので、ADAの伝手でお願いした人材派遣サービスで、風抜きをしてもらっている。
光魔法の応用で《
これで姿を消した俺は、こっそりと我が家の庭に忍び込んだ。
我が家に忍び込むってどういうことだよ、と思わないでもないが、面倒くさいことに我が家はまだいろいろな人に見張られている。
ぱっと見でも十数人は怪しいヤツがいる。
みんな暇人だなと思いながら、庭の中央にあるはずの【
形は見えないが、うっすらと魔力の膜があるのが分かる。
周囲の視線がこちらにないことを確認し、俺はその歪みへと足を踏み入れた。
視界が一瞬で反転する。
見慣れた庭から、黒光りする
相変わらず、荘厳で重苦しい空気が漂っていた。
その空間の中央に、ソレはいた。
『……む? ……ヒロユキか?』
全長数十メートルに及ぶ巨体。
白銀に輝く鱗と、神々しいまでの威圧感と圧倒感。
このダンジョンの
【始祖たる神龍】だ。
かつて俺が初めてダンジョンに入った時に出会い、なぜか和解した——というか、俺のステータスにビビって服従した——神の名を冠する魔物である。
こうして改めて相まみえると、目の前の存在が、違和感の塊であることに気づく。
なぜ、人語を解し、高度な知性をもっているのか。
なぜ、ダンジョン側からすれば侵入者であるはずの俺を、討ち滅ぼそうとしないのか。
なぜ、このダンジョン内でじっとしているのか。
食事とか排泄とかどうしていうのか。
気になることは多々あるが、おそらく聞いても情報統制とやらで教えてもらえないだろう。
真相は闇の中だ。
「お疲れ様。元気してたか?」
『おお! 久しいな! まさか再び顔を見せるとは思わなんだぞ!』
「久しいって言っても、まだあれから一、二ヶ月なんだけどな」
神龍は嬉しそうに尻尾を振った。なぜか俺に懐いている……のか? ただ寂しかったのか?
どういう理由にせよ、尻尾の風圧だけで俺の髪が逆立つ。
『どうしたのだ? また儂を脅しに来たのか?』
「いやいや、そんな野蛮なことしないって。今日はちょっと相談があってな」
俺は岩場に腰掛け、ここ最近の出来事を話した。
強大なステータスを手に入れ、呪いを滅し、絡んできたギルドを半壊させ、宗教国家と喧嘩したこと。
そして、守るべき仲間が増えたこと。
神龍はなかなかの聞き上手で、「ほうほう」「なんと」「お主の世界も飽きないのう」と、退屈しのぎの漫談を聞くように楽しんでくれた。
『なるほどな。お主、無茶苦茶な生き方をしておるわ。
神の如き力を持ちながら、小市民的な平穏を望むとは。矛盾も極まれりだな』
「そうかなぁ……そうなんだろうなぁ。で、その平穏を守るために、お前に頼みがあるんだ」
俺は本題を切り出した。
「ウチの留守番と、仲間の護衛をしてくれるボディガードが欲しいんだけど、そういうスキルとかアーティファクトって存在しないのかな。ADAや政府が陰ながら警備してくれてるらしいけど、正直それだけだと不安だからさ。
神龍さん、ダンジョン側の存在でしょ? それ系に詳しいかなぁと思って」
『ふむ……護り手か。それならば【召喚】スキルや【使い魔】スキルなどがあるが……』
「召喚に使い魔」
神龍は長い髭を揺らして考え込んだ。
『だが、【召喚】は適当な存在を呼ぶのに手間暇がかかるだろう。【使い魔】に至っては所詮は魔物よ。お主の世界に馴染むのは難しかろう。
お主の望む『一日中張り付き』で『目立たず』、かつ『絶対的な強さ』を持つとなると……』
「やっぱり難しいよね?」
『いや、手はあるぞ——』
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