第121話 現代のプロメテウス

 ギルド『空飛ぶ大福』公式サイト。

 それは、俺がギルドを立ち上げた際に「一応形だけでも」と思って作った、簡素なウェブサイトだ。

 

 だってどのギルドも公式サイトがあるからね。

 俺は結構形から入るタイプだったりする。


 ただ、そんなにwebサイト構築のスキルがあるわけでも、目的があるわけでもない。

 なので、機能は極めてシンプルだった。


 ・ギルド概要(俺と桜の紹介が当たり障りのない文章で数行あるだけ)

 ・お問い合わせフォーム(仕事の依頼用だが、今はスパムの嵐だ)

 ・オークション会場へのリンク(ADAのシステムと連携したもの)


 基本的には、俺のドロップ品が出るオークション開催時以外は、閑古鳥が鳴くようなサイトだった。

 サーバーも、月額数百円の格安レンタルサーバーだ。

 だがきっと、数時間後、数日後には、このサイトは世界中からのアクセスが集中し、悲鳴を上げる――はずだった。


「……よし」


 俺はスマホを介し、自身のスキル【全てはあなたの心のなかにある】を発動させる。

 対象は、このサイトをホストしているサーバーの「処理能力」という概念ステータス


 だいぶこの力に熟れてきているからだろうか。

 サーバー最大同時接続数、データ転送帯域といった、電子データのステータスすら変更ができるようになってきていた。


 物理的なスペックを無視した、概念的な強化。

 これで、たとえ世界中の人間が同時にアクセスしても、このサイトが落ちることはない。

 バチカンがサイバー攻撃を仕掛けてこようが、蚊ほどの影響もないだろう。


 さらに、今まで秘蔵にしていた——と言えば聞こえは良いが、実際は蔵の肥やしにしていたページを開く。


「ひろくん、本当にやるの? あれを」


 桜が覗き込んでくる。

 彼女の言う「あれ」とは、先ほど公開した【聖女の薬草学書レシピ】のことだけではない。


 以前、俺たちはこんな話をしていた。

 俺の【解析】スキルを使えば、世に出回っているアーティファクトやスキルの隠された効果や正しい使い方が分かる。


 ADAが公開している情報は不完全なものが多く、間違った使い方のせいで命を落とす探索者も少なくない。

 価値があるものなのに、不当評価を受け安く買いたたかれたり、あるいは逆に過大評価を受けている例もあった。


 だから、いつか俺の解析データをまとめた「攻略データベース」を作って、公開しよう。

 そうすれば、多くの探索者の助けになるはずだ。

 名付けて【大福ライブラリ】。


 だが、それは実現していなかった。

 理由は単純。影響力が大きすぎるからだ。


 情報屋の仕事を奪うことになるし、情報の信憑性を証明する手段もなかった。

 誰かの評価を奪うかもしれないし、それによって人生を変えてしまうかもしれない。


 だから公開する情報はできるだけ絞り、およそ誰にとってもメリットしかないであろう情報だけにするつもりだ。

 とは言え、いきなり無名のギルドが「真実はこれだ!」と言っても、誰も信じないだろう。


 ――だが、今は違う。

 世界中が俺に注目している。

 悪魔としてではあるが、多くの人が俺の一挙手一投足を見ている。


 このタイミングで、圧倒的に正確な真実をばら撒けばどうなるか。

 最初は疑うだろう。だが、検証されればすぐに分かる。

 俺の情報が、ADAの公式発表よりも、バチカンの教義よりも正しいということが。


 【聖女の薬草学書レシピ】という劇薬を信じさせるには、その周りを有益な真実で固める必要がある。

 これは、そのための大規模な種まきだ。


「やるよ、桜。

 二人で大丈夫って結論づけた情報は、全部公開する。

 俺たちが『悪魔』じゃなくて、ただの探索者だってことを証明するために」


 俺は準備していたデータをアップロードする。

 まずは、これまで解析してきた数十種類のアイテムやアーティファクト、モンスター、スキルの詳細なデータベースだ。


 ADAや大手ギルドですら把握していない情報まで網羅した、世界最強の攻略本。

 もちろん隠した方が良い情報は非公開のままだが、これだけでも十分インパクトと有益性はあるだろう。


 そして、そのトップに、特大の爆弾を据えたわけだ。


 タイトル:

 【重要なお知らせ:聖女の薬草学書について】

 本文:

 【世界中の探索者の皆様へ。

 どこかの誰かが神の奇跡と呼んでいるものについて、技術的な解説を公開します。

 これは魔法でも奇跡でもなく、誰にでも再現可能な技術です。

 必要なのは、ダンジョンに自生する薬草と、綺麗な水、そしてほんの少しの魔力だけ。

  

  以下に、その全レシピと作成手順を、完全無料で公開します。

  特許も著作権も主張しません。自由に使って、大切な人を救ってください】


 添付ファイル:【portion.pdf】


 こうして、世界に向けた、俺なりの反逆の狼煙が上がったわけだ。

 それは暴力ではなく、圧倒的な真実による、神殺しの一撃だった。


 『送信完了』


 その文字が表示された瞬間、俺の手元から放たれた情報という名の弾丸は、電子の海を駆け巡り、世界中に着弾した。

 そして、世界が動き出した。

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